プレミアリーグは選手の平均年棒約4.4億、J1は約3600万円!J2リーグは…
まず、サッカーの仕事で真っ先にイメージするであろう「プロ選手」の給与について触れておく。2021年11月にJリーグが公開した「Jリーグクラブ経営ガイド」によると、J1クラブに在籍する18クラブ、524選手の平均年俸は3590万(※2019シーズン)だという。また、J2やJ3の選手の平均年棒は約300~400万円程度といわれている。日本のサラリーマンの平均年収は約400万円と言われているため、J2の選手ともなるとサラリーマンに近い金額になる。なお、前述の「Jリーグクラブ経営ガイド」によると世界一高いといわれているプレミアリーグの平均年俸は約4億3600万円、2位のラ・リーガが約2億8000万円(※2019-2020シーズン)となっている。
クラブスタッフも厳しい待遇に
2022シーズン、JリーグはJ1、J2、J3に所属する計58クラブによって構成されている。クラブには選手、監督、コーチ以外にも営業担当やホームタウン担当、用具管理を担当するホペイロをはじめ、クラブ独自の担当を設けるなど、多種多様なスタッフが在籍している。クラブのカテゴリーや規模で変わってくるが、J1、J2クラブではおおよそ30人前後のスタッフが在籍しているという。
関係者の話によると、とあるJ2クラブの若手社員の場合、月給は16万円から20万円ほどとなり、週6日出勤することもあるという。また、ボーナスや昇給は支払われないケースがほとんどのようだ。実際にJクラブから掲出されている求人を見ると、給与面での条件としては、おおよそ月収20万円から25万円ほど、年収の場合は250万円から300万円ほどの求人が多くみられるが、中には給与条件が書かれていないケースも少なくなく、完全にドリームジョブになっている。
職種によっては選手と似た契約内容のスタッフも
Jクラブのスタッフと一言で言っても様々な職種がある中で、選手と同じように業務委託契約で「年俸制」という雇用形態で働いているスタッフもいる。これは主にクラブのスクールコーチに該当する。スクールコーチは1年ごとの業務委託契約がほとんどで、前年度の実績によって、翌年の契約が打ち切りか延長かの見直しをするクラブがほとんどのようだ。
また、入社して3年未満などの若いスタッフの場合、節約してなんとかギリギリの生活ができるレベルの給与水準とも言われている。実際、Jクラブのスクールコーチの求人を見てみると、J1やJ2など、カテゴリーに関わらず業務委託契約で1年ごとの更新、且つ年俸制というクラブがほとんどだ。また、一般企業の新卒入社の正社員ではほぼ存在しない業務委託契約のため、社会保険などに加入することができず、自身で保険に加入し、確定申告を行う必要があるという。良い成績を残し続ければ給料は上がるようだが、1年ごとの契約更新のため、結果を残し続けなければ職を失うことになる。
一方、Jリーグ傘下ではない民間のサッカースクールでは、Jクラブスタッフのように業務委託契約のコーチが一定数いるものの、正社員や契約社員といった雇用形態が多くなり、月給はおよそ17万円から25万円となっている。国内最大手のクーバーコーチングサッカースクールにおいては、正社員や契約社員として雇用する前提条件として、同スクールが運営するコーチ養成アカデミーを卒業することが挙げられている。同アカデミー卒業後の1年間は、多くの場合契約社員からスタートし、その後、正社員に登用するケースが一般的だというが、給与は管理職にならない限り、月収25万円前後だという。このようにサッカー界に身を置くスタッフは給与を理由に辞めていく人も多くいるため、人の入れ替わりが激しい現状が続いている。
薄給の原因はマネタイズ問題か?
