ドラフトで指名するのは、即戦力か、将来を見据えた逸材か、それとも……

10月25日に行われるドラフト会議。各球団がどの選手を指名するのか、1位指名での競合や抽選の行方など、今年もまた多くのドラマが生まれそうな予感が漂っている。

前日24日の時点で1位指名選手を公表したのは5球団。ヤクルト、巨人、中日が根尾昂(大阪桐蔭)、ロッテが藤原恭大(大阪桐蔭)、ソフトバンクが小園海斗(報徳学園)を1位で指名すると早々に発表している。

名前の挙がった3選手は、そのすべてが高校生。今年の夏、甲子園を沸かせた球児たちだ。

この3選手に金足農のエース・吉田輝星を加えた4人の高校生、さらには甲斐野央、上茶谷大河、梅津晃大(すべて東洋大)、松本航(日体大)、齋藤友貴哉(ホンダ)あたりの「即戦力投手」が1位指名の本命とみられている。

現時点での実力を見ると、当然ながら大学・社会人の選手の方が上なのは間違いない。来季の戦力アップを考えるのであれば、やはり「即戦力」といわれる選手の指名に踏み切るのが妥当だろう。

ドラフトの指名は、各球団の戦力や育成方針に大きく左右される。日本ハムのように「その年一番の選手を指名する」というシンプルな方針を貫く球団もあれば、来季へ向けて即戦力を欲する球団、数年後を見据えて高校生を中心に指名する球団など、さまざまだ。

自チームの現状や戦力にいかにフィットする選手を獲得できるか。

これがドラフトの大前提だが、選手の実力、チーム事情に、もうひとつ大きな要素がある。

「一人で客を呼べる選手」の価値

それが「スター性」だ。

「人気」「知名度」という言葉に置き換えてもいい。

わかりやすい例を挙げるとすれば、清宮幸太郎がそうだ。昨年ドラフトでは高校生史上最多タイとなる7球団が競合。抽選の結果、日本ハムへ入団することになったが、これほどの球団が競合覚悟で清宮の指名に踏み切ったのは、彼の圧倒的な実力・将来性はもちろん、1年生から甲子園を沸かせ、社会現象まで巻き起こした「スター性」も大きく影響していたはずだ。

アマチュア時代から実績を積み、スターとなった選手はそれこそ1年目のキャンプから大きな注目を浴びることになる。

清宮以前にも、清原和博、松井秀喜、松坂大輔、田中将大らはプロとしての実績がゼロである1年目から連日スポーツニュースをにぎわせ、全国民から注目を集めていた。

もちろん、そこに結果が伴わなければ大きなリスクも生まれる。「人気先行」「客寄せパンダ」といった心無い言葉を浴びせられることも多い。

ただ、プロ野球を「興行」、選手を「プロアスリート」と考えたとき、この「スター性」は大きな強みにもなる。

プロ野球選手の高額な年俸は当然ながら球団から支払われているが、その球団の収入源となるのが球場に来場する観客の入場料、グッズ収入、放映権料などだ。

2018年、プロ野球は年間で2555万719人もの観客を球場に集めた。これほどの動員力を誇る興行は、現在の日本にはプロ野球以外に存在しない。だからこそ、各球団の「一流」と呼ばれる選手は数億円という高額な年俸を得ることができる。

そう考えると、球団にとって価値のある選手とは、実力はもちろん球場に観客を集め、グッズ収入が見込める「人気」を併せ持っている必要がある。

プロ野球には「一流」と呼ばれる選手は数多くいるが、その中で「一人で客を呼べる選手」となると、決して多くはない。実力はもちろん、人気も併せ持つ――。そういった選手こそが、日本球界の「顔」であり「象徴」になりうるのだ。

となると、今年のドラフトでも「即戦力」と呼ばれる大学・社会人よりも高校生に人気が集まりそうな理由もうなずける。特に今夏の甲子園は100回記念大会であり、その注目の中で春夏連覇を達成した大阪桐蔭の根尾、藤原両選手、準優勝ながら大フィーバーを起こした吉田投手は、将来的に「日本球界の顔」となる可能性を秘めた「スター性」を持っているといえる。

