これまでさまざまなスポーツ団体と関わってきた池田氏も川淵氏の発言に同意する。

「ラグビーのワールドカップもオリンピック・パラリンピックも世界中から多くの人が集まり、間違いなく盛り上がるでしょう。過去を思い出してもらうとみなさんすぐに理解されると思いますが、確実にブームになります。でも今のままでは、それが刹那的な成功に終わってしまう恐れがあります。ラグビーはワールドカップのチケットは売れていると言いますが、競技自体、一般社会での盛り上がり、子どもたちまでの国民レベルでの盛り上がりは“五郎丸ブーム”のころのほうが勢いがあった。あの盛り上がりを機会にして、ラグビーの景色を変えることができなかった2015年は、あまりにももったいない。サンウルブズも2020年以降はスーパーラグビーから除外されることが決まりましたが、本当に日本のラグビーを世界レベルに育てたいと願うなら、何が何でも参加し続けるべきだったと個人的には思います。今まさに代替案があるなら別ですが。いくら選手ががんばっても、組織・団体が、ビジョンを示して、具体策を講じてきちんと機能していなければ、競技レベルも人気も一般社会が理解するレベルまでには注目を集めないでしょうし、着実に上がっていかないものです」

川淵氏は、「下からフツフツ湧き上がってくるものをくみとるのがリーダー」だとして、リーダーよりもそのフツフツを伝えるための中間層が必要だと語る。しかし池田氏は「いま必要なのはトップダウンで改革を進める、開拓ができるパイオニア型リーダー」だと、より危機感を鮮明にする。

「組織を作るのが人材だというのは同意見です。ただ企業経営、特に企業再生や企業再建をやった人間ならわかると思うのですが、下からのフツフツを待っていたら改革なんてなかなか進みません。組織が元気ないのですから。ベイスターズも同じでした。リーダーが率先垂範で組織を作り変えるのもひとつの改革の有効な手法です。フツフツを作っていくのが、リーダーの役割です。今はそれぞれのスポーツがビジネスを考えなければならない時代です。金がなければ強化もままならない。かつてのような“競技とビジネスは別”という考え方は通用しない。リーダーには新しい時代に対応したビジネスセンスも必要なのです」

川淵氏も含め、いまのスポーツ界のリーダーは「実績重視」で選ばれている。もちろんその実績は素晴らしいのだが、彼らが組織のトップにいることで世代交代が進まないのも事実だ。川淵氏が期待する中間層には、自分たちの身を守るため、上層部に対する忖度が蔓延。改革よりも現状維持を選ぶ傾向になる。忖度されている側は心地もいいし、忖度する人間の協調性を評価する。しかも忖度されていることに気づいていないことも往々にある。今はスポーツブームでもあるし、ワールドカップもオリンピックもあるから、思いきって身を引く、任せてしまう、ことは起こりにくい。31歳の若さで日本フェンシング協会の会長に就任した太田雄貴氏は、試合会場をショーアップし、イベントとして盛り上げるなど、常識破りの取り組みでフェンシング界を盛り上げている。残念ながら、そういった事例は他に聞かない。

「改革は本当に難しい。しがらみなく、軋轢を恐れないことが第一。協調性が優先されると結局は忖度が横行します。今のスポーツ界の、偉い人や前の人に任命されて次のリーダーが決まる仕組みでは、既成概念にはないことに挑戦したり、物議を醸したり、少しでも敵をつくったり、本質的なことをオブラートにつつまない発言をする人間は排除される。そんな張りぼての協調性が大前提にある組織では新しい文化を生み出すことはできない。選手のため、ファンのために何ができるか。それだけを考え、反発を恐れず前に進むことができる、パワフルで戦略的なリーダーがいま求められていると思います」



[初代横浜DeNAベイスターズ社長・池田純のスポーツ経営学]
<了>

取材協力:文化放送

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VictorySportsNews編集部