五輪前年に行われた世界水泳 その結果は五輪の結果に大きく影響

 世界水泳と言われる競泳の世界選手権が、7月下旬に韓国・光州で行われた。東京オリンピックの前年に行われた世界大会ということで、日本のみならず世界各国がオリンピックでの戦いを想定して臨んでいた。
 そんな過酷な戦いのなかで、日本代表チームは金メダル2つ、銀メダル2つ、銅メダル2つと合計6つのメダルを獲得し、大きな意味のある成果を残した。過去を振り返ると、オリンピック前年に行われた世界水泳の代表選手、特にメダリストたちがオリンピックでもメダルを獲得したり、入賞したりする確率は非常に高い。たとえば、2011年に中国・上海で行われた世界選手権でメダルを獲得した寺川綾や松田丈志といった面々が、翌年のロンドンオリンピックでもメダルを獲得している。さらに、2015年にロシア・カザンで開催された大会では、星奈津美と瀬戸大也(ANA/JSS毛呂山)が金メダルを獲得。翌年のリオデジャネイロオリンピックでは金には届かなかったが、2人とも銅メダルという好成績を収めた。
 つまり、オリンピック前年に開催される世界選手権の結果は、五輪での結果に大きく影響するということが言えるだろう。

世界選手権のメダリストたち 東京五輪でもメダルを狙える日本競泳陣の逸材となる

 今年の世界選手権では、4年前の大会と同様に金メダルを獲得した瀬戸は200mと400m個人メドレーの2種目を制覇した。それに加え、男子200m自由形で銀メダルに輝いた松元克央(セントラルスポーツ)、男子200m平泳ぎで銅メダルの渡辺一平(TOYOTA)、女子400m個人メドレーで銀メダルの大橋悠依(イトマン東進)の4人がメダリストになった。
 松元は、オリンピックでも十分にメダルを獲得できる記録をたたき出している。リオデジャネイロオリンピックの男子4×200mリレーでは1964年の東京オリンピック以来となるメダルを手にしたが、松元の活躍はその競技において2大会連続でメダル獲得となる大きな要になるだろう。
 大橋が200mと400m個人メドレーで持つ記録も、十分にメダルを獲得できるレベルにある。
 また、渡辺は自身が保持していた世界記録をライバルに打ち破られてしまったが、それが闘志に火をつけることになっただろう。きっと、来年の東京オリンピックという大舞台で、世界記録樹立と同時に金メダル獲得という北島康介に次ぐ偉業を成し遂げてくれるに違いない。
 そして瀬戸は、得意とする個人メドレーの2種目で金メダルを獲得したことで東京オリンピックの代表内定を決め、本番までじっくりとトレーニングに集中できる状況を勝ち取った。「自分のために勝ち取りたい」と言う東京オリンピックでの金メダル獲得に立ちはだかるライバルは、アメリカのチェイス・カリシュをはじめ、まだまだたくさん存在する。日本では瀬戸と幾度となく戦いを繰り返してきた萩野公介(ブリヂストン)も、その1人と言える。

リオ五輪の金メダリスト萩野公介が復帰 ライバル瀬戸大也に立ちはだかる

 その萩野は200m個人メドレーのみならず、400m個人メドレーでも日本記録を保持している。しかし、今年2月に休養を宣言。五輪チャンピオンとはいえ、萩野はまだ25歳。瀬戸の活躍やカリシュの急成長に加え、周囲からの期待という重圧もあり、精神的に大きな負担になっていたことだろう。
 そして、約5カ月間の休養を経て、萩野は8月初旬に開催されたスイミングワールドカップで復帰。記録は自己ベストからほど遠いものの、「たくさんのファンの人たちから温かい声援をもらって、僕は本当に幸せだなって思います。この勝負の場に帰ってこられて本当に良かった」と、リオデジャネイロオリンピック での金メダル獲得以来、あまり見られなかった笑顔を観客に見せた。
 五輪チャンピオンに輝いた男が迷いを捨て、再び頂点に立つために戻ってきた。とはいえ、アドバンテージは先に五輪行きを決めた瀬戸にある。萩野と瀬戸のライバルストーリーは、どのような結末を迎えるのだろうか。間違いなく世界の注目を集めるレースになるだろう。
 勝負事に100パーセントはない。だが、選手たちが100パーセントの全力で戦うからこそ、ドラマがある。2000年のシドニーオリンピック以来、毎大会数多くのメダルを獲得してきた競泳日本代表は、自国開催でどんなドラマを見せてくれるのだろうか。きっとメダルラッシュで、会場を訪れる私たちファンを熱狂の渦に巻き込んでくれるに違いない。そう考えると、今から東京オリンピックが待ち遠しくなる。


田坂友暁

1980年、兵庫県生まれ。バタフライの選手として全国大会で数々の入賞、優勝を経験し、現役最高成績は100mバタフライでの日本ランキング4位、世界ランキング47位。この経験を生かして『月刊SWIM』編集部に所属し、多くの特集や連載記事、大会リポート、インタビュー記事、ハウツーDVDの作成などを手がける。2013年からフリーランスのスポーツライター・エディターとして活動を開始。水泳と身体の知識とアスリート経験を生かした幅広いテーマで、水泳や陸上を中心に取材・執筆を行っている。