Jリーグクラブのスタッフや民間サッカースクールのコーチなど、サッカー関連の給与水準は低いことが多い。これらの原因となっているのは、間違いなくマネタイズが充分にできていないことが挙げられる。2020年度のJ1クラブの平均売上は約38億円で、J2は15億円ほどとなっている。そして、支出の約半分は選手、監督の人件費となっている。売上規模や社員数でいうと、Jクラブは中小企業ともいえるだろう。そして、選手や監督の人件費が支出の大半を占めているため、スタッフに十分な給料を支払えていないクラブが多くあるのが現状だ。
Jクラブの収益の柱は入場料、スポンサー、放映権、マーチャンダイジングだ。Jリーグなどのプロスポーツビジネスは娯楽にあたるが、日本には映画や釣り、ギャンブル、ショッピングなど様々なジャンルの娯楽で溢れ返っている。更に、クラブ数の増加に伴うファン・サポーターの分散化も一つの問題となっている。そして、選手の人件費などの支出はシーズン開幕前にある程度判明するが、スポンサー収入は不景気などの経済状況によって大きく左右され、入場料収入もチームの勝敗や天候などによって変動するため、当初の計画より減収することも少なくない。これらの背景もあり、安定した収益を得ることが難しいのも事実だ。
サッカースクールについても、マネタイズに苦労する運営企業が後を立たない。多くのサッカースクールは会員が支払う月謝や入会金、年会費が主な売上となっている。中でも売上に占める月謝の割合が多い反面、会員数が増えれば指導の質と安全性を担保するためにコーチを増やす必要があり、人件費が高騰する。サッカースクールの主な支出は、人件費、グラウンド使用料、スクール活動に使用する用具、広告宣伝費などが挙げられ、多くのサッカースクールでは人件費とグラウンド使用料が支出の大半を占めている。
そして、育成年代においてサッカースクールの競合となるのが、スイミングをはじめとする各種スポーツスクールや学習塾などの習い事である。子どもに習わせたい習い事ランキングで長年1位になり続けているスイミングスクールは、基礎体力の向上や学校の体育の授業でプールがあること、喘息の症状改善への期待やいざという時の安全確保の理由で1位になっているという。その性質上、スイミングスクールは他のスポーツと掛け持ちで行う子どもも多いという。その半面、サッカースクールのビジネスターゲットは、サッカーに興味のある子どもやサッカーが上手くなりたい子どもにあたるため、スイミングスクールに比べるとどうしても差が出てしまう。そして、サッカーは大人数でやるスポーツという性質上、それなりのスペースが必要であることから、場所代を比べてもコストがかかる。こうした背景もあり、今やサッカースクールも厳しい状況に置かれている。
薄給による人材不足で悪循環に…副業として外部スタッフに委託するクラブも
サッカー業界で働くスタッフの薄給問題が叫ばれると同時に、人材不足も深刻化している。薄給はマネタイズが充分でないことが主な原因だが、薄給が原因でサッカー界から離れる者が多くいることも挙げられる。収益を上げるために事業領域を広げたくても、マンパワーが不足し、手が回らない現状がある。その結果、大幅な収益アップが難しくなるという悪循環に陥っている。
こうした人手不足を解消するため、他に仕事をしながら副業としてクラブ業務を引き受けてもらえる外部スタッフの採用に取り組んでいるクラブがある。J2の東京ヴェルディや横浜FCでは、スポーツ専門求人サイトとの協働で完全成果報酬型で業務委託のスポンサー営業スタッフを募集したことがある。また、ベガルタ仙台も前述の2クラブとほぼ同じ形態の求人をつい先日まで掲出していた。正社員や契約社員としてクラブで雇用する形ではなく、他に仕事を持つ社会人に対して、副業としてスポンサー営業を委託するという仕組みだ。これらは完全成果報酬型のため、スポンサー獲得に成功した場合、売上の一部をクラブが契約スタッフに支払う形となる。そのため、クラブからしても固定の人件費とならないため、社員として採用した場合に比べて経費を抑えることができるうえ人材不足も解消できるが、この採用形式で営業としてのモチベーションやチームブランディングを保てるのかなどの課題もある。ベガルタ仙台以外にも、セレッソ大阪やモンテディオ山形なども、人材不足解消に向けて副業でスポンサー営業を担う外部スタッフを募集する取り組みを行っている。
このように、雇用するクラブと働く社員との関係性も徐々に変わりつつあるJクラブ。J2以下のクラブは、基本は社長以外の運営に関わる全ての従業員を副業スタッフにすることで、コストを抑え人材の柔軟性をつける、など大胆な発想があってもいいのかもしれない。サッカー界全体の課題であるマネタイズと薄給、人材不足の問題は、今後どのように変わっていくのだろうか。