10000m平均タイムと箱根駅伝の関係性

 2015年からの8年間で6度の箱根Vを果たしている青学大・原晋監督は、「10000mのタイムと箱根駅伝は相関関係がある」と常々言っている。そこで前回大会の結果と上位10人の10000m平均タイム(当時)を比較してみた。

❶青学大←②28分29秒40
➋順大←⑦28分37秒50
❸駒大←①28分24秒65
❹東洋大←⑥28分59秒58
❺東京国際大←⑪28分47秒73
➏中大←⑥28分37秒35
❼創価大←⑤28分35秒81
❽國學院大←⑨28分42秒34
➒帝京大←⑬28分53秒53
❿法大←⑲29分05秒10
⓫東海大←⑧28分39秒88
⓭早大←④28分34秒38
⓮明大←③28分31秒18
※前回大会シード校(10位以内)+10000m平均タイム10位以内の大学で構成


 原監督の言葉通り、青学大の10000mタイムと箱根の順位はかなり〝連動〟しているといえるだろう。一方で10000m平均タイム7位の順大が2位、同11位の東京国際大が5位、同19位の法大が10位に入るなど、あまりリンクしていない大学もある。

 長距離種目は気温がタイムに大きく影響するため、10000mは11~12月が好タイムを狙える時期になる。しかし、15年以上前から「箱根駅伝前の10000mは本番につながらない」という考えがあり、順大、早大などは冬のトラックレースに参戦することが少なかった。トラック10000mとロード20㎞以上を単独走することになる箱根駅伝ではトレーニング内容が異なるからだ。

トラックに厚底シューズは使えない

 加えて近年はもうひとつの〝悩み〟が発生している。それはシューズの問題だ。

 11月6日の全日本大学駅伝後の取材で、順大・長門俊介駅伝監督は、「トラックレースは足元(シューズ)を替えないといけない不安があるので、あえて出していません」と話していた。

 靴底はロードで「40㎜以下」というルールがあるのは知られているが、トラック種目は800m以上が「25㎜以下」に改訂された。国内では2020年12月1日から適用されている。

 2020年11月末までは厚底シューズでトラックレースを走ることができたが、現在は25㎜以下のシューズ(スパイク)に履き替えないといけない。この〝15㎜の差〟がランナーの感覚を狂わす場合があるのだ(※参考までに長距離用スパイクもナイキが一強状態で、『ドラゴンフライ』というモデルが圧倒的なシェアを誇っている)。

 東洋大・酒井俊幸監督も「器用な選手はいいんですけど、トラックレースでスパイクを履くと、動きが変わるんですよね。その辺の兼ね合いがすごい難しいんです」と悩んでいた。

 反発力の高いカーボン入りシューズを履くことで故障が増えている面もあるため、東洋大は練習で厚底シューズの使用を抑えている。11月27日の小江戸川越ハーフマラソンも厚底シューズを履かずに出場した。しかし、その弊害も出ているようだ。

「出雲(9位)と全日本(8位)を振り返ると、厚底シューズをうまく履きこなせていない印象があります。そこにスパイクも履くことになると、なかなか大変です。箱根に向けては、厚底シューズの威力を発揮できるような準備も必要になってきます」(酒井監督)

 トレーニングとシューズの問題があり、11~12月のトラック10000mレースに大挙して出場する学校と、ほとんど出場しない学校に分かれている。そうなると10000m平均タイムの〝中身〟に差が出てくる。

今冬に10000mを走った大学とさほど走っていない大学

 12月10日に箱根駅伝の「チームエントリー」があり、各チームの登録メンバー(最大16人)が決まった。同時に各チーム上位10人(留学生は1人のみ)の10000m平均タイムが発表されたので、その順位を見てみよう。

①駒大28分24秒91(出雲1位、全日本1位)
②青学大28分25秒11(出雲4位、全日本3位)
③中大28分27秒66(出雲3位、全日本7位)
④創価大28分28秒52(出雲6位、全日本5位)
⑤順大28分37秒95(出雲5位、全日本4位)
⑥明大28分39秒06(予選会2位、全日本9位)
⑦東海大28分42秒72(予選会9位、全日本10位)
⑧國學院大28分43秒70(出雲2位、全日本2位)
⑨大東大28分45秒04(予選会1位、全日本14位)
⑩東京国際大28分47秒85(出雲8位、全日本11位)
⑪東洋大28分49秒93(出雲9位、全日本8位)
⑫日体大28分51秒58(予選会5位)
⑬法大28分52秒19(出雲7位)
⑭山梨学大28分55秒47(予選会7位)
⑮城西大28分56秒59(予選会3位)
⑯早大29分00秒23(予選会4位、全日本6位)
⑰立大29分00秒75(予選会6位)
⑱帝京大29分09秒91(出雲11位)
⑲専大29分12秒04(予選会8位)
⑳関東学連29分15秒11
㉑国士大29分15秒85(予選会10位)


 上位候補の大学で今冬、主力の大半が10000mレースに出場しているのが青学大、中大、創価大など。主力がほとんど出場していないのが駒大、順大、明大、國學院大、東洋大、早大などになる。

 とはいえ、10000mに出場する大学も闇雲にタイムを狙っているわけではない。中大・藤原正和駅伝監督は、「この時期の10000mは難しい。がっつり(記録を)出すと反動が出てしまうので、調整はさほどさせていません。箱根に向かう過程のポイント練習だと思って出場させています」と話している。

 青学大も同じような考えだ。11月25日のMARCH対抗戦10000mに41人もの選手が出場。箱根駅伝の登録メンバー選考にも大きく関わっており、全体的には好タイムを残した。ただし、10000mの青学大記録は昨年、近藤幸太郎(現4年)がマークした28分10秒50。近藤を含めて過去に27分台を狙える選手は何人もいたが、そこまで出し切っていない印象が強い。箱根駅伝に向けたトレーニングの流れのなかで10000mに出場しているわけだ。

 冬の10000mで好タイムを出しながら、箱根駅伝をうまく走れなかった選手は少なくない。逆に早大・渡辺康幸、順大・三代直樹、順大・塩尻和也、東洋大・相澤晃ら2区で快走した選手たちは冬の10000mレースに参戦せず、箱根駅伝に合わせてきた(※塩尻は3年時に10000mで27分47秒87をマークしたが、2区は区間10位と伸び悩んだ)。

 唯一、両方で成功したのは前回の駒大・田澤廉(現4年)だろう。12月4日の日体大長距離競技会10000mで日本人学生最高&日本歴代2位の27分23秒44をマーク。箱根駅伝2区は区間歴代4位(日本人歴代2位)の1時間6分13秒で走破して、区間賞を獲得した。

厚底シューズをうまく履きこなせるのか

 純粋に自己ベスト更新を狙いたい選手、10000mで好タイムを出すことで箱根駅伝に向けて自信をつけたいと考えている選手は多い。一方で、10000mの反動(ダメージ)が出ないか。靴底25㎜以下のスパイクから同40㎜弱の厚底レースシューズにうまく移行できるのか。箱根駅伝を目指すランナーたちは〝悩ましい問題〟を抱えながら、正月決戦に向けて調整を続けている。


酒井政人

元箱根駅伝ランナーのスポーツライター。国内外の陸上競技・ランニングを幅広く執筆中。著書に『箱根駅伝ノート』『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。