今夏にBリーグの島田慎二チェアマン(50)から直接電話で要請を受けた。日本サッカー協会の田嶋幸三会長(63)、Jリーグの村井満チェアマン(62)に相談すると「サッカー界も曲がり角に来ているので、色んな新しい情報がほしい」と背中を押されたという。岡田氏は「(田嶋会長から)“お前バスケに行くのか”と言われるのが嫌だったので一応、確認したら“是非やってくれ”と言われた」と明かした。
岡田氏は言わずと知れたサッカー界の名将。日本代表が初出場を果たした98年W杯フランス大会を含む2度のW杯を指揮し、10年W杯南アフリカ大会では16強進出に導いた。Jリーグでも横浜を率いて2度のリーグ制覇を経験。中国リーグ杭州緑城の監督などを経て、14年からはFC今治のオーナーとして奮闘中だ。「25年までに常時J1で優勝争いできるチームにする」を目標に掲げ、就任当時は地域リーグに所属していたクラブを現在J3まで押し上げている。
FC今治のオーナー就任当初は集客やスポンサー獲得に苦戦。仕事後に夜の街に繰り出して現地に友人、知人をつくる地道な活動からスタートした。現在は今治造船などの地元企業や、ユニ・チャーム、三菱商事などの県外に本社を置く企業、合わせて300社以上とスポンサー契約を結ぶ。看板などの露出への期待ではなく、理念に共感、賛同するパートナーが多い。そのためコロナ禍でもスポンサー契約を解除した企業は少なく、ダメージは最小限に抑えられた。
バスケ界との繋がり
16~18年には日本サッカー協会の副会長も務めたサッカー界の重鎮だが、過去にもバスケ界との繋がりはあった。現場で指揮を執っていた頃は「バスケの戦術はサッカーにすごく役に立つ」と米NBAの監督経験者の本を読みあさり、戦術や人心掌握術を研究。FC今治のオーナーに就任後はBリーグの複数の関係者が岡田氏の実践する指導法を勉強に訪れている。
岡田氏自身も「Bリーグが始まって、サッカーにはできないファンサービス、マーケティングがあるというので、広島ドラゴンフライズの試合に何試合か行って勉強した」とB1広島の試合に足を運んだ。一時はBリーグを真似て、FC今治のホームゲームでスタジアムDJによる試合の解説を導入。「観客から“うるさい”と言われて、サッカーでは全然合わなかった」と冗談交じりに振り返るが、バスケ界からヒントを得て様々な取り組みを行ってきた。
Bリーグの初代チェアマンは元日本サッカー協会会長、Jリーグ初代チェアマンの川淵三郎氏(84)で、15~16年には日本バスケットボール協会会長も務めた。Bリーグ2代目チャアマンの大河正明氏(63)も過去にサッカー界で要職を歴任しており、バスケ界とサッカー界の関係は深い。
2期目を迎えるBリーグの島田チェアマンは「岡田さんは今治で経営者として様々なことにチャレンジをされている。地方創生、クラブ経営、育成、強化についてお力添えをいただきたい。他競技どうこうは意識していない。結果を出されている優れた方をお迎えしたいと考え、それがたまたま岡田さんだった」と起用理由を説明。「色々なご意見を活発にいただける理事会、皆様の知見をしっかり吸収できる理事会にしたい。“物言う株主”という言葉がありますけど、“物言う理事”であってほしい」と期待を込める。
岡田氏はFC今治のホームタウンで、環境教育、野外体験学習、地域創生などサッカーの枠組みを越えた社会活動に取り組んでいる。現在チームはJ3で大きく黒星が先行し、下位に低迷。Bリーグ理事への就任が発表されたのは、くしくもFC今治の今季2度目の監督交代が発表された日でもあった。新理事発表会見では「監督を変えてバタバタしていたので、こっちに集中できていなかった」と苦笑いした上で、トレードマークの眼鏡の奥の瞳を輝かせた。
「僕が今治でやっていることは、プロサッカーチームの運営を越えているつもり。地方創生というよりも、新しいコミュニティーを作ることに取り組んでいる。コロナ禍でスポーツの価値はある意味で上がった。露出ではない価値、みんなを元気にするといったところに、多くの人が気づいた。それをいかにマネタイズしたり、経営に生かしたりしていくか。そういうチャレンジでお役に立てると思っています」