長友も歴代最強と評価する日本代表の堂々たる戦いぶり

 「PK戦は運」とはよく言われることだが、果たしてそうなのか。4年後の北中米W杯は48チームが参加し、ノックアウトステージ進出は32チーム。目標をベスト8とするならば延長やPK戦もありえる戦いを2つ勝ち上がらなければならないが、一度もノックアウトステージでの勝利がない日本はここをどうやって乗り越えていけば良いのか。

 ベスト8進出の夢は、またも砕け散った。日本代表がベスト8に挑戦したのはこれが4度目。しかし、クロアチアを相手に先制しながら、最後はPK戦で敗者となった。

 ただ、ベースの部分は確実に上がっていることが見て取れた。3-4-2-1のダブルボランチの一角として先発したMF遠藤航は、「クロアチアを相手に対等にはやったと思うし、日本代表選手たちのクオリティは高くなっていると思う」と悔しさの中にも手応えを感じ取っていた。日本は代表メンバー26人のうち19人が海外クラブに所属し、欧州CLやELの出場クラブでプレーする選手が増えている。遠藤は「ようやく世界と対等に戦える土台に乗っているのかなと思う」と見解を示した。

 その言葉通り、クロアチアに対して日本は前半、時間帯こそ限定的ではあったが自分たちでボールを持ちながら敵陣に迫る場面をつくりだしていった。前半41分、左サイドで粘った前田大然が、深い位置からペナルティーエリア内へ持ち込み、遠藤へマイナスのパス。遠藤の縦パスを受けた鎌田大地がキックフェイントから右足シュートを放った。枠を捉えることはできなかったが、連携で相手の守備を崩す形を見せた。

 グループリーグでは得点の匂いが感じられなかったセットプレーでも活路を見いだせそうな雰囲気が最初からあった。前半2分、伊東純也が右CKをマイナス方向に出すと、遠藤がワンタッチでゴール前にクロスを上げ、谷口彰悟がヘディング。前半19分には鎌田大地のデザインされたFKから守田英正につないだ。

 そして迎えた43分。右CKのチャンスで堂安律がショートコーナーを選択し、鎌田、伊東とつないで再び受けると、左足で鋭いクロス。吉田麻也がDFと競りながら右足で落とし、前田大然が流し込んだ。VARのチェックを経て、ゴールが認定。ハイプレスでチームに大きく貢献してきたストライカーの献身が報われたゴールは、日本が今大会で初めて得た先制点となった。

果敢に追加点を狙いに行った後半戦

 ハーフタイムの日本は、2点目を取りに行くということで意識を統一して後半に向かった。前回のロシアW杯で準優勝し、今回も中盤にモドリッチ(レアル・マドリード)、コバチッチ(チェルシー)、ブロゾビッチ(インテル)というワールドクラスの個をそろえたクロアチアを相手に、1点を守るのは難しいと考えたからだ。

 吉田は「前半1-0では足りないと思った。クロアチアは伝統的に粘り強く戦ってくるし、この1年半くらいほとんど負けてない。最低でも引き分けに持ってくるのは分かっていたので、2点目を取りたかった」と意図を説明。堂安も「引き込むだけのサッカーでは僕たちも満足していないというのがあった。理想を求めながらベスト8を取りに行った」という。

 日本は後半開始1分に鎌田がミドルシュート。その後も連戦の疲れが見える相手に対し、押し込んで試合を進めた。しかし後半10分、クロス1本にやられた。右サイドのユラノビッチからのマイナスのパスを受けたロブレンがゴール前に鋭い右クロス。中央でペリシッチに頭で合わせられ、1-1とされた。

 追いついた後のクロアチアはピッチ全体が活力を出してきた。準優勝した18年ロシアW杯では3度の延長戦(内2試合はPK戦)を制しており、粘り強さにおいては絶対的な自信を持っている。

 だが、日本も負けていない。再三放り込まれるクロスには吉田、谷口、冨安健洋の3バックを中心に危なげなく跳ね返し、決定機をつくらせない。GK権田修一の対応にも安定感がある。

 森保一監督は後半19分、左ウイングバックに三笘薫、1トップに浅野拓磨を投入。同30分には右ウイングバックにドイツ戦以来3試合ぶりの復帰となった酒井宏樹を入れ、空中戦からも起点をつくれるようになった。

