放映権料

 資産価値で1位となったのは米プロフットボールNFLの名門、ダラス・カウボーイズだ。6年連続でトップの座をキープし、その額は推定57億㌦(約6300億円=1㌦110円換算)に上った。2位は米大リーグの球団で日本でもおなじみのニューヨーク・ヤンキース。かつては松井秀喜、田中将大も在籍した伝統あるチームで、資産価値は52億5千万㌦だった。3位にランクインしたのは米プロバスケットボールNBAでニューヨークに本拠地を置くニックスで、50億㌦と試算された。

 ここまでは北米の四大プロスポーツから輩出され、次にサッカーのビッグクラブが続く。4位は世界的ストライカーのメッシを擁するバルセロナ(スペイン1部リーグ)、5位には同じリーグでライバルとして競い合っているレアル・マドリードで、それぞれ47億6千万㌦、47億5千万㌦だった。

 数字はフォーブス独自の算出方法で出され、営業収益や関連施設の価値などを総合的に勘案している。上位50チームの内訳をみるとNFLが26チームとダントツでNBAとサッカーが9チームずつ、大リーグが6チーム。北米プロアイスホッケーのNHLや日本のチームは入っていなかった。この50チームは昨年比で平均9.9%アップの34億㌦と算定された。コロナ禍にもかかわらず上昇した大きな要因は、巨額な放映権料だった。例えば、米国で絶大な人気を誇るNFL。米メディアによると、3月に新たな契約締結を発表し、2023年シーズンから2033年シーズンまでの期間で年平均100億㌦となり、従来に比べて80%もアップする。初めてストリーミング会社も取り込んだという。

価値向上

 ランキングには時代の流れが反映される。かつてはサッカーがけん引していた頃があった。2014年には1位にレアル・マドリード、2位バルセロナ、3位にマンチェスター・ユナイテッド(イングランド)と欧州のクラブが3位までを独占した。翌年にはレアル・マドリードが3年連続で1位に就き、評価額は32億6千万㌦。当時はエースのクリスティアーノ・ロナウドらを抱えていた。ちなみにカウボーイズはこの年、32億㌦でヤンキースと並び2位。そして翌2016年に首位となり、それ以降譲っていない。

 世界的に競技人口が多くて人気の高いサッカーに対し、アメリカ国内を中心に人々の心をつかむカウボーイズ。日本では街中でヤンキースのキャップをかぶっている人がいたり、サッカー少年たちがバルセロナのユニフォームを着ていたりする光景があり、なじみは深い。それゆえに、カウボーイズのトップに日本では実感が湧きにくい面があるが、経営上の優秀さは確かなものがある。

 1960年にチームが創設されると、現在のオーナー、ジェリー・ジョーンズ氏が買収したのが1989年。このときの購入額が1億5千万㌦というから、今では38倍に大きく成長させた。1970年代の強さなどから全米で人気が根強く、「アメリカズチーム」と呼ばれることもある。昨年にはビール会社と10年で1億8千万㌦と推定される個別のスポンサー契約を締結。この他、本拠地AT&Tスタジアムは10万人収容で、グッズ販売などのマーケティングやeスポーツへの出資など多方面で事業を展開。NFL王者を決めるスーパーボウルへの進出は、5度目の優勝を果たした1996年を最後に遠ざかっているが、勝敗以外の面ではいろいろな方策で自らの価値を高めている。

好循環

 NFLは全32チームのうち、資産価値ランキング50位以内に26チームが入るなど、リーグ全体としての健全性が光る。これは、各テレビ局との放映権契約をリーグ一括で結んで各チームに分配する他、年俸総額上限を定めたサラリーキャップ制などの徹底で一部のチームに戦力が偏ることを阻止し、常に面白いシーズンを提供してファンを飽きさせない工夫をしているのが奏功。結果的に視聴率が高いレベルで維持され、放映権料となって各チームに還元されるという好循環に入っている。

 本拠地のAT&Tスタジアムは最近、カウボーイズ以外のトピックで関心の的となった。5月8日にボクシングの世界タイトルマッチが開かれ、全階級を通して現役最強の呼び声高いサウル・アルバレス(メキシコ)がビリージョー・サンダース(英国)にTKO勝利を収め、スーパーミドル級の3団体統一を果たした。ワクチン接種の進んでいる米国。この日は7万3千人あまりの大観衆が会場に詰め掛け、新型コロナのパンデミック以後では世界最大級のスポーツイベントとなった。主催者によると、1978年にムハマド・アリの試合でマークした約6万3千人を抜き、米国での屋内ボクシング興行の最多観衆記録を更新。カウボーイズのジョーンズ・オーナーも球場で観戦したといい、こうした時代を先取りした動きも、ブランド力向上とは無縁ではないだろう。

 新型コロナウイルス禍の収束は見えにくいが、逆境を乗り切るには、何とか破綻に陥らないことが不可欠。ローマ帝国やフランス革命など、世界史の興亡を財政面から分析した「帳簿の世界史」(ジェイコブ・ソール著)では「本書でたどってきた数々の例から何か学べることがあるとすれば、会計が文化の中に組み込まれていた社会は繁栄する、ということである」と会計運用の大切さを指摘している。国々によって、また競技によってマーケットの有り様は異なるが、トップクラスの組織を研究してみると何か参考情報が隠されている可能性がある。

高村収

著者プロフィール 高村収

1973年生まれ。1996年から共同通信のスポーツ記者として、大相撲やゴルフ、五輪競技などを中心に取材。2015年にデスクとなり、より幅広くスポーツ報道に従事