歴史的提携

 PGAから驚きのリリースが出たのが昨年11月末だった。提携の中身は、欧州ツアーのメディア関連制作会社の株式を一部PGAが所有することをはじめ、国際的な放送権の分野で協力したり、国際的な試合スケジュールや選手の出場資格のカテゴリーで協調していったりするというものだ。

 今回の発表のタイミングは、一つには新型コロナウイルスの影響がある。試合が取りやめになったり、無観客での開催になったりして大打撃を受けた両ツアー。ただPGAは2022年にスタートする新たな放送権契約を結んだことを公表しており、規模は9年で総額70億㌦(約7300億円)にも上った。この他にも別口で放送権料が入る手だてを持っている。これに対し、コロナ禍による欧州ツアーの台所事情の悪化は深刻との指摘があり、両ツアーの格差は広がる一方だった。

 関係者によると、今回はPGAが手を差し伸べたとの見方ができる。欧州ツアーのキース・ペリー会長は「ゴルフ界にとってまさに歴史的な出来事。PGAと手を携え、男子プロゴルフの発展に向けて一緒に取り組んでいける絶好の機会を迎えた」と手放しで喜んだ。そしてもう一つ見逃せないのが、PGLへの対抗措置という観点だ。

F1スタイル

 日本ではさほど報じられなかったが、昨年の序盤、欧米のツアー会場で話題になったのがPGL構想だった。中心的な役割を果たしているのが米投資会社。PGL最高幹部のアンディ・ガーディナー氏によると、サウジアラビアのファンドなど60以上の出資者を確保しているという。早ければ2022年からスタートさせたい意向を示している。

 試合方式は自動車レース、フォーミュラワン(F1)と同じようなスタイルで、個人と団体のタイトルを想定。トップクラスの48選手を集め、1チーム4人構成で12チームに分かれ、全18試合で争う。試合予定地は10試合が米国で一番多く、アジアでも3試合で、1月から8カ月をかけてシーズンを展開。最初の17大会は1試合につき賞金総額1千万㌦(約10億4千万円)、最終戦は4千万㌦(約42億円)と巨額を用意している。

 世界的に男子プロゴルフ各ツアーの一般的な大会では、4日間72ホールのストロークプレーで優勝が決まる。歴史あるツアー方式に挑戦的なこの新たな組織に対し、PGAツアーのジェイ・モナハン・コミッショナーは早々に「選手たちはPGAとPGLの両方のメンバーになることはできない」と掛け持ちを禁じ、選択の必要性を説いた。

反応さまざま

 選手の反応はさまざまだ。先陣を切ってPGLへの態度を表明したのが、元世界ランキング1位の強豪、ロリ-・マキロイ(英国)だった。「自分は自立性や自由であることに価値を置いている。でも新しいリーグにはそれがなさそうだ。ひとたびお金をもらうと、プレーする場所や日取りを拘束されてしまう。考えれば考えるほど、いいとは思えない」と話し、PGLへの参戦を拒否した。ジョン・ラーム(スペイン)、ブルックス・ケプカ(米国)らも同様の姿勢を取っている。

 対照的にフィル・ミケルソン(米国)は新リーグに興味を持っているとされる。アダム・スコット(オーストラリア)やヘンリク・ステンソン(スウェーデン)もPGL構想を評価。PGL側が既に、名だたる選手たちに招待文書を送っていることが英メディアで報じられている。タイガー・ウッズ(米国)や松山英樹についても気になるところだ。

突きつけた「ノー」

 PGL側が欧州ツアーに協力を打診したことも明らかになっている。この際、欧州側は「2020年の試合日程を消化し、21年に向けて関係者の安全を守っていくことが現在の最優先事項だ」とかわした。時が流れてPGAとのタッグを選択したということは、明確にPGLへ「ノー」の返事を突きつけたに等しい。

 スケジュール面を含め、今のままでは既存ツアーとトップクラスが参加してのPGLの両立は考えにくい。PGLを現実的に始めるには、金銭の力に頼って選手を引き抜くのか、現状に即して柔軟にフォーマットを変えていくのか。サッカーのイングランド・プレミアリーグなどをはじめ、世界のスポーツ界に浸透しているオイルマネー。ゆくゆくは日本ツアーにも影響を与えそうな海外の大きなダイナミズムなだけに、新型コロナ禍が続く2021年も目が離せない。


VictorySportsNews編集部