感じた「高津流マネジメント」。注目選手は

「全体的に緩やかな感じはしますよね。それはなぜかっていうと、オフの期間が極端に短かったんです。たぶん高津さんがその辺を考えて、全体的な練習時間を短くしてその分、自分たちのやりたい練習に時間を取るっていう、例年とは違う調整をしているのかなと思いました」

 新型コロナウイルスの感染状況を鑑み、昨年はキャンプ取材を見合わせたという五十嵐氏にとって、ヤクルトのキャンプ地であるANA BALL PARK浦添を訪れるのは、現役引退後初めて。一昨年までは自身も汗を流していた思い出の地で、あらためて感じたのは「高津流マネジメント」だった。

「もちろん全体練習は大切なんですけど、あまり長いと他の練習にも影響するんです。それは避けたいから、省けるところは省いてシンプルにして、自分たちの(個別)練習時間に充てましょうっていうことですよね。その方が無駄な疲労はないと思いますし、ケガ人を出さないようにっていうことを第一に考えて、今みたいな練習の流れになってるのかなっていうのが伝わってきますよね」

 選手の中でも特に注目したのは、やはり投手陣。一緒にプレーした仲間も数多くいるが、まず言及したのはドラフト1位で入団して3年目を迎える20歳のエース候補、奥川恭伸だった。

「久しぶりに見たんですけど、体が大きくなってましたね。去年はシーズン中、登板間隔が10日あったことで、最初の5日間である程度トレーニングをして、残りの5日間で調整ができた。ただ単に疲れを取る10日じゃなくて、どちらかといえば体を強くするための10日間だったんですよ。急に大きくなると動きにも影響するんですけど、奥川の場合は年間かけて5、6キロ体重が増えてるので、良い増え方をしてるんですよね。本人には冗談っぽく『15勝頼むよ』って言ったんですけど、それくらいやってもらいたい選手です」

 奥川はドラフト1位で入団した2020年はファームでじっくりと育てられ、2年目の昨シーズンは1軍で常に10日ほどの間隔を空けながら先発してチームトップタイの9勝をマーク。クライマックスシリーズ、日本シリーズでは“開幕”マウンドを任され、大舞台でも堂々たるピッチングを披露した。ただし、五十嵐氏が期待を寄せているのは奥川だけではない。

「ケイジ(高橋奎二)なんかはもともと能力のあるピッチャーではあったんですけど、それを発揮できるようになりましたよね。ジュリ(原樹理)もそう。金久保(優斗)も出てきたし、もちろん奥川もそうなんだけど、ある程度、先発で計算できる若いピッチャーが増えてきた。小川(泰弘)や石川(雅規)のような中堅、ベテランも若い選手に負けないぐらいの気持ちであったり、技術だったりっていうのがあるので、バランスはすごく良いんですよ」

 野手に目を向けると、若き4番の村上宗隆は新型コロナウイルス感染の影響により、五十嵐氏の取材時は宮崎・西都の2軍キャンプで調整していたものの、2月19日から1軍に合流。初実戦となった22日の東北楽天ゴールデンイーグルス戦では、いきなりホームランを放ってみせた。自身4度目のトリプルスリーを狙うキャプテンの山田哲人や、昨年はトップバッターに定着した塩見泰隆、今年からOBの古田敦也氏が現役時代に背負った27番を継承している中村悠平らも、順調に調整を続けている。

「バッターはある程度、計算ができますよね。村上もここまで結果を残したらこの先、大きく崩れるっていうのは考えにくいですしね。あとはベテランの青木(宣親)とかがどれくらいやれるかっていうところと、下位打線がどう上位に繋げるかっていうところが大事になってくると思いますね」

リーグ連覇、そして2年連続日本一へ―。鍵となるものは

 日本一になった昨年と比べても、今年のヤクルトには大きな戦力ダウンはない。そうなると期待されるのは、野村克也監督時代の1992、93年以来のリーグ連覇、そして球団初の2年連続日本一だが、その鍵を握るものとは?

「やっぱり中継ぎ、抑えですね。今年は延長12回までなので、去年のような逆算ができないんですよ。そうなると中継ぎの数が必要になってくるし、圧倒的な抑えも必要ですよね。先発はある程度、計算ができると思うんで、リリーフがカギになってくると思います」

 昨年はシーズン途中から抑えに回ったスコット・マクガフの前を、セットアッパーの清水昇、今野龍太が固め、不調のために守護神の座を明け渡した石山泰稚も終盤は復調。基本的に彼らが“勝利の方程式”を構築し、後半戦は展開によってアルバート・スアレス(今季は韓国に移籍)や左腕の田口麗斗といった先発からの転向組が、そこに加わった。

「(昨季72試合登板の)清水は疲れがどうなのかなっていう心配があったんですけど、ブルペンを見てもすごく良い球を投げてました。石山も投げてるボールの強さとか、フォームの安定感を見ると、今年に懸ける思いの強さというのを感じましたし、マクガフが(新型コロナウイルス陽性で)出遅れてる分、何かあればそこ(抑え)を狙っていくぐらいのモチベーションでやってると思います」

 ただし、延長戦なしの特別ルールが適用された昨年と違い、今年のプロ野球は延長12回制で行われる予定になっている。展開によっては延長戦を見越した起用が求められ、それに見合う“手駒”もその分だけ必要になってくる。

「計算できる中継ぎがもう2、3人いれば、どこかが崩れた時に誰かがフォローできるし、延長になってもある程度、安心して行かせることができる。そこは大下(佑馬)だったり梅野(雄吾)だったり、大西(広樹)、星(知弥)とか、その辺の働きがカギになるような気がしますね」

 今季のオープン戦初戦となった2月26日の楽天戦。ヤクルトは先発マウンドに上がって3イニングを投げた梅野を筆頭に、石山、今野、清水、坂本光士郎、大下、杉山晃基と、今季もブルペンを担いそうな7人のリレーでノーヒットノーラン達成と、幸先の良いスタートを切った。そんな古巣に対する、五十嵐氏の今シーズンの予想はー。

「正直なところ、去年はあまり期待しないでいたら優勝したんで、今年もあえて予想は4位ぐらいにして、それで1位になってくれないかなという思いはあります(笑)。ただ、選手はやっぱり連覇を目指すべきだと思います。勝ちを求めて、それで勝てるチームが本当に強いチームだと僕は思っているので、そこはしっかり連覇するんだという気持ちでシーズンを戦っていってもらいたいですね」

 そう言えるのは中継ぎとして2001年のヤクルト日本一を支えただけでなく、福岡ソフトバンクホークス時代にリーグ連覇も日本シリーズ連覇も経験した五十嵐氏だからこそ。黄金時代といわれたあの1990年代でも、ヤクルトがリーグ連覇を達成したのは1度だけ。「勝ちを求めて勝てるチーム」になれたなら、その暁には新たな黄金時代が訪れるかもしれない。


菊田康彦

1966年、静岡県生まれ。地方公務員、英会話講師などを経てメジャーリーグ日本語公式サイトの編集に携わった後、ライターとして独立。雑誌、ウェブなどさまざまな媒体に寄稿し、2004~08年は「スカパー!MLBライブ」、2016〜17年は「スポナビライブMLB」でコメンテイターも務めた。プロ野球は2010年から東京ヤクルトスワローズを取材。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』、編集協力に『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』などがある。