日本代表の活躍でテレビ視聴率やグッズの売上も好調!?

 カタール大会で史上初の2大会連続となるベスト16入りを果たした日本代表。ベスト16という結果だけを見ると、これまでの大会と何ら変わりはない。ただ、今大会ではグループリーグでW杯優勝経験のあるドイツとスペインに勝利し、1位で予選突破を決めたことが一番の違いだろう。

 近年の代表戦の観客動員数やテレビ視聴率は低下していたが、今回のカタールW杯の注目度の高さは、全64試合を生中継した動画配信サービス『ABEMA』の視聴者数や地上波のテレビ視聴率にも表れている。実際、今大会の日本代表4試合の世帯視聴率は平均で35.7%(関東地区)と高い数値を記録し、4試合の視聴率の順位は(上から順に)コスタリカ戦、ドイツ戦、クロアチア戦、スペイン戦となっている。

 さらに『ABEMA』では、日本がドイツに勝利したグループリーグ初戦における視聴者数が初めて1000万人を越えた。さらに、第3戦のスペイン戦では1700万人を突破し、PK戦の末に敗れた決勝トーナメント1回戦・クロアチア戦では、延長前半の時点で2000万人を超えたようだ。また、総コメント数でも同試合が全64試合の中で1位にランクインし、約140万を記録。これは、W杯決勝のアルゼンチンVSフランスのコメント数である約100万を大きく上回っている。

 そして、日本代表の活躍によりユニフォームなどの関連グッズの売上も好調のようだ。今回のユニフォームは、大会前、英紙『Daily Mail』が選ぶカタールW杯出場国のユニフォームランキングで堂々の1位に選出されており、デザインのかっこ良さからSNSなどでは高評価だったが、初戦のドイツ戦後に売上が急増。東京・新宿にある「Alpen TOKYO」では、ドイツ戦後に日本代表ユニフォームの売上が6倍にもなったという。

 さらに『ABEMA ニュース』によると、現地カタールの試合会場近くのショッピングモールでも日本代表のユニフォームが完売、さらにカタールにあるアディダスのサテライトオフィスにも日本代表ユニフォームに関する問い合わせが数多く届いたようだ。

 また、ポテトチップスで知られる大手食品メーカー『カルビー』から販売されている日本代表チップスの売上も好調だという。同商品は、2021年5月から2022年6月に日本代表に選出された40人もの選手を収録したカードを、付録として1袋に2枚同梱したもの。全国のコンビニエンスストアやスーパーマーケットなどの小売店で販売を行った。日本代表の活躍もあり、「売り切れで買えなかった…」といった投稿がSNSで後を絶たず、中には「10店舗以上回っても買えなかった」という投稿も見られた。

メディアへの露出機会も増加!国内における入場者数やサッカー人口増加の可能性は…?

 今大会を通じて、日本代表への注目度が高まったことは言うまでもないだろう。大会が終了し、オフに入った直後から多くの選手がバラエティやニュースなどのテレビ番組に多数出演し、メディアへの露出機会も増加した。その背景には、キャプテン・吉田麻也が「サッカーを盛り上げるため、熱を絶やさないためにテレビの出演オファーが来たら出演するように」と選手達に促していたそうだ。結果的に大会終了後、約2週間は日本代表選手がほぼ毎日のように地上波の番組に出演していた。

 W杯での活躍は、テレビ出演の機会の増加など、様々なところに影響を及ぼし、大会前に比べて日本代表への注目度は高まっている。では、日本代表への注目度アップはJリーグにはどのような影響を与えるのだろうか。W杯に出場した日本代表26名のうち、開催期間中にJリーグクラブに在籍していた選手は7人だった。その他の選手は海外クラブに所属しているが、全員が元Jリーガーだ。長友佑都や山根視来など、W杯に出場し、2023シーズンもJリーグでプレーする選手もおりリーグの注目度も上がっているだろう。そのため、観客動員数も2023年は増加することが予想される。実際、2002年の日韓大会以降、W杯開催の翌年に行われたJリーグの観客動員数は東日本大震災のあった2011年を除いて増加している。もちろん、Jリーグの観客動員数増加にはW杯以外の要因もあるだろうが、少なくとも一時的にはW杯効果で増加するだろう。

 そして、Jリーグ以上に観客動員数の増加が見込めるのはやはり日本代表の試合だ。近年、日本代表のW杯予選や国際親善試合における観客動員数や視聴率は低下している。しかし、今大会での活躍で日本代表の注目度が上がり、今後の観客動員数やテレビ視聴率は増加することが予想される。この人気回復を一過性ではなく、継続していくことが今後の課題となりそうだ。

 また、日本代表の躍進によって、サッカー人口の増加も期待できる。今大会で活躍した権田修一、三笘薫、田中碧、板倉滉の小学生時代の出身クラブである「さぎぬまSC(神奈川県川崎市)」では、大会後体験の問い合わせが殺到し、例年比の10倍以上だという。そして、毎月1回開催している幼稚園児向けの無料スクールも、募集開始後1週間もしないうちに定員がいっぱいになるようだ。実際、同クラブのホームページを見てみると、2月分も既に満員御礼となっている。また、SNSなどを見てもサッカースクールやクラブの体験や入会が増えているといった投稿も見られる。女子日本代表のなでしこジャパンが2011年のドイツW杯で初優勝を果たした時も、女の子を中心にサッカーを始める子どもは増えた。やはりW杯はそれだけ多大な影響力を持っているということだろう。

経済効果は160億円以上!?サッカー界だけでなく、日本経済にも影響が

 W杯の影響力は日本サッカー界だけでなく、日本経済にも影響を与えているようだ。第一生命経済研究所の首席エコノミスト永濱利廣氏によると、日本代表のカタールW杯ベスト16での経済効果は163億円ほどになるという。ユニフォームやグッズ、飲食などで、1試合40億円ほどの経済効果になるようだ。そのため、勝ち進めば進むほど経済効果は高くなる。ベスト8に進出していれば200億円以上の経済効果になると予想されていた。前回のロシアW杯の経済効果は約215億円だったためそれには及ばないが、コロナ禍という点を考慮すると、163億円という数字は高いと言える。

 なお、海外の複数メディアによると、カタールW杯の経済効果は2兆3000億円近くになるといわれている。なお経済効果とは異なるが、今大会でベスト16入りを果たした日本はおよそ17億8000万円の賞金を手にする。ユニフォームを始めとするグッズの売上や大会の賞金など、今大会が日本サッカー協会に与える影響は絶大だろう。史上初のベスト8入りは逃したものの、競技人口増加といった競技面や経済効果など、金銭面で大きな影響をもたらした。

 そんな日本代表は同大会を率いた森保一監督の続投が決まっている。同代表のW杯後初の戦いは3月24日に国立競技場で、28日にはヨドコウ桜スタジアムで行われるキリンチャレンジカップ(いずれも対戦相手未定)となる。今後の日本代表の戦いに注目したい。


辻本拳也

一般人社団法人クレバリ代表理事。 大学卒業後の2018年4月にサッカースクールを開校し、代表に就任。 20年2月に一般人社団法人化する。サッカースクールを運営する傍ら、ライターとして、 複数のスポーツメディアで執筆している。 これまでに、元Jリーガーのインタビューやダノンネーションズカップなど、 育成年代の大会やイベントを中心に取材してきた。