プロ野球ファンにとって、意識せずとも耳目に触れる機会が多いスポンサー企業。セントラル・リーグは株式会社JERA(※1)、パシフィック・リーグはパーソルホールディングス株式会社(※2)とそれぞれ冠スポンサー契約を結んでおり、「JERAセントラル・リーグ公式戦」「パーソル パ・リーグTV」「パーソル クライマックスシリーズ」といったワードは非常に耳なじみのあるものだろう。

 もちろん、各チームにもスポンサーは存在する。ファンと同じ温度感でチームを応援・後援するスポンサー。親会社の名前がそのまま球団名に付くチームが多い日本のプロ野球界において、その親会社の陰でチームを支えるスポンサーの思い、流儀とはどういったものなのだろうか。2016年から東京ヤクルトスワローズ(以下、スワローズ)のスポンサーを務め、2018年からはトップスポンサーとなったオープンハウスの社長室長 兼 広報宣伝部長の加藤勤之氏にその思惑を聞いた。

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 「好立地、ぞくぞく。」をスローガンに掲げ、不動産業を展開する株式会社オープンハウス。1997年9月に創業し、1都3県(東京、神奈川、埼玉、千葉)の都市部を中心に、名古屋、福岡エリアでも“好立地で、リーズナブル”な住宅を提供している。住宅と野球。一見、何の因果もないように思える同社は、“東京”をチーム名に冠し、都心部に位置する明治神宮野球場(以下、神宮球場)を本拠地とするスワローズに引き寄せられていく。オープンハウスの広報責任者である加藤氏がその始まりを明かす。

「当時使っていたスローガンが“東京に、家を持とう。”というものでした。当時、『東京のど真ん中ってどこなんだろう?』と、ふと議論に上がったんです。僕たちは渋谷に1店舗目を構えるところからスタートして、東京の城南地区(港区、品川区、目黒区、大田区の4区)と言われるエリアを商圏としていたのもあって、神宮球場というのは新宿区、港区、渋谷区のちょうど境目にあるので、場所的にはとてもいいな、と。もう一つは、神宮球場の看板がたまたま空いたんです。そのタイミングでお話をいただいてご縁を感じ、『神宮球場は東京のど真ん中だし、そこに“東京に、家を持とう。”という看板を掲げられたらいいな』という思いがありました」

 当初の狙いは、スワローズというより、神宮球場にあった。1926年(大正15年)の開場以来、大学野球の聖地としても愛されてきた神宮球場。その永い由緒正しき歴史を守るように、レギュレーションで定められた看板の少なさゆえに、広告としての費用対効果も優れているという。

「神宮球場は球場使用の優先権が学生野球(東京六大学野球、東都大学野球)にあって、スワローズの本拠地であると同時に六大学野球の本拠地でもあります。オープンハウスは六大学野球のスポンサーでもありますが、大学野球を応援することで採用活動にも好影響があるんです。プレーする選手、応援する学生の皆さんへの認知も広がりますから。六大学野球の試合中にだけ球場で流すCMには、六大学の一つである明治大学野球部OBで今、オープンハウスのとある店舗の店長をしている庭田という社員に出演してもらっています」

 日本において最もメジャーなスポーツの一つである野球と、オープンハウスの企業理念、社風との共通点は多く、親和性も非常に高い。同社の内情を紐解けば、スポーツ振興の旗を振る必然性も感じられる。

「当社は体育会系と外からかなり言われていまして、わりと部活に近い雰囲気というか、いわゆる古風な部活、野球部的な社風があります。『日本一を目指す』とか『1兆円の売上高を目指す』とか、そういうゴールを掲げているのも、スポーツと親和性が高いのかなと思います。当社の企業理念の一つに『やる気のある人を広く受け入れ、結果に報いる組織を作る』というものがあって。頑張って成果を出せば会社は十分な報酬を渡します、裁量やポジションを用意します、ということなんですが。そこがやはりスポーツに近くて、努力して、結果的に勝つことでどんどん上昇していく。そういう企業理念とスポーツのありようが近いというのも、我々がスポーツチームのスポンサーになる理由の一つかもしれないですね」

副賞は「東京の家」!ファンも喜ばせる様々な仕掛け

 2016年に始まったスワローズとオープンハウスとの関係性。同社がスワローズのメインスポンサーとなった今季のアウトプットとしては、下記のようなものがある。どれもファンにはなじみが深く、また球場での観戦の楽しみの一つになっているものばかりだ。

