ゴルファーの特性にマッチ
3月にパシフィコ横浜で開催された国内最大級の展示会「ジャパンゴルフフェア2024」。関係者の間で話題になったのがキヤノンの初見参だった。デジタルカメラやプリンターなどを手掛ける同社は、言わずと知れた日本を代表する大手光学機器メーカー。今回お披露目されたレーザー距離計は「PowerShot GOLF(パワーショットゴルフ)」。当時は発売未定とされて「参考出展」という形を取ったが、ブースにはひっきりなしに人々が訪れて賑わっていた。
大きな特長は二つ。一つ目がデジタルズーム機能で、6倍、12倍と2段階の倍率が可能。遠くにあるグリーンでも的確に捕捉し、正確な測定に寄与する。二つ目がさらに画期的で、動画と静止画ともに撮影できる。ゴルファーの特性として、自らのスコアやプレー内容を記録に残す人が少なくない。最近ではスマホなどでアプリにデータを入力する場面が散見される。ラウンドを後で振り返ることは、ゴルフの醍醐味の一つ。パワーショットゴルフでは測定距離とともに撮影でき、プレー後の楽しみに大いに貢献できそうだ。
これらの機能を手のひらサイズでポケットにも入る大きさに詰め込めるのは、カメラの分野などで蓄積してきたキヤノンのテクノロジーの粋といえる。同社には望遠鏡型のデジタルカメラ「PowerShot ZOOM(パワーショットズーム)」という製品があり、この技術も生かされているという。キヤノンマーケティングジャパン・カメラマーケティング部の井沼満里奈さんは「測定した距離情報を記録でき、振り返りに使用できる点は大きなアピールポイントです」とPRした。
要望先取りの次世代型
全米女子オープンで笹生や渋野が難しいコース設定の中、しっかりとグリーンを狙ったように、パー4やパー5のホールで2打目以降の残り距離の把握は、スコアに直結する。距離計は2019年の競技規則改定で使用を認められるようになり、プロの試合でも解禁の傾向が拡大。アマチュアが使用している光景は日常化した。追い風に乗って、キヤノン以外でも距離計は着々と進化している。
例えば、この分野で老舗といえるのが米国の光学機器メーカー、ブッシュネル。調査会社によると、プロ使用率が95%と高い実績を誇る。最新型の「ピンシーカープロX3プラスジョルト」には風の測定という斬新な機能がつき、風向きや風速を矢印と数値で表示できる。また、ブッシュネル史上最小・最軽量をうたうモデルも新投入。ブッシュネルサポートセンターでもある阪神交易の関係者は次のように語っていた。「おかげでさまで多くの予約をいただいています。これからも皆さまの信頼感やニーズに応えていきたいと考えております」。他社との競争の中でも地に足の着いた印象だった。
プレーヤーのスコア改善に役立つという点で、ゴルフフェアでは距離計以外でもGPSや半導体センサーといった最新のテクノロジーを活用した製品が目立った。グリップに装着してクラブの動きやショットの情報を記録するデバイス、腕時計型でグリーンの形状を含めたコースマップや残り距離が表示される機器など多岐にわたった。ゴルファーたちの要望を先取りするような、次世代モデルの様相を呈していた。
魅力的なマーケット
新型コロナウイルス禍でゴルフは感染リスクの低い余暇として再評価された。屋外で行い、プレーヤー同士の距離が取れるためだ。日本生産性本部発行の「レジャー白書2023」によると、2022年のゴルフ用品の販売は前年比4・9%の伸びで3640億円。「引き続き堅調」と分析されている。ゴルフ場については、2021年の1ゴルフ場当たりの年間利用者数は4万1千人を超えて21世紀で最多。売上高も客単価が上がったためコロナ禍前を上回る数字となっていた。
ゴルフフェアの会場では例年通り、至るところで大きなネットが設置されて各メーカーのクラブ試打が実施されたり、今季から米女子ツアーに主戦場を置く吉田優利や女子の元世界ランキング1位の宮里藍さんらよるトークショーが行われたりした。加えて時世を反映するように、YouTubeで人気の講師によるレッスン会など活力にあふれていた。初出展だったキヤノンマーケティングジャパン・カメラマーケティング部の長田真一さんは「ゴルフは魅力あるマーケットだと思います。皆さんの上手になりたいという強いエンゲージメントを感じます」と感想を口にした。
笹生や渋野らの全米女子オープンでの活躍により、日本でのゴルフを取り巻く環境に多方面で刺激が加わることが予想される。また、ゴルフフェアの来場者からは、キヤノンがまだ距離計を作っていなかったのは意外という声も聞かれた。「パワーショットゴルフ」の残したインパクトは確かなものだっただけに、発売予定となっている7月下旬以降の売れ行きは興味深い。先端技術と融合して各メーカーの切磋琢磨が激しくなれば、ゴルファーたちにとって恩恵が増えることが期待される。