強豪国はヨーロッパと南米に集中

 サッカー強豪国に具体的な定義はないが、W杯ベスト8以上、及びオリンピックで銀メダル以上の経験がない日本は、世界的にみて強豪国とは言えない立ち位置にあることは確かである。そして、日本がサッカー強豪国の仲間入りをするためには、主要国際大会で目に見える成績を残すことが必要となるだろう。なお、W杯の優勝回数を示すデータは以下の通り。

5回 ブラジル 
4回 イタリア、ドイツ
2回 ウルグアイ、アルゼンチン、フランス
1回 イングランド、スペイン

 このデータから見て分かる通り、W杯優勝経験があるのは8つの国、地域に限られており、ヨーロッパ、南米に集中している。2002年の日韓W杯では韓国が4位と大躍進を果たし、ベスト4入りという好成績を残したものの、いずれにせよ、ヨーロッパ、南米以外の地域の国がW杯で決勝戦に出場したことはない。オリンピックでもヨーロッパ、南米以外の国で金メダルを獲得したのは、ナイジェリア(1996年・アトランタ)とカメルーン(2000年・シドニー)の2ヶ国のみだ。サッカーの国際大会の成績ではヨーロッパ、南米の国々が圧倒的な成績を残している。

サッカーが文化として根付く強豪国

 ヨーロッパや南米に強豪国が集中しているが、それらの特徴や共通点はどのようなところにあるのだろうか。

 サッカー強豪国と日本を比べるとやはりサッカーが文化として根付いているかどうかの違いは大きいだろう。文化として根付いているかどうかについても明確な基準はないものの、国民的スポーツとして多くの人々にとっての生活の一部になっていれば、文化として根付いていると言えるのではないだろうか。

 例えば、世界のサッカーリーグで最も平均観客動員数の多いブンデスリーガでは、ホームゲームのチケットを持っていることで一部エリアの公共交通機関が無料になるという。自治体や国レベルでサッカーの試合運営に全面的に協力している。また、ヨーロッパや南米ではほぼ毎日のようにサッカーの試合中継が行われ、人々の生活に身近な存在となっている。彼らにとってサッカーの価値は日本以上に高いということがうかがえる。

協会登録選手数も桁違い?

 全ての強豪国がそうであるとは言い切れないものの、強豪国は登録クラブや選手の数が多いようだ。以下のデータは強豪国のサッカー連盟ごとに、各国の総人口における協会登録選手数をまとめたものだ。

※データは国際的データサイト『Statista』や各国連盟のウェブサイトから引用

スペイン:約100万人以上(2020年)/ 総人口 約4000万人
ドイツ:約406万人(2021年)/ 総人口 約8300万人
フランス:約210万人(2020年)/ 総人口 約6740万人
イングランド:約80万人(2017年)/ 総人口 約5600万人
イタリア:約106万人(2019年)/ 総人口 約6000万人

 日本サッカー協会の登録チーム数は約2万6000チームで登録選手数は82万人だという。ヨーロッパ5大リーグのある各国と比べると登録選手数はイングランドに比べて僅かに多いが、同国の人口が約5600万人のため、人口に対する登録選手数の割合は日本よりも高くなっている。そして、イングランド以外の国には大きな差をつけられている。やはり、強豪国は多くの選手がサッカーをプレーしている。

育成の面でも大きな違いが

 強豪国と日本の違いで大きいのが育成面だ。海外サッカー留学の斡旋事業を行う会社の代表など、海外とのパイプを持つ複数の関係者に話を聞くと、欧州をはじめとするサッカー強豪国は指導者の育成環境が充実しているという。例えば、スペインではサッカー連盟とは別にAFENなどの指導者養成機関がある。

 そして、指導者ライセンスの面でも日本とは大きな違いがある。日本の指導者ライセンスは全て日本サッカー協会が管轄となり、各都道府県のサッカー協会が講習会を行っている。しかし、スペインではサッカー協会公認ライセンスはもちろん、州のサッカー協会公認のライセンスもあるという。スペインではサッカー協会公認のライセンスがレベル1から3まであるが、日本サッカー協会のライセンスよりも取得に多くの時間を費やし、学ぶ範囲も広いという。そして、スペインではいわゆる部活がほとんどなく、プロクラブの下部組織に所属するごく一部の選手以外は街クラブでプレーすることになる。そのため、16~17歳の高校生年代がプレーをしながら所属するクラブの幼稚園や小学校低学年の選手をアシスタントコーチとして指導することがあるという。そのため、早くから指導を学ぶことができる環境が整っている。

 また、プロクラブの下部組織の環境も日本とは違いがあるようだ。ドルトムントに研修に行った元指導者の話によると、ドルトムントの下部組織では、選手の疲労度のチェックや身長、体重の測定、体の軸にブレがないかの確認を行い、フィジカルトレーニングのメニューを選手1人1人に個別に与えているという。これを小学生の年代から導入しているという。日本ではチームで全員が同じメニューのトレーニングを行うことが一般的であるため、こうした面でも育成プログラムに違いが出ている。そして、日本ではプロクラブの下部組織に一度入団すると小学生から中学生、中学生から高校生に上がるタイミングまでは在籍することができる。しかし、欧州や南米では、定期的に選手の入れ替えが行われるため、一度入団しても実力が見合っていないと判断されると他のクラブへの移籍を余儀なくされる。しかし、一概に選手を見捨てるわけではなく、多くは提携する街のクラブに移籍させ、そこでの活躍とレベルアップが認められれば、再度元のクラブに戻るケースもあるようだ。そのため、選手の競争意識が高まり、競技力向上やメンタル面の強化に繋がる。

