自分のことなど端に置き、他人や他人事のようなことのために没頭している人を見ると偉大だと思う。その体現者で、非暴力不服従によってインドを独立へと導くという偉業を成し遂げた、マハトマ・ガンディーは、こんな言葉を残している。
『他人に変わって欲しければ、自ら率先して変化の原動力となるべきだ―』。

男子テニス界で松岡修造・錦織圭に次ぐ存在として世界と戦う25歳の西岡良仁。
2020年、新型コロナウイルスの影響で大会は軒並み中止となった中、日々頭に浮かぶのは
自らのことよりも将来の扉を閉ざされてしまったこの先のテニス界を背負う学生たちの姿だった。そんなダイヤの原石たちが苦境を強いられたテニス界に今、希望の一石を投じている。

「テニスでプロ選手になるには、そこまでのプロセスが非常に重要なんです」。
新型コロナウイルスが収束しない今年の年明け、西岡は自らの経験を持ってして説いたのは、
若き有望選手がプロへと進むための段階的な過程の必要性だった。
プロテニス選手になるためにどうすれば良いか。悩む選手、アプローチの方法がわからない
今の選手と同じように、中学生時代の西岡もその1人だった。

今では、プロとして世界最高峰のグランドスラムに出場する西岡だが、
「中学生の頃、僕はテニスが上手ではありませんでした」という意外な言葉が返ってきた。
幼少期に松岡修造が講師を務める修造チャレンジに参加したことを機に
プロを意識するようになったが、中学生だった当時は決して技術は高くなかったという。
その一方で、試合には勝てる選手ではあった。技術は負けても試合には勝つ。
そんな矛盾を可能にしたのは他でもない気持ちの強さだった。西岡は平成生まれ。
技術に勝る相手に、泥臭く粘り勝とうとするテニスは時代錯誤の根性論のようにも
聞こえるかもしれない。しかし、アメリカのテニスアカデミーへ留学後、
18歳で世界でも一握りしかなることができないプロとなっている。
そんな男が語る言葉には強い説得力が宿る。
そして、西岡はこの時の精神を大切にしながら、今も厳しいプロの世界で戦っている。
世間から見れば、世界のトップたちと激戦を繰り広げるエリート。
中学生時代も国内では優勝している逸材だが、本人から話を聞けば、
人一倍の粘り強さを糧に努力を重ねた叩き上げという印象に変わるのが西岡だ。

そんな西岡だからこそ、今の実力ある10代の選手たちについて危惧していることがあるという。「綺麗なテニスをする子たちが増えたのかなっていう風に思います。
技術はすごく上がっているんですけどね」。含みを持たせたような言葉の裏で、
学生時代の自らの姿を照らし合わせる。国内では日本一になっていた西岡にも、海外に行けば、
自分よりも強い選手が大勢いた。そんな相手には、小手先の技術ではどうにかなるわけもない。
「そういう相手が自分にとっての目標になり、勝つことがプロへの大事なプロセスとなりました。強い気持ちこそが成長するためには特に重要なんです」。

西岡と話していると印象的なのは、自分の経験を語った上で、どこからか話題は学生たちに
変わることだ。その中で、学生たちに対してもう1つ、心配を訴えることがあった。彼らの環境だ。
「環境は本人の努力と同じくらい重要な要素なんです」。
中学生の頃に、本格的に世界に目を向け始めていたという西岡。
プロの夢を叶えることができたのも、成長できる大会があり、アメリカのテニスアカデミーへ
留学できたのも環境に恵まれたと感謝する。当然、その環境のチャンスに
しがみ付き、ステップアップを続けるには相当な泥臭い気持ちも重要だ。
しかし、新型コロナウイルスの影響で昨年、開催予定だった大会は中止に。
学生たちは飛躍するための大きなプロセス自体を失っていた。西岡はこの現状に心を痛める。
自分に何かできることはないかと考え、辿り着いたのが、テニスでプロを夢見る学生たちを
救うために、新たな環境を作ろうとクラウドファンディングサイト『CAMPFIRE』を使い、
独自大会の開催を目指すことだった。「この状況を微力ながら独自大会という形で手助けしたいという思いです。具体的に目指すのは、コロナ禍でテニスの大会に出場できなかった
“無限の可能性を秘めた中学生の選手たち”を集め、本気の大会を開催することです。
僕のような現役選手が動くことにも大きな意味があると思っています。」

提供:YONEX

この大会で西岡が何より期待するのは、まだ見ぬ選手たち同士の真剣勝負だ。
「今の中学生の選手たちは、当時よりも技術は高いかもしれません。
ただ、強い気持ちこそが成長するためには特に重要だということを、身をもって感じてくれたら
嬉しいです。技術は自然と後からついてきます。そのような意識が芽生えさせるためにも、
真剣勝負の戦いに注目できる大会を実現させたいと願っています」。
実現すれば、大会の様子は、自身のYouTubeチャンネルにて生配信も行うほか、
選手にとっても一過性の大会で終わらないよう、大会優勝者には先へと繋がるための遠征費や
栄養費という形での賞金といった面でもサポートし、プロへの道を後押しする予定。

さらに、西岡が立ち上げたこのプロジェクトの見据える先は、
学生たちのためだけに留まらない。
「僕にとっても正直チャレンジで、まだやったことのないことの1つです。
僕がこういうことをやる。そうすることで、ほかの現役選手たちも、
『じゃあ自分も違うこと何かやってみよう』と新たな挑戦を始めてくれるきっかけにも
なってほしいという想いもあるんです」。
学生たちに輝かせ方を知らない原石の磨き方を教え、
テニス界全体をも巻き込む導火線役にも徹する25歳。
コロナ禍という逆境の中でも、その責任を一身に背負う1人の若者によって系譜は紡がれていく。

プロテニスプレーヤー西岡良仁がジュニアのための大会 Yoshi'sCUP開催!

男子テニス界で松岡修造・錦織圭に次ぐ存在として世界と戦う西岡良仁。新型コロナウイルスの影響で大会は軒並み中止のなか、将来の金の卵たちにとっても、実力をアピールする場は無くなってしまいました。この状況を変えるべく、西岡選手をはじめ、テニス界を一緒に盛り上げて下さる皆様とともに大会を開催したい!


VictorySportsNews編集部