ワールドカップの経済効果は外国人頼み?

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組織委員会が新日本有限責任監査法人の協力のもと算出した経済波及効果は、2015年度から2019年度の5年間の総計で4372億円。このうち、訪日外国人客による消費支出1057億円、インフラ整備費が400億円、国内客による消費支出が160億円で直接効果は全体で1917億円、日本のサプライチェーン全体を通じた需要拡大などの第1次間接効果が1565億円、雇用増加による消費拡大などの第2次間接効果が890億円となっています。

「サンウルブズ」を運営する一般社団法人ジャパンエスアールのチーフ・ブランディング・オフィサー(CBO)を務める池田純氏は、発表された数字について、ワールドカップの価値や日本で開催する意義についてあらためて考えさせられたと言います。

「日本ラグビーフットボール協会と、サンウルブズ、そしてワールドカップの組織委員会は、別組織に近い形態なので、“当事者”としての見解ではありませんが、日本を訪れる外国人観戦者が落とすお金への比重が高いなという印象です」

今回の発表では、訪日外国人客による消費者支出は1057億円となっており、国内客の消費支出160億円と比べるべくもなく、かなり大きな比重を占めることになります。

「今回のラグビーワールドカップでは、最大40万人の外国人観光客を見込んでいるといいます。ラグビーは世界的な人気競技なので、たとえ開催地が遠くてもファンは自国の応援にワールドカップに駆けつけます。彼らは、自分の国の代表が勝っているうちは、日本に滞在してくれるでしょう。目的の試合のチケットをあらかじめ買っておいて、滞在中はその試合を見る。仮に、40万人が一人当たり3試合程度を見るという計算をすると、全体で販売されるチケットは180万枚ですから、日本人はのべで60万人しか試合を見ないということになります」

池田氏が不安視するのは、外国人客の行動が自国チームの勝敗に大きく左右される点です。

「世界中からラグビーファンがやってくるのは素晴らしいことですし、間違いなくこれぞワールドカップという雰囲気に刹那的にはなるとは思うのですが、過去大会の話を聞いていると、彼らは自国の代表チームが負けると帰ってしまうと耳にします。負けた瞬間に、勝ち進む前提で買っておいたチケットも売ってしまう。そう考えると、経済波及効果の外国人客に対する依存率が高いのは少し心配です。もちろん日本代表が勝ち進んで、日本のファンが見に行くとなれば素晴らしいのですが……」

池田氏は「外国人頼み」と見えても仕方ない経済波及効果の構造は、不確定要素が大きいと指摘します。

「チケット収入がどれだけ見込めるかということは経営的な見通しにも直結することですが、その収支が“外国人頼み”になっていると、経営者としては『ボラティリティ(変動性)が高い』と判断せざるを得ないわけです。自国が負ければ帰ってしまう外国人客よりも、日本に住んでいて、チケットを買えばだいたい見に行くであろうと考えられる日本人の方が、経営的な確実性が高いといえます」

日本のラグビー界にとってのKPIを設定すべき

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池田氏は、経済波及効果だけでなく、今後の日本ラグビー界のためにも「日本人客」にこそ目を向け、ワールドカップで何を目標にするのかを明確にすべきだと主張します。

「私が考えた方がいいと思っているのは、そもそも『ラクビーワールドカップを日本でやる意義とは何か?』ということです。経済波及効果もその理由のひとつではあると思いますが、ラグビー界にとっての本質的課題に対しては、それがメインでは無いはずです。『ワールドカップ後に何を残すのか?』を考えなければいけないと思います」

2015年のイングランド大会では、日本代表が世界の強豪、南アフリカ代表に歴史的な勝利を挙げたことで、国内でもラグビーブームが到来しました。しかし3年たった現在、ブームは去りラグビーへの関心はそれほど高いとはいえない状況が続いています。

「五郎丸歩選手を擁するラグビー日本代表がブームになり、世の中の人がみんな五郎丸ポーズをまねしたり、日本代表の活躍を話題にしました。あの時の活躍は、普段ラグビーを見ない人たちにも確実に届いていましたよね。今ではラグビーへの関心がそれ以前の状態に戻ってしまって、2019年以降はどうなるんだろうと考えたとき、大切なのはワールドカップで日本人がどれくらいスタジアムに足を運んでくれて、どれくらいラグビーに触れて、その後も見る人や、プレーする子どもたちがどれくらい増えるのかという方が大切なはずだと感じます。そして『その後の日本のラグビー文化の発展にどうつなげるか?』ということではないでしょうか」

池田氏は、スタジアムに足を運ぶ日本人の観客数、ワールドカップを通じたラグビーへの関心度、観戦人口、競技人口の増加などは、「2019年ラグビーワールドカップのKPI (Key Performance indicator/重要業績評価指標)になる」と言います。

ビジネスの世界では、大きな目標に対してそのプロセスが順調に進んでいるのかどうかを判定、評価するための指標としてKPIをよく用います。外国人客の消費行動という不確定要素をはらんだものを根拠にするより、日本で行われるワールドカップが日本人に何を残すのかという視点で、日本人客、日本人の関心度を指標とした方がいいというのは、2019年以降の日本におけるラグビーの可能性を考えるとき、より目標に適した指標といえます。

「日本の人口はこれからも減る一方です。その中で、ラグビーというスポーツがどうやって普及、発展をしていくのか。それをこのワールドカップというビッグイベントをうまく活用して戦略的に動かしていくというビジョンが必要だと思います」

2019年9月20日から11月2日の44日間にわたって開催されるラグビーワールドカップは、2018年に行われるサッカーのロシア・ワールドカップの32日間、2016年に行われたリオデジャネイロオリンピックの17日間よりも長く行われ、規模の面で見ても世界最大規模のスポーツイベントの一つであるのは間違いありません。

こうした“チャンス”をどう活かすことができるのか? インバウンド効果に期待を寄せる開催地とは別に、ラグビー界が一丸となって日本における「ラグビーの存在感を高める大会」とするための舵取りが求められています。

<了>

取材協力:文化放送

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VictorySportsNews編集部