ゴルフ業界はこのところゴルフのイメージがあまりなかった著名人のイメージキャラクター起用が目立っている。

 本間ゴルフは2021年12月から「BERES」(ベレス)ブランドのアンバサダーにミュージカル俳優の山崎育三郎を起用し、プロモーション活動を展開している。

 テーラーメイドゴルフは2021年6月からフリーアナウンサーの鷲見玲奈と俳優の岸田タツヤが“チームテーラーメイド”に加入。ゴルフ専門チャンネルのゴルフネットワークでタレントのヒロミと鷲見が司会を務めるトーク番組「銀座ゴルフ倶楽部 presented by テーラーメイド」は一周年を迎える。

 相葉のジャニーズ事務所の先輩の木村拓哉も、2018年からゴルフアパレルブランドのマーク&ロナと、ゴルフブランドのリョーマゴルフアイアンのアンバサダーを務めており、若い層から人気のデサントゴルフも2015年から元サッカー日本代表の中田英寿をブランドのモデルとして起用している。

 ひと昔前であれば、ゴルフブランドのイメージキャラクターにこれだけ豪華なメンバーが並ぶなんて考えられなかった。2000年代前半までゴルフはオジサンのスポーツというイメージだった。若いうちからゴルフをするのは生意気という風潮もあったので、ゴルフが趣味でも公言せずメディアでの露出もNGという著名人がけっこういた。

 したがってゴルフブランドのプロモーション活動はツアーで活躍する選手を通じてアイテムを訴求するのが一般的だった。著名人を起用したPRがまったくなかったわけではないが、ゴルフをプレーする人=プロゴルフトーナメントを見る人という意識がブランド側にもゴルファー側にもあった。

 ところが2020年の新型コロナウイルスの世界的流行以降にゴルフに興味を持った若い世代は、感染リスクが少ない環境で健康的に楽しめるスポーツということでゴルフを始めている。そしてゴルフを始めてもプロゴルフトーナメントにはあまり興味を示さず、むしろインスタグラムなどのSNSでゴルフを通じて交友関係を広げることのほうに大きな関心を持っている。

 そんなゴルファーの変化をブランド側も察知しているのだろう。既存のゴルファーへの訴求とはまったく別の角度からのプロモーション活動に力を入れ始めている。

 この20年の間にゴルフはオジサンのスポーツから若者のスポーツへとイメージが一新した。実際には今でもオジサンの競技人口が圧倒的多数なのだが、ゴルフ場やゴルフ練習場で若者の姿を見かける機会が明らかに増えた。そのきっかけを作ったのは、やはり若い選手たちのプロゴルフトーナメントでの活躍だ。

 2003年9月に当時高校3年生だった宮里藍が「ミヤギテレビ杯ダンロップ女子オープンゴルフトーナメント」でアマチュア優勝を成し遂げた。この快挙が日本のゴルフのイメージを変える大きな転換期だった。

 その後、2007年5月に当時高校1年生だった石川遼が「マンシングウェアオープンKSBカップ」でアマチュア優勝を達成したが、宮里と石川の2人は漫画の主人公が現実の世界に飛び出してきたような印象だった。

 ゴルフが若者のスポーツだと明確に認識されるようになったのは2010年代に入ってから。2011年11月に当時大学2年生だった松山英樹が「三井住友VISA太平洋マスターズ」でアマチュア優勝し、2013年には大学4年生でツアー4勝を挙げて賞金王を獲得。翌2014年4月には当時高校1年生だった勝みなみが「KKT杯バンテリンレディスオープン」でアマチュア優勝し、今後も同じような出来事が次々と起こることを予感させた。

 予感は的中し、女子ツアーでは2016年に畑岡奈紗、2019年に古江彩佳がアマチュア優勝。男子ツアーでは2019年に金谷拓実、2021年に中島啓太がアマチュア優勝。本格的な若者時代が到来している。

 その間に渋野日向子が2019年8月の「AIG全英女子オープン」で海外メジャー初出場初優勝。2021年4月には松山が「マスターズ」で日本人男子選手初の海外メジャー制覇。2021年6月には笹生優花が「全米女子オープン」優勝を成し遂げ、若者たちの活躍の舞台は日本から世界へと広がっている。

 彼らの活躍により、今は若い世代がゴルフをすることに対するネガティブなイメージはまったくない。むしろ感度の高い若者がゴルフの魅力を積極的に発信してくれるので、ゴルフ業界は直近20年で最も大きな上昇気流に乗っている。

 あとはこの勢いをどこまで持続できるかが今後の課題になる。ゴルフブランドは初心者の新規参入を積極的に後押ししようとしているが、練習環境やプレー環境が初心者向けに整備されているとは言えない現状が多少気がかり。また、ゴルフは止まっているボールを打つのが簡単そうに見えて、すごく難しい。効率的な上達と楽しみを提供できるかどうかが、ゴルフブーム継続の分岐点になりそうだ。


保井友秀

1974年生まれ。出版社勤務、ゴルフ雑誌編集部勤務を経て、2015年にフリーランスとして活動を始める。2015年から2018年までPGAツアー日本語版サイトの原稿執筆および編集を担当。その他、ゴルフ雑誌や経済誌などで連載記事を執筆している。