・神宮球場(スーパーカラービジョン上)への看板掲出
・オープンハウス・ホームラン賞
・オープンハウス・パーフェクト賞
・オープンハウス・ヒーロー賞
・ヘルメット、キャップへのロゴ掲出

 昨年まではヘルメットのみだったロゴ掲出も、メインスポンサーをさらに進化させた今季からはキャップにも進出。「不必要に大きいんじゃないか? と指摘されることもあるんですが、規格にのっとった目一杯のサイズ感です」と加藤氏は笑うが、オランダの画家ピート・モンドリアンの絵をモチーフにした、ベンチャー企業らしいキュートでポップな間取りを表したデザインが、いい意味での違和感を演出しており、とにかく目立つ。

 そしてファンにとって最も興味を惹くのが、スーパーカラービジョン上の看板もしくはライトスタンド上段に設けられた対象エリアに当てると選手に与えられる「オープンハウス・ホームラン賞」だろう。

「ホームラン賞を設けて今年で6年目になりますが、まだ1度も出ていません。カラービジョン上部の“時計台”に当てるのは飛距離が160mくらいあるので限りなく不可能に近いですし、ライトスタンドのエリアも130mくらいありますから、可能性があるのは村上選手ぐらいかな、とは話しています。数年前まではスーパーカラービジョン下のフジテレビさん、洋服の青山さんの看板の上が対象エリアでした。そこも数年やったんですが、1回も出ませんでした。確率的には今より高かったので、結構ヒヤヒヤもしたんですけど(笑)」

 オープンハウス側の本音として、2か所も“的”を用意するのは、やはりヒヤヒヤするものらしい。

「仮にホームラン賞が出た場合、ニュースにしてもらうなどの広報的な急ぎの作業も発生しますし、副賞の家も実際にお贈りしなければならないので(笑)。毎試合毎試合、うちのスワローズ担当のメンバーと代理店さんは試合を細かくチェックしています。Twitterの“オープンハウス(ゆる運用)”というアカウントでは、スワローズファンとの掛け合いを楽しみながら試合動向を追っています」

 具体的に「東京の家をプレゼント」という副賞は、東京のどのエリアに、どの規模の家をプレゼントすることになるのだろうか。

「一応お金周りは非公表ですが、言える範囲でいうと、ヤクルト球団さんとしっかり契約書を交わして予算感なども取り決めてあります。ただ、選手のご希望もあるでしょうから、当社の扱う物件であることを条件に比較的柔軟に対応できる形になっています。当社の戸建ての平均価格は今、4500万円前後なのですが、その平均よりはある程度上限が上である、ということだけはお伝えします(笑)。5年間でまだ出ていませんが、それだけハードルが高いほうが、ホームラン賞が出た際のインパクトも当然大きいので」

 今年から設けられた「オープンハウス・パーフェクト賞」によって、ピッチャーにもチャンスが格段に広がった。今シーズンの開幕直後には、マクガフが残り18アウトまで迫り、パーフェクト賞を達成するのでは⁉とSNS上のスワローズファンの間で話題になった。

「昨年までは完全試合を達成したら、というものだったんですが、1試合で完結するものだと先発投手にしかチャンスがない。なので、神宮球場での試合で27打者連続アウトを奪ったら、という風にして中継ぎ、抑えなどリリーフの選手にもチャンスを拡大ました。守護神時代の高津監督であれば、軽々クリアしてたのではないかと思いますよね」

 広報的には願ってもないファンの盛り上がりによって、いい意味で緊張感のある、嬉しい悲鳴を上げるシーズンを送る。

「ホームランと違ってジワジワとパーフェクト賞に近づく分、カウントダウンのような形でファンの方々に盛り上がっていただけるので、プロモーション的にもいい設定にできたと思っています。”あと何アウト”と盛り上がれますからね。我々としてはその分、胃の痛い時間が長くなりますが(笑)」 

「一度スポンサーとなったからには、末永いお付き合いを」

 投打のスペシャリストには広く門戸が開かれたオープンハウス賞だが、同社の社風として名高い“スピード感”を活かした、スピードにまつわる賞も提案してみた。同社のスピードの速さにまつわるエピソードの一端を紹介しよう。社内稟議は朝に稟議が上がったものが夕方には決裁が下りるというのが当たり前。2019年6月にバスケットボールプロリーグのB2リーグ・群馬クレインサンダーズのオーナー会社になって以来、2年足らずでのB1リーグスピード昇格。そして同チームの本拠地「OTA ARENA」を群馬県太田市に今夏着工、2023年春竣工という異例のスピード感での建設を発表。だからこそ、ホームラン賞、パーフェクト賞に加え、ピッチャーが170kmを記録したら……、盗塁を何連続で記録したら……。そういったオープンハウスの最大の特長の一つである「スピード」を絡めた賞を設定できれば一層、会社の魅力も周知されるのではないだろうか。

