斎藤は小学生たちと一緒に特別授業を受け、服を通して行える社会貢献活動について学んだ後、視覚障がい者向けの買い物サポートプログラムを体験した。

授業の冒頭で「今日は僕の大好きなユニクロさんとサステナビリティについて勉強したいと思っています」とあいさつし、小学生たちと並んで芝生の上に座って特別授業に参加。「全国のユニクロが各店舗に箱を設置し、服を集めているのはなぜか分かりますか?」という講師からの問いかけに「服を入れて、その服がまたリサイクルされたらいいなっていう箱じゃないかなと思いました」と回答した。

ユニクロが服を集めているのは持続可能な開発目標SDGs(エスディージーズ)の12番目の目標である「つくる責任 つかう責任」を達成するための取り組みで、豊かな生活を続けていくためにはつくる側とつかう側の両方で持続可能な方法を見つけていくことが大切であるという説明に真剣に耳を傾けた。

「皆さんはどうして服を着るのでしょうか?」という問いかけには、「やっぱり自分をカッコよく見せるためですかね」と回答。服には体を温めたり日差しから肌を守ったりする命を守る力と、自分の個性を表す力があることも学んだ。

授業の最後には自分が着なくなったユニクロの服をリサイクルボックスに入れ、「地球をみんなで守るために、僕たちもやらなくちゃいけないことがたくさんあるんだなというのを感じました」と感想を述べた。

「これからの活動に向けて、今日の授業で何かヒントになることはありましたでしょうか?」という問いかけには、「僕たち野球選手としては、やっぱり多くの人たちに長く野球を楽しんでほしいので、グローブとか、ボール、バットを何かサステナビリティに活用できないかなということは考えています」と締めくくった。

この特別授業の様子をインスタグラムに投稿した斎藤は、次のようなコメントを添えた。

「グローブ、バット、ボール、ユニフォームなど、さまざまなアイテムを用いる野球のより良いありかたを考えさせられる機会になりましたし、多くの人が長く野球を楽しめる『野球未来づくり』のヒントもいただきました」

「特別授業のあと、視覚障害者向けのお買い物サービスも体験してきました。株式会社斎藤佑樹は小さな会社ですが、企業として社会とどんな関わりをしていくべきかをもっと勉強しなければ。そんな思いに駆られる、とても貴重な一日でした」

コメントの中にある「野球未来づくり」とは、2021年12月10日に株式会社斎藤佑樹のホームページを開設した際、自らの思いを綴った文章のタイトルとして掲げられている言葉である。

「プロ野球のマウンドに、立ち続けることはできなかった。けれど、野球を通じて誰かの力になろうとめざす日々を、これからも続けようと思う。自分が野球人生で感じてきたことを、野球の未来につなげていく。できることから、少しずつでも、そのためのアクションを起こすこと。さまざまな人と力を出しあい、さまざまな人に知恵をもらいながら。まっすぐ、まっすぐ、想いを投じていきたい」

この文章を読んでも斎藤が具体的に何をやりたいのか今一つ分からないところがあったが、2022年に入ってからの斎藤の活動を見ていると、その方向性が何となくつかめてきた気がする。

斎藤は今回のユニクロのイベントをはじめ、インスタグラムに投稿しているのは「野球以外の競技に触れることで視野も広げられるんじゃないか」と初挑戦したスノーボードの動画、キリン一番搾りのCMに松坂大輔と共演した動画、カメラ・写真雑誌「CAPA」(キャパ)の表紙に起用された画像など、野球とは関係ない内容も多い。

だが、キリンのCMで松坂に「これからの夢って何があります?」と質問し、「野球場をつくりたいんだよね」という答えを聞くと「それ僕も一緒なんですけど」と返答するなど、「野球未来づくり」の具体的な内容を想起させる発言もしている。野球以外に触れることで知見を広げ、それを野球の未来につなげるのが自分の役割であると考えているようだ。

野球は人気スポーツだが、少年野球の競技人口は減少しており、将来的に持続可能なスポーツかどうか危機感を抱いている人もいる。斎藤は他のジャンルの人たちと積極的に関わり合うことで野球の未来を変えようとしているのではないか。

その成果が実を結ぶのは10年後、20年後になるのかもしれないが、斎藤はまだ33歳。野球人生よりもはるかに長い企業経営者人生を歩み出したばかりだ。プロ野球のマウンドに立ち続けることはできなかったかもしれないが、企業経営者として野球界の第一線に立ち続ける姿を期待したい。


保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。