史上最長となる2018年の「死のロード」
8月5日に開幕した第100回全国高等学校野球選手権記念大会。今年も早朝から球場の前にチケットを求める観客が詰めかけるなど、例年並みか、それ以上の盛り上がりを見せている。
史上最多、全国56地区の代表校が集い、21日に予定されている決勝戦まで17日間で55試合の熱戦が繰り広げられる。今や日本において、「高校野球」を超える夏のイベントは存在しない。
そんな中、「夏の高校野球」開催の裏でひっそりとあおりを食らっているプロスポーツ球団がある。
阪神タイガースだ。
プロ野球、セントラル・リーグに所属する阪神の本拠地は、夏の高校野球が開催される阪神甲子園球場。そのため阪神は毎年、夏の甲子園開催期間中は本拠地を使用することができず、3週間~1カ月もの長期間にわたってビジターを転戦する「長期ロード」を強いられている。
「死のロード」とも呼ばれるこの長期遠征は過去、阪神にとって「鬼門」と呼ばれ続けてきた。
春先の開幕から4カ月が過ぎ、選手たちにとっては体力的に最も厳しい夏場。気温も高く、その消耗度は想像に難くない。そんな時期に、1カ月近くホームを離れ、敵地を転々とする遠征が続くとなればどうだろう。当然、選手の疲労度はピークに達し、チーム成績にも影響を及ぼす。
事実、過去の阪神は8月の長期ロードで大きく負け越し、優勝争い、Aクラス争いから脱落することが多々見受けられた。
「死のロード」とは、そういった過去の結果から名づけられた造語である。
特に近年は、甲子園開幕前に各校の甲子園練習が行われたり、選手の健康面を考慮して予備日を設定するなど、高校野球に甲子園を「占拠」される期間が長くなる傾向にある。
高校野球開催中の阪神の遠征は、昨年が7月28日~8月27日、今年も7月26日~8月26日と、ちょうど1カ月間。これはともに史上最長だ。
高校野球による球場使用で長期遠征を余儀なくされている球団は、プロ野球12球団の中で阪神のみ。これでは、あまりにも不公平なのではないか……。
そう思って過去の阪神の「死のロード」期間中の成績を調べてみると、意外な結果が出た。
近年は必ずしも悪い成績ではない
以下に、過去10年間、甲子園開催期間中の阪神の成績と、その年のシーズン成績を並べてみよう。
【2017年】
14勝9敗1分 勝率.609
78勝61敗4分 勝率.561(リーグ2位)
【2016年】
11勝9敗 勝率.550
54勝76敗3分 勝率.457(リーグ4位)
【2015年】
12勝8敗 勝率.600
70勝71敗2分 勝率.496(リーグ3位)
【2014年】
11勝10敗 勝率.524
75勝68敗1分 勝率.524(リーグ2位)
【2013年】
14勝9敗 勝率.609
73勝67敗4分 勝率.521(リーグ2位)
【2012年】
7勝14敗3分 勝率.333
55勝75敗14分 勝率.423(リーグ5位)
【2011年】
9勝9敗2分 勝率.500
68勝70敗6分 勝率.493(リーグ4位)
【2010年】
10勝13敗 勝率.434
78勝63敗3分 勝率.553(リーグ2位)
【2009年】
11勝10敗 勝率.524
67勝73敗4分 勝率.479(リーグ4位)
【2008年】
6勝8敗 勝率.429
82勝59敗3分 勝率.582(リーグ2位)
過去10年間の「死のロード」成績を見てみると、大幅に負けが込んでいるという印象はほとんどない。ここ5年間は連続で勝ち越しているし、10年トータルで見ても勝ち越しが6回、負け越しが3回、勝率5割が1回と、「死のロード」と呼ぶほどの大惨敗は喫していない。
遠征期間自体は過去より長期化しているはずなのに、一体なぜか。
大前提として挙げられるのが、阪神という球団自体の「実力」だ。およそ40年前、1970年代終盤から阪神は長い低迷に苦しんだ時代があった。特に1980年代後半から2000年代初頭にかけては「暗黒期」といわれ、1985年に球団初の日本一に輝いたのち、実に18年間も優勝から遠ざかってしまった。その間、Aクラスはわずか2回、最下位が10回。夏の長期ロードが「死のロード」と叫ばれていたのは、ちょうどこの時期とリンクする。開幕から好調を維持しても、シーズン最大の山場となる8月になると失速し、下位に低迷。ちょうどその時期が高校野球の開催期間、「長期ロード」とも重なり、いつしかこれが「死のロード」と呼ばれるようになったのだ。
しかし、阪神は2003年に18年ぶりの優勝を勝ち取ると、2005年には再び優勝、以降は優勝こそ遠ざかっているものの、「暗黒期」のように毎年のように最下位争いをするわけではなく、コンスタントにAクラスに名を連ねている。
加えて、プロ野球における「遠征」そのものの在り方も、昔と今では大きく違う。交通機能が発達した現在、日本全国、どこに行くにもそこまで大きな負担はない。特に阪神の所属するセ・リーグは関東に3球団、東海、近畿、中国に1球団ずつと、北海道から九州まで球団があるパ・リーグと比較しても移動による負担は少ない。
故・星野氏がマスコミに要望したこと
さらに言えば「ロード」と言いながらも近年は京セラドーム大阪での「主催試合」も遠征期間中に組み込まれている。
今年でいえば8月4~5日のヤクルト戦、14~16日の広島戦が京セラドーム大阪で行われるため、実質的なロード最長期間は17~26日までの10日間(9試合)となる。この程度の遠征期間は、シーズン中では別に珍しいことではない。
加えて、猛暑が続くこの時期、屋外の甲子園ではなく空調の効いたドーム球場での試合が増えることは、選手のコンディション面を考えるとプラスと捉えることもできる。
「死のロード」は、もはや「死語」になりつつある。
事実、2002年には当時の監督・星野仙一氏(故人)が「死のロード」という表現をやめるよう、マスコミに要望したこともあった。当時の阪神はまだ「暗黒期」の真っただ中だったが、「死のロード」というネガティブな言葉を使うことで選手が苦手意識を持つことを避けたかったのだろう。
そして実際、この発言の翌年に、星野監督は阪神を18年ぶりの優勝へと導くことになる。
「死のロード」という言葉は阪神の暗黒時代の象徴であり、その終焉を境に消えつつある。
もし今後、「死のロード」という言葉が再び注目を集めるようなことがあるとすれば、それは阪神に再び「暗黒期」が訪れたことを意味するのかもしれない。
<了>
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