色褪せるはずもない、リーグ屈指の攻撃力
CSファイナルステージでは、シーズンで14.5ゲーム差をつけたDeNAに完敗。その負け方がショッキングであったことから、シーズン中の戦いぶりが記憶の彼方へと押しやられてしまった感すらあるのだが、今あらためて数字を振り返ってみると、広島の強さはやはり突出していたといっていい。
特に強さの象徴ともいえる攻撃陣の成績は、打率.273、736得点、1329安打、152本塁打、705打点、長打率.424、出塁率.345。全てセ・リーグ1位の成績だ。くわえて、得点圏打率は実に.294という高打率で、こちらもリーグ1位と“高品質”である。
「走」の凄みも健在だった。チームの盗塁数112は2年連続でリーグ1位であることはもちろん、盗塁成功率は16年の.702からさらに上げ、.747というハイアベレージを残している。
また、攻撃陣の中核をなした鈴木誠也を「新4番」に据え、勝ちながら育てようとする試みを成功させたのも広島ならではだろう。8月23日のDeNA戦で足を骨折、戦線離脱した鈴木だが、115試合で打率.300、26本塁打、90打点。“4番1年目”としては十分過ぎる成績である。
その鈴木を筆頭に広島の攻撃陣は田中広輔、菊池涼介、丸佳浩、安部友裕、西川龍馬など多くの主力が20代。30代は32歳の松山竜平くらいのもので、今季、“ほぼ正捕手”の座についた會澤翼も来年で30歳と、まさにこれからの年代だ。
リーグ屈指の攻撃力をつくり上げた石井琢朗コーチが退団したことで来季以降の打線を心配する声もあるが、「(石井コーチの)通訳みたいなもん」と自称する東出輝裕コーチと、もう一人の“通訳”であり、若手とのパイプ役として機能した迎祐一郎コーチの3人でつくり上げてきた打線である。いわば、石井コーチの頭脳と役割を分配してきた2人が“健在”なわけだから、指導方針がブレることはない。攻撃力に関しては、あまり心配する必要はないだろう。
復活した機動力野球と超積極的守備
広島の、もう一つの攻撃のウリである機動力野球をつくり上げた河田雄祐外野守備・走塁コーチも退団。チームにとってはこれもまた痛手ではあるが、同ポジションには、OBの廣瀬純氏が就任した。
その廣瀬コーチは現役時代、鉄砲肩と巧打で慣らした外野手であったと同時に、丸の専売特許となっている敬礼ポーズの発案者であり、応援テーマのファンファーレと“もみあげ”を引き継いだ菊池の兄貴分的な存在である。選手との距離は近く、熱血ぶりは河田コーチに優るとも劣らずだ。ベンチのムードを変えることのできる明るさもある。コーチ就任以前には「『2人(石井・河田)コーチがいなくなったから弱くなった』と言われないような意識を(選手に)持ち続けてほしい」と語り、コーチ就任当初の会見でも「(守備・走塁の)精度を上げていかないといけない」と、河田イズムの継承と底上げを示唆していることからも「1点を取りにいく野球、隙のない走塁」は、来年以降も変わることはなさそうだ。
2軍にひしめく、ネクスト・タナキクマル&誠也
CSでは鈴木誠也、エルドレッドにくわえ、リーグ4位の打率.310を残した安部の故障離脱によって層の厚み不足を指摘されたように、広島がより強固なチームをつくりあげるには、若手のさらなるボトムアップは必須条件となってくるのだが、2軍の現況を見る限り、見通しはまずまず明るい。
なかでも来季のブレイク候補筆頭に挙げられるのが、今季ウエスタン・リーグで打率.331の成績を残し、首位打者のタイトルを獲得した自前の外国人、メヒアだ。同じアカデミー出身のバティスタが、一発長打が魅力のエルドレッドタイプだとすれば、メヒアはヒットの延長が本塁打で広角に長短打を打てる鈴木誠也タイプの大砲だ。今季終盤に来日初安打、CSでも安打を記録するなど、1軍の一線級の投手の球を経験できたことは大きなプラス。守備面での課題である捕球時のツメの甘さをクリアできれば、来季の大ブレイクは固い。
そのメヒアをはじめ、広島勢は今季のウエスタンの打撃成績1位から4位までを独占している。
2位は高卒ルーキーの坂倉将吾(.298)で「前田智徳以来の逸材」との声もある打撃、谷繁元信氏が「構えがいい。雰囲気がある」と認める「守り」を持ち合わせる大注目の若手だ。
そのほか3位の庄司隼人(.294)はプロ8年目にして、今季最終戦でプロ初安打を記録。打撃でのしぶとさと選球眼を身に付けるなど着実に伸長。4位の高橋大樹(12年ドラ1)は課題であった確実性を身に付けて7月のウエスタン月間MVPを獲得するなど成長を見せれば、同期の美間優槻も9・10月に打率.490、5本塁打、11打点を記録し同月の月間MVPを獲得。秋のフェニックス・リーグでも37打数18安打、打率.486、10打点、1本塁打。来季の三塁レギュラー争いのダークホース的存在となるなど、攻撃陣の層は着実に厚みを増している。