「いいですね! またヒヤヒヤが増えるな……(笑)。ただ『スピード』というのは球速、走塁とか野球の一つのキーワードでもありますし、いいかもな……。ありですね。今季からスワローズにも並木選手という足のスペシャリストが入りましたしね」

 こちらもぶつけづらい質問とは思いつつ、ヒーローインタビューに登壇する選手に贈られるオープンハウス・ヒーロー賞の金一封の金額については……。

「これも非公表なんですが、正直そこまで金額は大きくないです(笑)。今はコロナ禍なのでそういうわけにいかないですけど、『仲のいい選手とご飯を食べてください』くらいの金額です。実は少し予算を組みづらいんです。当然神宮でスワローズが勝てば勝つほどヒーローインタビューの回数も増えて我々の出費もかさむので、それは嬉しい悲鳴ではあるんですが当社の社名が入ったフリップをたくさんお立ち台で掲げてくれるということでもありますからね」

 こうしたバラエティに富んだ一見太っ腹にも見える副賞、ファンを楽しませる仕掛けを用意できるのも、本業が堅調だからにほかならない。

「一度スポンサーとなったからには、末永いお付き合いをしたいと思っています。本業がうまくいかないからスポンサーを辞めるとかではなく、お行儀よくありたい。仮に離れるにしても、去り際は美しくありたいですね。僕らはおかげさまで会社本体が堅調なので、今後もスワローズさんと東京拠点同士頑張っていきましょう!というスタンスでやっていきます」

 アットホームさが売りのスワローズは、選手が引退後も球団に監督、コーチ、スタッフ、そして球団職員として残るケースが多い。とはいえ、すべての選手が残るのは不可能。球界の課題の一つであるセカンドキャリアの受け入れ先としても、一肌脱ぐ覚悟がある。

「今後はそういう取り組みもしたいと思っています。スワローズさんともそういう話はしています。だからといってまだまだ時間はかかりそうですが……。我々もトップスポンサーといえども、あくまでも1スポンサーに過ぎない。時間をかけて形にしていければと思います」

 これまで応援していた選手が仮に引退後にオープンハウスで働くとなると、ファンとしては、球団はもちろんオープンハウスをも応援する理由になるだろう。

 最後に、スワローズへの愛のメッセージと今後の展望について聞いた。

「本当はもうちょっと強くなってほしいのが本音ですけどね(笑)。今年は去年や一昨年と比べたら好調で嬉しいです。(もし優勝したら、何かオープンハウスさんからお祝いは?)うーん、スポンサー料もなかなかバカにならない金額なのでどうですかね(笑)。ただ、球団の方は今年こそ優勝・Aクラスとおっしゃっていますし、期待しています。スワローズが東京、神宮を拠点にしている限りは応援し続けたい。神宮外苑の再開発で神宮球場の場所が秩父宮ラグビー場と入れ替わるという話もありますけど、我々の戦略には影響はないですね。新神宮球場が完成しても、一番目立つ時計台の場所はちょうだいよ! と思っています(笑)。あと、つば九郎と鶴がモチーフの群馬クレインサンダーズのマスコット、サンダくんとの“鳥コラボ”もどんどん仕掛けていきたいですね」



※1……東京電力FPおよび中部電力の燃料上流・調達から発電までのサプライチェーン全体に係る事業を担う合弁会社
※2……パーソルテンプスタッフ、パーソルキャリア、パーソルR&D、パーソルプロセス&テクノロジーを主要中核会社とし、人と組織に関する社会課題を解決していく企業グループ


熊谷洋平

新卒でスポーツ新聞社(大阪配属)に入社し、編集センターにて阪神タイガース関連の記事を中心に紙面レイアウト制作に従事。 その後、雑誌の世界に転じ、編集プロダクションを経て、現在出版社勤務。幼稚園年長の頃から東京ヤクルトスワローズ一筋。幼少期から選手名鑑を穴があくほど読み、ほぼすべての選手のキャリアを空で言えるのが特技。Twitter@yoheihei170