 しかし、1点が遠かった。グループリーグでは仕掛ければ無双だった三笘だったがクロアチアには研究されていたし、酒井のところでは不可解なファウル判定でチャンスにつなげられない場面が複数回あった。ただ、残り時間が少なくなるのにつれて日本は失点のリスク管理を強め、迫力のある押し上げは見られなかった。延長でもこの流れは継続し、両者互いに譲らず、120分が終了。こうして迎えたPK戦で、日本は新たな課題を突きつけられることになった。

一概に運だけでは勝利が難しいPK戦

 先行の日本は1人目の南野拓実、2人目の三笘が低い弾道、甘いコース、弱めのキックで相手GKに止められた。クロアチアは1人目と2人目がゴールの上寄りに強いボールを蹴って連続で成功。日本は3人目の浅野が上寄りに蹴って成功し、クロアチアは低い弾道で外したが、日本は4人目の吉田も低い弾道でGKに止められてしまった。クロアチアの4人目は優位な精神状態となり、低い弾道ではあったがGKの逆を突いて成功。日本は2010年南アフリカW杯ラウンド16でパラグアイに敗れて以来となる延長PK戦負けを喫した。

 ここで問題となるのが、PKを蹴るコースとボールスピードだ。PKでは低い弾道になるとGKに止められる確率が上がる。上を狙うのは勇気もパワーも必要だが、成功率は格段に上がる。

 育成年代の指導にも携わったことのある森保監督は試合後の会見で「PK戦は運だと思うのと訓練と、両方あると思う。ボールを強く、狙ったところに決めていくことで、日本と欧州や世界のトップを走るチームとには差があると感じていた」と言い、「今後、日本サッカーのポイントとしていかなければいけない」と課題に挙げた。

 今回のPK戦は森保監督の指示で選手の挙手制を採り、蹴る順番も選手が決めるという方式だったため、キッカーを務めた選手たちを責めることはナンセンスだが、そもそもW杯に入ってから、ラウンド16の試合前にいきなりPK練習を数多くやることはできない。練習とW杯では緊張感が違うとはいえども、反復練習をすることで緊迫した場面でも再現力の高いキックを蹴る確率を上げることはできるはず。日本の試合の翌日、PK1000本練習を課されたスペインがモロッコと対戦し、史上最多4度目となるPK戦負けを喫したとはいえ、練習が無意味ということはない。

4年後のW杯で“ベスト8”を実現するためのもう一つの課題

 もう一つ見えた課題は、「ノックアウト方式の壁」だ。ロシアW杯では守備陣のMVPと言える活躍でベスト16入りに貢献し、今回のカタールW杯では負傷に苦しみながらも1試合先発、1試合途中出場だった酒井宏樹は「(ロシアW杯の)ベルギー戦の時は、強いチームに逆転されるのをポカンと見ていただけだったが、今回はそれとは明らかに違った。だからこそ悔しい思いが強い」と言いつつ、一方で、「やられたという感覚も大事にしないといけない。クロアチアには試合を決める選手がいて、劣勢の中でも振り出しに戻すような選手がいた。逆に、僕らは1-0を守れなかったし、1-1になってから2-1にできなかった。それは課題だと思う」と現実を受け止める。冨安健洋は「これだけ破れていない壁なので、何かを変えていかないと」と変化の必要性を口にしている。

 遠藤は「経験のあるチームや国と比べて何か欠けてる部分があるのかなと思う」と言い、延長前半9分にクロアチアがモドリッチとコバチッチの看板選手2人を同時にベンチへ下げたことを挙げた。「あれだけの選手をあそこで代えられるというところに差を感じた。それだけ選手がいるということ」と指摘した。選手個々の引き上げと選手層の増強について、中盤でただ1人、全4試合に先発出場した鎌田は「できるだけいいクラブでやって、しっかり試合に出て、日本人の価値を高めたい」と語っている。

 選手たちは個のベースをそれぞれが上げていくことに専心する。技術委員会はノックアウト方式の試合を勝ちきるための方法論を別角度から分析する。オートマチックな動きの時とは異なる精神状態で蹴るPKに関しては、メンタル強化のアプローチも求められる。様々な角度からの強化を統合し、4年後にベスト8入りを果たしたい。

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矢内由美子

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。ワールドカップは02年日韓大会からカタール大会まで6大会連続取材中。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。