6・2パラグアイ戦
森保監督が込めたテーマは、先発起用した顔ぶれから明確だった。
FW堂安、浅野、三笘
MF原口、遠藤、鎌田
DF山根、谷口、吉田、伊藤
GKシュミット
4―3―3の布陣はそのままだが、メンバーは最終予選から大きく変化。試合前のミーティングでも、選手に「誰が出ても勝つこと、誰と組んでもチーム力を落とさずやれるのを見せてほしい」と伝えていた指揮官には、戦力の底上げを図る狙いがあった。
特筆すべきは日本代表初選出となった伊藤の左サイドバック起用だ。伊藤は中学生の頃から磐田のトップチームの練習試合に参加するなど、早い段階から才能を期待されてきた長身のレフティーで、シュツットガルトへの移籍後は高いパスの質に加えて対人などの守備力も格段に成長。森保監督体制下では18年のU―21代表以来の招集となった。日本はW杯本番の1次リーグではドイツと同組。ブンデスリーガで日々しのぎを削るDFがどれほど計算できる戦力なのか、森保監督はいきなり図った。
また、最終予選の終盤は選外となっていた復帰組の鎌田、堂安も先発入り。継続的に招集されてはいたものの、出番が少なかった原口も、本人が望み続けたインサイドハーフの位置での起用となった。
競争が激化する攻撃陣の活躍が光った
試合は前半36分に動く。伊藤のロングフィードを起点に、DFを背負いながら浅野が収めて原口にパス。左前方にドリブルで突き進んだ原口がスルーパスを送ると、抜けだした浅野が華麗なループシュートで先制点を決めた。過去のデータでは、W杯最終予選後の試合で最初にゴールを決めた選手は、98年フランス大会の中田英寿をはじめとして全員が本大会に出場している。4年前、最終予選でロシアW杯出場決定に導く一発を決めながら本番ではメンバーから漏れた「ジャガー」にとっては、大きな意味を持つゴールとなった。
前半42分には、堂安のクロスから鎌田が頭で追加点を流し込んだ。この日の鎌田は圧巻だった。突出した戦術眼を活かしてスペースに巧みに入り込み、技術や緩急を鮮やかに駆使しながら中盤を操った。最終予選で日本はサウジアラビアに2敗目を喫して以降、布陣を4―2―3―1から4―3―3へと変更。無くなったトップ下の位置とともに定位置を失い、日本代表からも姿を消したのが鎌田だった。ELの輝かしいタイトルを手に代表に返り咲き、インサイドハーフとして一級品の輝きを放った。
1アシストの堂安も、後半15分にループシュートを決めた三笘も、そして技術力と圧巻のタフさで中盤を活性化し、2アシストを記録したインサイドハーフの原口も素晴らしかった。
代表初キャップとなった伊藤の存在感
そんな中、前半の日本で最も鮮烈なインパクトを残したのは伊藤だった。
前半5分、ゴールライン際まで駆け上がり、マイナス方向のクロスからいきなり決定機を演出。CKではターゲットとして打点の高いヘディングシュートを放ち、先制点の場面ではロングフィードで起点となった。守備でも安定感があり、デビュー戦とは思えないほどダイナミックで堂々のプレーを披露。左サイドバックの長友や中山に焦りを与えるほどの内容だった。一転、センターバックに入った後半はパスミスが失点に直結したが、森保監督は「ポテンシャルを示してくれた。ミスはあったが、トライした上でのミス」と前向きに捉えていた。
1点こそ返されたものの、最後は後半40分に田中のミドルシュートが決まって4―1の完勝でタイムアップ。遠藤に代えて板倉をアンカーに起用するなど、最終予選では試せなかった起用に挑戦した森保監督は「W杯に向けて選手個々のアピールの場でもあるが、個々の特徴を出しあいながら、誰と組んでも機能する戦いを見せてくれた」と納得の表情を浮かべた。パラグアイが思いの外、手ごわくなかったことを差し引いても、実り多き90分間となった。
6・6ブラジル戦
FIFAランク1位との対戦。メンバーは本番仕様の「ガチ」となった。
FW南野、古橋、伊東
MF田中、遠藤、原口
DF中山、吉田、板倉、長友
GK権田
ほぼ全員が超名門クラブに所属するカナリア軍団も、日本同様に「ガチ」メンバーが揃った。2トップの一角にはネイマール(パリ・サンジェルマン)、左サイドハーフには欧州CLで決勝点を決めたビニシウス(レアル・マドリード)が入った。
近年稀にみる注目を集めた世紀の一戦
試合前から、サポーターの熱も「ガチ」だった。チケットは売り出した当日にほぼ売り切れとなるスピードで完売。国立競技場が改修されてからのスポーツイベントでは最多となる6万3638人が集結した。代表戦が国立競技場で開催されるのは14年3月のニュージーランド戦以来、約8年ぶり。新国立での大一番を見ようと、最寄り駅周辺は試合数時間前からチケットを求める人であふれた。中継した日本テレビの平均世帯視聴率は22・4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)。世帯最高視聴率は後半31分にネイマールがPKを蹴った瞬間で、27・6%もの数字を叩き出した。