もちろん、すべての球団が「スター候補」を指名すべきというわけではない。チームの人気や観客動員に最も影響を及ぼすのはやはり「チームの勝敗」であり、プロ野球を戦う上で人気ばかりを追い求めて実力を無視することはナンセンスだ。いかに根尾、藤原、吉田が人気と実力を兼ね備えた選手であっても、チームの補強ポイントとマッチしなければ、無理に指名をする必要もない。

ただ、地上波中継がほぼなくなり、競技人口減少が叫ばれている現状を考えると「スター選手」を欲している球団は決して少なくない。

そんな中、近年のドラフトを見てその「意志」を最も感じるのが球界の盟主・巨人だ。

巨人のドラフト指名の傾向と、国民的スターの必要性

数年前までの巨人は、どちらかというと競合が確実視される「目玉」の選手よりも、翌年以降の勝利を優先するような「即戦力」の指名に走る傾向が多々みられた。

しかし、近年はその方針を大きく転換して競合覚悟の果敢な指名を見せている。2016年には田中正義(創価大→ソフトバンク)を、翌17年には清宮幸太郎(早稲田実→日本ハム)と2年連続で最多競合となった「その年の目玉」を指名。ともに抽選で交渉権は逃したが、この指名方針には大きな拍手を送りたい。

断りを入れておくと、筆者は巨人ファンではない。ただ、それでもやはり、巨人には「国民的スター」が必要だと考えている。長嶋茂雄、王貞治、松井秀喜……。プロ野球が盛り上がった時代にはいつも巨人のユニフォームをまとった国民的スターが存在した。もちろん、現在の巨人にも坂本勇人と菅野智之という投打のスター選手がいる。今季は22歳の新4番・岡本和真も飛躍を遂げた。

それでもやはり、近年のプロ野球界を支えてきた「国民的スター」となると、松坂大輔、ダルビッシュ有、田中将大、大谷翔平という名前が挙げられる。奇しくも彼らは全員が高卒入団のパ・リーグ出身者で、現在は海を渡ってメジャーでプレーしている。

そんな時代だからこそ、プロ野球全体を考えたとき、巨人には国民的スターが必要なのだ。

今年のドラフト、巨人は根尾の1位指名を公言した。すでに中日、ヤクルトも1位指名を公表しているため、競合は確実。今季はリーグ3位とはいえ、借金4。高橋由伸監督が辞任し、来季は原辰徳監督が3度目の指揮を執る。「是が非でも優勝」となれば即戦力投手の指名に踏み切ってもおかしくなかった。それでもあえて、抽選で逃すリスクを承知で根尾という「スター候補」の獲得を目指す。

三度目の正直になるのか、二度あることは三度ある、となるのか。その結果はわからないが、この意思表示は間違いなくチームにプラスとなるはずだ。

もちろん、巨人以外の球団も同様だ。根尾のようなスター候補を狙う球団は1位指名を公表した3球団以外にも出てくるかもしれないし、「実は競合しないのでは」と報道された吉田輝星を虎視眈々と狙う球団もあるかもしれない。

スター性や人気ではなく、あくまでも来季の戦力アップを図って「現実的」な指名方針を貫く球団も当然あるだろう。

もちろん、即戦力=スター性がないわけでもない。ドラフト時には決して「目玉」ではなくても、その後球界の「顔」となった選手も、過去には大勢いるからだ。

直前に迫ったドラフト会議。

果たして、各球団はどんなスター候補を指名するのか。そして、指名された選手から将来、どんなスターが生まれるのか。興味深く、見守りたい。

<了>

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花田雪

1983年生まれ。神奈川県出身。編集プロダクション勤務を経て、2015年に独立。ライター、編集者として年間50人以上のアスリート・著名人にインタビューを行うなど、野球を中心に大相撲、サッカー、バスケットボール、ラグビーなど、さまざまなジャンルのスポーツ媒体で編集・執筆を手がける。