女子の試合を中心に毎週数試合を生配信

 9月30日、タイ・バンコクにてVリーグとTrue IDによる記者会見が行われている。同日、日本の男子V1リーグのウルフドッグス名古屋、サントリーサンバーズ、パナソニックパンサーズが、タイの1チームを含めた計4チームによる親善大会『JAPAN VOLLEYBALL ASIA TOUR IN THAILAND 2023「Panasonic ENERGY CUP」』が行われており、その合間に記者会見が行われた。

 True IDの権利部門長のKomin Aoudomphan氏は「True IDにとってこのような取り組みは初めて。放送・配信を楽しんでいただくだけでなく、新しい時代のバレーボールをVリーグの皆様と一緒に切り開いていきたい」と話し、現地で調印式に出席したVリーグの横井俊広監事(ウルフドッグス名古屋の運営会社TG SPORTS代表取締役社長)は、「2024・25年シーズンより開始する『Vリーグ・リボーン』の重要な柱であるアジア戦略の一環として、タイ・True IDでの放送・配信が決まったことを大変嬉しく思っている」とあいさつした。

 V1リーグの全試合というわけではなく、毎週タイ人選手のいるチームを中心に数試合ピックアップして生配信する形式。特にV1女子チームにはタイ人選手が多く所属していることもあって、2023年内のTrue IDでの配信は44試合が予定されており、その内、男子は3試合だけ、女子は41試合。年明け以降の配信予定の試合はまだ最終決定しておらず、男子日本代表のタイでの人気の高さを考えると、男子の試合が増える可能性は大いにあり得る。

Vリーグとアジア

 Vリーグのアジアへの取り組みは5年前に遡る。2018・19年シーズンにアジア枠制度が導入されて以降、外国籍選手1名に加えて、ASEANの国を中心としたアジア出身選手がVリーグでプレーできるようになった。男子ではこれまで中国、台湾、韓国、フィリピン、インドネシア、タイ、ミャンマーなど、幅広い地域の選手がVリーグの各チームに加わってプレーしてきたが、女子はタイ、フィリピン、ベトナムといった東南アジアの選手が多くプレーしている。国際大会でも好結果を出すタイ代表だけあって、選手のレベルが高く、Vリーグの各チームはアジア枠をタイ人選手で埋めるような動きが続いている。特に今シーズンはそれまでのシーズン以上にタイ人選手が多い。

 今シーズンのV1女子チームであれば、アチャラポーン・コンヨット(NECレッドロケッツ)、タナパン・ウィモンラット(東レアローズ)、チタポーン・カムランマーク(久光スプリングス)、ヌクジャン・タットダオ(日立Astemoリヴァーレ)、バムルンスック・ハッタヤ(トヨタ車体クインシーズ)、コクラム・ピンピチャヤ(KUROBEアクアフェアリーズ)といった現役タイ代表選手6人がプレーしている。V1男子チームには、今シーズンはタイの選手はおらず、下のカテゴリーのV2(2部)においては、女子チームではチャッチュオン・モクシー(ヴィクトリーナ姫路)が、男子チームではスパコン・ジェンタイソン(大分三好ヴァイセアドラー)がプレーしている。

 日本代表の選手であれば、国際試合を通じて海外の人にも見てもらう機会が多い。しかし、国内のVリーグとなると、なかなか海外の人に見てもらえる機会は少ない。そういった点でも今回の取り組みは大きなチャレンジとなる。

日本代表は男女ともタイで人気

 選手側は今回のタイでの配信についてどう感じるのか、リーグ開幕直前に開かれた記者会見時に選手たちに話を聞いてみた。

 「本当に楽しみです」と答えてくれたのはNECレッドロケッツの小島満菜美。自らもタイでの日本バレー人気を実感したという。

「今シーズン、私も日本代表のB代表で、タイで試合することがあった。タイの人はバレーにすごく関心を持っているし、熱いと思いました。試合会場は満席だったし、日本のバレーがタイで人気だったとは聞いていたけど、実際に選手の事も知ってくれて熱いなと思いました。タイに入国した時なんか、空港にファンの方がいて「小島さーん!」って言ってくれる方がいた。(配信によって)日本代表だけでなく、日本国内のバレーがこんなに面白いんだと思ってもらえるきっかけになるし、タイの人たちも日本までたくさん来て下さるので、お互い刺激になるのかな」

 KUROBEアクアフェアリーズの佐藤彩乃も、この機会を生かしたいという。

「その発表を見た時に、(自チームにいる)コクラムがタイのアイドル的存在とは知っていたので、その面でもコクラムを生かせるようなチームにしっかりなっていきたいし、そうできたら、日本のみならず海外からも興味を持ってもらえて、(ファンの)規模が大きくなる。日本だけでなく”人間全員"に一人でも多く伝わればいいな」

 一方、男子では日本代表の山内晶大(パナソニックパンサーズ)が、面白い観点で話してくれた。

「ありがたいですね。日本のファンはもちろんたくさん見てくださっているし、SNSを通して海外からの応援メッセージやコメントが来る。日本だけで配信するのではなく、海外に向けても配信、発信するのは大事。自分たちの価値をより高めて、認知度を高めて、人気を高めるのは重要だと思います。(こういったきっかけで)日本に来てバレーを観て、観光を楽しんで、食事を楽しんでと、日本を好きになってもらえたらいいと思います」

