勝てばグループリーグ突破が決まる可能性があった中、勝ち点1を得ることもできず、キャプテンの吉田麻也が「一番起きてはいけない展開になった」と嘆いた一戦。5バックでブロックを敷いてきた相手を攻めあぐね、好機をつくっても最終局面で精度を欠き、終盤に先制された後は、余していた交代カードを使って次々とクローザーを投入した。日本としては、点を取れなかったことと反撃の余地の少ない時間帯に失点したことが敗戦の大きな要因だが、それらを招いた“地雷”はどこにあったのかーー。

引いたコスタリカ相手に攻めあぐねる展開が続く

 日本はドイツ戦の試合開始と同じ4-2-3-1の布陣でスタートした。先発メンバーは、ドイツ戦からフィールド選手の半数に当たる5人を入れ替え、DF山根視来、MF守田英正、MF相馬勇紀、FW上田綺世の4人がW杯デビューを果たした。

 午後1時のキックオフ時は、ピッチの7割近くに強い日差しが降り注いでいた。ただ、直射日光に完全にさらされているのはメインスタンドから見て左側。スタジアムには冷房設備があるが、ピッチ上となると日陰と日向では気温差が相当大きいだろうと思われた。

 ところが意外なことに、コイントスに勝った吉田は日の当たる方のエンドを選択した。チームとしては、後半の体力的に厳しくなる時間帯にロングボールを立て続けに放り込まれた時の消耗を少しでも小さくしたいという意図があったのだ。

 この選択は、日本の攻撃陣の心理面に多少の影響を与えた。フレッシュなメンバーを中心に立ち上がりこそ勢いよく試合に入ってゴールに迫っていったが、徐々に引いて守る相手に対して攻め手をみつけることができなくなっていった。アタッキングサードでボールを受ける場面まではつくれても、その後のプレー精度が低く、ゴールが遠かった。うまくいっていないと感じていたせいか、徐々に中盤での細かいミスも増えていき、ボールを持ったときのパスコースもなくなっていった。

ドイツ戦と比較して明らかに動きが重かった日本代表

 攻めあぐねていることを示す象徴的なシーンは前半29分。遠藤航が前を向いた状態でボールを受けたにもかかわらず、キープしながらパスコースを探すでもなく、すぐにボールを後方に下げた。停滞感が色濃く出ていた。

 堂安は、「ポジショニングをうまくどこに取ればいいか、最後まで考えながら終わってしまった。サイドにはボールを回させてもらえていたが、縦パスが入らなかった。縦パスが入ってもその後に失ってしまうシーンが多かった。暑さもありましたし、それで消耗すると…。ネガティブにまたミスだ、またミスだと繰り返してしまった印象がある」と振り返った。

 日本は前半のうちから3バックにシステムを変更していたが重心は低いままで、終了間際には鎌田大地が山根に対してもっと高い位置を取れと険しい表情で指示を出す様子が見られた。自分自身、いつになくミスが出ていた鎌田は、いらだちを隠せなかった。

 ドイツ戦で劇的な成功を収めた交代策も、2試合連続で通用するほどうまくはいかなかった。初戦で決勝ゴールを決めた浅野は、裏へ抜けるスピードだけでなくポストプレーでも成長を示し、対人攻撃で無双だった三笘は変わらずチャンスをつくったが、三笘の高い再現能力をこれでもか、と使い続けるしつこさをチームとして持てなかった。すると、前掛かりで責めていた後半36分、クリアが小さくなったボールをかっさわれてしまい、DFケイシェル・フラーに決勝ゴールを叩き込まれた。

 その時間帯にチーム全体に漂っていた“焦り”について堂安は、「勝ち点1でもオッケーという中で、やはり、選手全員頭の中でこの相手には勝ち点3を取らないといけないという考えが少しよぎってしまった」と唇を噛むように言った。

 ただ、日本は点を取りたいという気持ちがあるにもかかわらず前半は停滞しており、クロスに対して中へ入っていく人数が少なかった。ドイツ戦の後半、堂安が点を取った時はドリブルで起点になった三笘がいて、スルーパスを受けて強いクロスを中央に供給した南野がいて、点を決めた堂安の前にはゴールに飛び込む動きでGKノイヤーの動きを制限させた浅野もいた。鎌田もいた。しかし、コスタリカ戦の前半はそれがなかった。

明暗を分けたワンプレー

 最低限、引き分けでもいいという意思統一で試合を開始したことが、フレッシュなメンバーが5人いたにもかかわらず、ある程度のリスクを取るような積極的な攻撃を前半に見せられなかった遠因だろう。攻撃のリズムもバリエーションも単調で、相手の脅威になりえなかった。

 一方で、大会前からグループリーグの3試合をトータルで考えていた日本は、初戦の結果にかかわらずコスタリカ戦では勝ち点3を奪うというプランもあった。その心理マネジメントが時間帯によって選手間で徐々にズレていった。

 それが出たのが失点場面だ。後半36分、背後を狙われたボールを伊藤洋輝がヘディングで跳ね返すと、吉田が「つなげると思った」と右足でコントロールしながらソフトに蹴ったものの、中途半端な浮き球になった。ピンチに転じたことを察知した守田はスライディングでクリアしようとしたが、相手に奪われ、そこから決勝点を決められた。

 守田は「セカンドボールになったときに僕が相手より先に触ってクリアするような意図でやったけど、結局、死に体のような形になって入れ替わられた。落ち着いて正対するようなことができたんじゃないかという個人的な思いはある」と詳細を説明した。試合直後に映像を確認したという吉田は「つなげるスペースはあったけど、時間的にも前(へのクリア)で良かったのかなと思う」と判断を悔やんだ。

 しかし、この時間帯も前掛かりなマインドになっていたのはいたしかたない。失点するまでに森保一監督が切った交代カードは4枚。1枚はシステム変更に伴う長友から伊藤洋輝への交代だったが、他の3枚は上田→浅野拓磨、山根→三笘薫、堂安→伊東純也。(※失点後の82分に相馬→南野拓実)

 選手交代に込められたメッセージが「勝ち点3」だった。

 たっぷり時間のあるときにはリスク回避。時間帯的に、最低限、引き分けでも良しという意思統一をしているはずの時間帯になぜかリスクを負ったプレー選択。日本はリスクを負う時間帯が間違っていた。

“無敵艦隊”スペインを相手に勝ち点を挙げられるか…

 FIFA公式サイトによると、ボール保持率は日本が48%、コスタリカが39%、コンテスト(奪い合い)が13%。シュート数は日本が14本、コスタリカ4本。枠内シュートは日本が3本、コスタリカは1本だけ。ワンチャンスを決められての重苦しい敗戦だった。

 日本は敗戦の中で鎌田大地と遠藤航という中盤の主軸2選手が2試合連続フル出場。同じくフル出場の吉田、板倉を含め、中3日で迎える3戦目のスペイン戦はリカバリーが非常に重要となっている。ドイツ相手に1-1で引き分けたスペインは、次の日本戦で勝ち点1以上を取ればグループステージ突破が決まる。対する日本は勝ち点1でも突破の可能性を残しているものの、ドイツがコスタリカ相手に2点差以上で勝利すればグループステージ敗退が決定するだけに、是が非でも勝ち点3が求められる一戦となる。運命のスペイン戦は、日本時間2日AM4時キックオフとなっており、ドイツvsコスタリカも同時刻キックオフとなる。


矢内由美子

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。ワールドカップは02年日韓大会からカタール大会まで6大会連続取材中。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。