2年目の高橋昂也にブレイクの予感
2軍も元気な攻撃陣に比べると、投手陣はやや数字を下げた印象は拭えない。
チーム防御率3.39はリーグ3位で540失点。16年は防御率3.20、497失点といずれもリーグ1位を記録したことを考えると物足りなさを感じるのだ。特に被安打数は16年が1194本に対して、今季は1182本と減少しているにもかかわらず、失点が増えているのは、今季476を数えた与四球数による影響だろう(16年は418)。
さらにいえばCSファイナルステージがそうであったように、投手陣は一度崩れ始めるとなかなか歯止め&修正が効かなくなる傾向があるだけに、このあたりを投手コーチおよびバッテリーコーチがどのように捉え、対応していくのか。コーチングスタッフの腕の見せどころといえそうだ。
とはいえ、黒田博樹が引退、ジョンソンはケガなどで長期離脱という台所事情のなかにありながら、薮田和樹が15勝3敗の成績で最高勝率のタイトルを獲得。2年目の岡田明丈も12勝5敗、大瀬良大地もルーキーイヤー以来3年ぶりとなる10勝(2敗)を挙げるなど、若手の活躍がなければ連覇はあり得なかったことを考えれば、“与四球問題”も成長過程の一つと捉えても無理はないだろう。
CSファイナルでの敗退の要因として左腕不足が取り沙汰されたが、ことシーズンに関しては、それでも2位以下に10ゲーム差をつけて圧倒したというものまた事実。左腕問題が解消すれば、チーム力はさらに上がることは間違いない。
その左腕問題のなかにあって、来季の活躍が期待されているのが高卒ルーキー、高橋昂也だ。今季はチームの育成方針で春先からみっちり下地づくりを行ったが、6月10日の2軍阪神戦でデビューすると、そこから7試合に登板、28回を投げて防御率1.29。巨人とのファーム選手権では先発に抜擢されて6回を3安打2失点と好投し球団史上初の「2軍日本一」を呼び込んだ。フォークボールの精度をもう1ランク上げれば、開幕ローテ入りも現実味を帯びてくる。
もちろん、高橋ひとりの存在で左腕不足が解消されるわけではないのだが、今ドラフトでチームは左腕の指名は見送っている。このあたりは、今季高卒2年目で今季1軍デビュー、プロ初先発も経験した高橋樹也、さらには左肘関節手術から来夏までの復帰を目指す大卒ルーキーの床田寛樹、3年目の150キロ左腕・塹江敦哉、そして実績のある戸田隆矢らにチャンスを与えて育てるという球団の意思表示というところ。
もう一つの対策は外国人左腕の獲得だ。周知の通り広島にはルイス、バリントン、サファテ、ミコライオ、ジョンソン、ジャクソンなどを日本に呼び寄せた敏腕・シュールストロム駐米スカウトがいる。その確かな目利きから、ファンの間では「任せて安心、シュール便」といわれる同氏の腕にも左腕問題解消の期待がかかる。
目先に走らなかった今ドラフトにみる広島の決意
昨季25年ぶりの優勝を果たし、今季は37年ぶりのリーグ連覇を達成。その後、CS敗退という憂き目をみるという「天国と地獄」を味わってしまえば、来季はなにがなんでも日本一を…、という方向に走り出してもなんら不思議はない。実際に一部のメディアなどでも、今秋のドラフトでは「即戦力左腕を獲得するべき」という声は少なくなかった。
それでも広島は夏の甲子園で6本塁打を放った地元・広陵の中村奨成捕手の指名をドラフト前に公言し、実際に指名した。その他も3位のケムナブラッド誠(日本文理大)と6位の平岡敬人(中部学院大)を除く7人が高校生だ(育成含む)。前出の大学生2投手にしても左投手ではなく「右」で、即戦力というよりも数年後の台頭を見据えた素材型の選手である。
つまり、広島は目先に走ることなく、未来を見据えたドラフト指名を敢行。チームとして“好素材を獲得して育てる”という広島スタイルを、今後も推し進めていく覚悟をドラフトで示してみせたのである。
この選択は大正解ではないかと思うのだ。
かつて黄金時代を築き上げたチームは多々あれど、目先にこだわった戦力補強やドラフト戦略がチームの展望をボヤけさせ、それが若手の育成にまで悪影響を与えてチームは弱体化…、というケースもまた少なくないだけに、長期的視野を失わない広島の“目線”には芯の強さを感じるのだ。
“なるか、広島の3連覇”…と、今回はテーマを掲げてみたものの、球団そのものが来季のみを見据えていないのである。もとより広島は、その姿勢を貫いてきたことで現在の勝てるチームをつくり上げてきたわけであるから、“鯉の躍進”は、もしかすると、まだ始まったばかり。今はまさに進化の過程といったほうがいいのかもしれない。
<了>
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