日本がサッカー強豪国になるために必要なこと

 ここまでサッカー強豪国の特徴や共通点に触れてきたが、日本が強豪国の仲間入りを果たすには多くの課題をクリアする必要がある。

 そのひとつは言うまでもなく、Jリーグと日本代表選手の競技力の向上だ。技術力の向上も必要だが、それ以上に戦術やフィジカル、メンタル面の向上がより必要になってくるだろう。実際にスペインのプロクラブのカンテラでコーチをする指導者に過去に話を聞いたのだが、スペイン人と1番違うのは戦術理解度だという。また、フィジカルやメンタルを日本サッカーの課題だと挙げる選手も少なくない。こぼれ球やセットプレーなど、球際の50-50のボールをマイボールにすることは試合を有利にする上で必要不可欠になる。そして、W杯などの注目度の高い大舞台で結果を残すには、チーム全員がその緊張感の中で最大限のパフォーマンスを発揮する必要があり、メンタリティも重要になる。

 その点、育成年代からプロクラブの下部組織で選手の入れ替えが行われており、CLのような大舞台での戦いに慣れている海外の選手はメンタル面もタフな選手が多い。また、ブラジルなどの南米の選手は貧困地域で育った選手も多く、サッカーでプロになり、お金を稼ぐことが生きていく手段であるような環境の選手も数多くいる。柏レイソルやヴィッセル神戸などJリーグ6クラブでプレーし、2020年に現役を引退したレアンドロは、病気の家族を助けるためにブラジルでプロ選手となり、助っ人外国人として高額な年俸を貰えるJリーグでプレーするために来日したという。さらに、ヨーロッパや南米はメディアからの批判も多く、選手にかかるメンタル面でのプレッシャーは日本とは比べものにならないだろう。

 なお、ドイツサッカー協会は公式サイトで同国がサッカー強豪である10の理由を述べているが、その中のひとつに「勝者のメンタリティ」が含まれている。ブンデスリーガは1試合平均42000人以上の観客動員数を誇り、世界のサッカーリーグの中で最も多い。そのため、選手達は日頃から大観衆の前でプレーしていることが理由として挙げられている。

指導者のレベルアップやサッカー環境の改革

 日本サッカーの競技力向上には、指導者のレベルアップと環境の整備は必要不可欠だ。

 日本の指導者に関しては、サッカー少年団や部活動などのボランティアコーチに頼っているケースが多い。クラブチームやスクールに職業としてサッカーの指導で生計を立てるコーチもいるが、副業としてやっているケースも多い。スペインでもボランティアの指導者がほとんどで、関係者によると、バルセロナなどのプロクラブの下部組織で指導するコーチでも月給は日本円で20万円に届かないことが多いようだ。しかし、指導者の学べる環境には圧倒的な差がある。

 そして、ヨーロッパや南米の指導者は他国で多く活躍しているが、日本人指導者が海外で指導をするケースはトップレベルになればなるほど少ない。世界で活躍できる高いレベルの選手を輩出するには、優秀な指導者が選手を指導する必要がある。そして、優秀な指導者を多く輩出するには、指導者の学べる環境を増やすことが必須といえるだろう。さらに、欧州では芝生のグランドが数多くあり、子ども達が自由にボールを蹴れる環境が日本よりも整っている。

 ブラジルは経済的に恵まれていない地域も多いが、ストリートサッカーが根付いているため、サッカーに触れる機会は多いだろう。日本では小学校の休み時間にボール遊びを禁止する学校もあり、サッカーをできる公園も年々少なくなっている。お金を払い、サッカークラブやスクールに通わないと、サッカーができない環境になりつつある。しかし、スペインやドイツではサッカーをするのに日本のサッカースクールやクラブチームほど多くのお金はかからないという。

ビジネス面での発展

 これが全てとは言い切れないが、強豪国の多くはサッカーが人々の生活に身近で、文化として根付いている。そして欧州の5大リーグを見てみると、プレミアリーグの平均年俸は4億3000万円と高く、ラ・リーガ、セリエA、ブンデスリーガも2億円を越えており、リーグ・アンも1億5000万円近くと、高水準となっている。

 また、イギリス『スポーティング・インテリジェンス社』が2018年に公開した世界のスポーツクラブの選手年俸に関する調査「グローバル・スポーツ・サラリー・サーベイ(GSSS)」では、ブラジル1部リーグの平均年俸は約8400万円、アルゼンチン1部リーグは約4700万円だという。J1の平均年俸は3600万円のため、選手年俸を見ても強豪国と差が開いている。選手年俸を引き上げればスター選手がJリーグでプレーするきっかけとなり、強化に繋がるため、年俸の引き上げも必要といえるだろう。

 そしてリーグの価値を向上させていき、代表のレベルアップも同時に図ることで、国全体の競技力向上にも繋がる。このように、日本がサッカー強豪国になるには多くの課題をクリアしていく必要があり、まだまだ道のりは長い。

 11月23日に開幕するカタールW杯で日本代表はどんな結果を残すのだろうか。そして、日本がサッカー強豪国の仲間入りを果たす日は来るのだろうか。


辻本拳也

一般人社団法人クレバリ代表理事。 大学卒業後の2018年4月にサッカースクールを開校し、代表に就任。 20年2月に一般人社団法人化する。サッカースクールを運営する傍ら、ライターとして、 複数のスポーツメディアで執筆している。 これまでに、元Jリーガーのインタビューやダノンネーションズカップなど、 育成年代の大会やイベントを中心に取材してきた。