声出し応援は禁止のルールだが、むさ苦しいほどの熱気に包まれた「聖地」で迎えたキックオフ。序盤の日本は前線から積極的にプレスを掛けながら王国に立ち向かった。徐々に押し込まれると手堅くブロックを固め、ゴール前で粘り強く集中。全体をコンパクトに、メリハリの利いた守備で対応した。個々の球際での気迫はブラジルに劣らぬほどで、チャンスにつながりかける場面もあった。だが、攻撃では課題が散見。ブラジルの壁は厚く、奪ってもすぐにパスの出どころを潰され、1対1になっても屈強な最終ラインに阻まれた。最終的には後半32分に遠藤が与えたPKをネイマールに決められ、0―1での敗戦となった。
日本代表の現在地からみるW杯本戦での戦い方とは
これを「惜敗」と見るか、「完敗」と見るか。評価の分かれる内容となった。吉田の試合直後の総括に、両方のトーンが含まれていた。
「上手くできた部分もあれば、しっかり剥がされたところもあって、課題と収穫が両方ある試合だった。今日の試合のテーマとしては立ち上がりで失点しないこと、0―0の時間を長くするというのをテーマとして持っていたので、そこは良かったが、相手のクオリティーももっとシリアスな試合のそれとは違う。本選ではもっともっと厳しい戦いになるということを頭に入れながら戦わなければいけない」
「惜敗」と見るなら、4倍以上の18本のシュートを放たれながらも失点をPKの1点のみに抑えた守備は、スペインやドイツと1次リーグで対戦する本番を想定しても、十分に手応えを感じさせるものだった。
途中出場した鎌田は言う。「僕たちが引いたとき、ブラジルはなかなか日本のことを崩せてなかったと思うし、ブラジルがチャンスになったのは、ボールを奪って(からの)ショートカウンターだった。結局、ボールを奪ってからが一番、スペースができて、チャンスになる。現代サッカーは特にそういう風潮。ボールを保持できるときは保持して、それで崩せたら一番ですけど、それよりも守備でいい奪い方をしてからのショートカウンター、取ってからどれだけ速く相手のゴールに向かえるかが、凄く大事になってくるのかなと」。
日本がW杯で強豪を破るためには、ボール奪取から素早く攻撃に転じ、少ないチャンスをものにできるかがカギを握る。失点をしない守備はその最低条件。ネイマールらに数々の決定機を作られながらも流れの中では何とか崩されずに済んだ守備面を前向きに捉えれば、「惜敗」だった。
だが、攻撃の面に視点を置くと、「完敗」に近かった。
日本のシュートは4本、枠内シュートはゼロ。最終予選では、日本の攻撃の軸は主に伊東の君臨する右サイドだった。アジアレベルでなら一人二人来ようとも個の突破力で剥がしてゴールをこじ開けられた伊東でも、世界レベルの個人技を持つブラジル相手では様相が異なる。時間を追うごとに対応されていき、快足を生かしたカウンターは鳴りをひそめた。
中央はサイド以上に固く封じられ、古橋、前田ら快足を誇るセンターFWを生かすこともできず。後半は長友のクロスや三笘の1対1で会場が沸くシーンもあったが、チャンスの数自体は絶対的に少なかった。「サイドで伊東選手、南野選手、三笘選手らがスペースがある中でボールを持てるシーンを何度も作ることが大事。相手のサイドバックのところにどれだけボールを持っていけるかがカギだと分かっていたが、そこへの持って行き方は改善しないといけない」と吉田。反省点が多く浮かび上がった。
求められる総合力の強化
W杯本番まで残された準備時間は少ない。欧州組が加わる試合は、本日14日のチュニジア戦、そして9月の欧州遠征で予定されている2試合のみ。それぞれの意識改革はもちろん、個の力頼みではない、チームとしての攻撃のバリエーション増加は必須だ。
ブラジル戦から2日後の8日、森保監督は改めて練習で中央に縦パスを入れる意識を植え付けた。そして9日にはガーナ戦の前日会見で、再度W杯に向けて日本が目指すべきスタイルを明確に言葉にした。
「奪ったボールを、優先順位としてまずはできるだけ早く攻撃に結びつける。相手のゴールに向かって行く。ボールを保持して、ボールを握りながら相手を崩していく。守から攻の部分でのプレッシャーをかいくぐりながら速攻、遅攻ができるようにしたい」
実際に、10日のガーナ戦では攻撃陣の奮闘により4ゴールを挙げて勝利を掴んだものの、アフリカ・ネーションズカップの招集メンバーから10人以上を入れ替えて戦った相手に1失点を喫するなど、W杯本戦を考えるとまだまだ不安材料が残る。アーセナルに所属するトーマス・パーティやマジョルカで久保とチームメイトのイドリス・ババといった主力選手がいない中盤はあまりに完成度が低く、日本にとっては十分な対策が取れたとは言い難い。
本番まで5カ月。精度と強度を突き詰める作業が待っている。