 現在、Vリーグは変革期真っただ中で、稼げるリーグにしようと動いている。選手側もプロ選手が増えている。各チームや選手たちは、自らの価値を高める必要性が高まっていることもあり、こういった海外配信はマーケットを広げる上でも大きいのは間違いない。

SNSでも大きな割合を占める

 男子日本代表は近年、とにかく東南アジアでの人気が高い。毎年5〜7月にかけて行われるネーションズリーグがタイやフィリピンで試合開催される時や、8〜9月頃に行われるアジアの大会では、男子日本代表の選手見たさに会場が溢れることが度々だ。筆者も2022年8月にタイ・ナコンパトムで行われたAVC cupを取材しに現地を訪れたが、男子日本代表の選手全員に黄色い大声援が飛び交い、あまりの人気ぶりに戸惑う選手もいたほどだった。

 東レアローズの峯村雄大は、日本代表の人気の影響が自チームにも及ぶという。

「代表選手が活躍すればするほど、僕ら(東レ)のSNSのフォロワーの中にも、恐らく翻訳機能を使ってメッセージやコメントを送ってくれるアジア圏の人がいる。自分のアカウントにもある。また、タイから差し入れが届くこともあって、熱量の高さを感じます。こうやって東レが人気なっていくのが嬉しいですね」

 サントリーサンバーズの大宅真樹は、冒頭のタイ・バンコクでの親善大会に出場し、現地での熱狂ぶりを体感している。

「アイドル化されたとかではないですけど、キャーキャー言っているファンもいるほど。悪い気持ちはしないし、僕ら選手もテンションあがったし、ああいう雰囲気の中での試合はモチベーションが上がりましたし、良い経験でした。(タイでの配信は)めちゃくちゃ嬉しいこと。代表選手だけでなく、魅力的な選手がVリーグにはたくさんいるので、まずアジア圏内でいいので、他の国の方々に見てもらえれば、日本のバレーボールが今も爆上がりしていますけど、さらに人気があがると思う」

試合後、日本代表選手に声をかけようと待ち構える現地ファン(撮影:大塚淳史)

 同じくサントリーの小野寺太志は、SNSの実態を教えてくれた。

「僕のインスタのフォロワーの4割くらいが東南アジアの方で、1、2割くらいがタイ人。日本男子バレーにすごく注目してくれているし、(ネーションズリーグの)フィリピンでの試合とかもすごかった。(タイでの配信を通じて)僕らの試合を見て貰えるのは嬉しいし、盛り上がって貰えると嬉しい」

 今シーズンからパナソニックでプレーする日本代表のエース西田有志は「アジアでそういう風にバレーを盛り上げる機会はいいと思うし、日本でもっと盛り上げるのが大前提ではあるけど、そこを明確にして大きなビジネスに繋げていければと思っています。(SNSのフォロワーは?)東南アジアが40%で日本人よりも多いです。タイとかフィリピンとかの方が多いですね」と明かしてくれた。

 YouTube、Instagram、X(旧Twitter)、TikTokなど、SNSでの日本のバレー関連の投稿には、海外からの書き込みが多い。日本代表選手たちやVリーグ各チームなどのアカウントの投稿には、タイ語、タガログ語、インドネシア語、中国語の書き込みが非常に多く見られる。既に高い人気があるだけに、これをどうビジネス面に繋げるかはVリーグの手腕次第だろう。

 タイでの配信でさらに日本バレーのファンが増え、そこから日本まで試合観戦と観光を兼ねたタイ人ファンがたくさん増えるかもしれないし、タイだけでなく他の地域でも配信が増えていくかもしれない。そうなればVリーグの価値が上がって、最終的にはチームや選手たちにも還元されることになるだろう。この好機を生かしてほしい。

Vリーグだけでなく、BリーグやJリーグも

 時を同じくして、バスケットボール男子Bリーグも、10月12日にフィリピンでの配信を発表している。フィリピン大手テレビ事業グループで、エンターテインメント・スポーツを中心に放送する「Solar Entertainment Corporation社」とBリーグが提携して、公式戦を配信する。Bリーグもアジア枠があり、バスケ熱の高いフィリピンから多くの選手が参戦している。2023年10月1日時点で、現役代表を含めて12人のフィリピン人選手たちがプレーしている。Bリーグも以前から海外向けの配信に取り組んでおり、これまではYouTubeのBリーグ国際版チャンネルにて、日本からは視聴できない制限をかけて試合を生配信している。同様に、サッカーのJリーグも海外配信に積極的に取り組んでおり、2022年は60カ国で放送・配信、YouTubeの国際版でもエリア制限を設けて配信している。

 リーグの配信料は金額規模が大きくなるだけに、今後の日本の各リーグも積極的に取り組むことになるだろう。


大塚淳史

スポーツ報知、中国・上海移住後、日本人向け無料誌、中国メディア日本語版、繊維業界紙上海支局に勤務し、帰国後、日刊工業新聞を経てフリーに。スポーツ、芸能、経済など取材。