昨年まで23年間の選手生活で日米通算906試合に登板し、現在はテレビやラジオなどでの落ち着いた解説に定評のある五十嵐亮太氏はいう。

「この終盤戦に限らず、僕はブルペンが安定しているチームが抜け出すと思っていました。そう考えると、上位3チームの中で現在はヤクルトのブルペンが安定してますよね」

 チーム防御率で見るとヤクルトが3.576、阪神が3.582、巨人は3.64だが、リリーフに限ればヤクルトは3.27、巨人は3.67、そして阪神が4.10。セーブの数では阪神33、ヤクルト31、巨人30とほとんど差はないが、ホールドではヤクルトが110で、巨人(96)、阪神(70)を大きく引き離している。

 そのヤクルトのブルペンは、シーズン途中から抑えに回ってここまでリーグ4位の20セーブを挙げているスコット・マクガフと、37ホールドポイントでリーグトップの清水昇が2枚看板。ただし、好調の要因はそれだけではないと五十嵐氏は指摘する。

「勝ちパターンってどのチームもある程度、固定されてると思うんですよ。だけど、そうじゃない場面で投げるピッチャーっていうのが、接戦をモノにできるかどうかっていうところで、僕は重要だと思っていて。そういう意味では大下投手や大西投手らの頑張りが、ヤクルトが今の位置にいる要因の1つかなと思っています。リードされている展開でも、そこで投げるピッチャーが粘ることによって、同点、逆転につながる確率が高くなりますから」

 入団4年目の今季途中からサイドスローに転向した大下佑馬は、24試合に登板して防御率2.65。2年目の大西広樹は25試合の登板で3勝を挙げ、防御率3.18。さらに9月に入って1軍に復帰した5年目の星知弥も17試合の登板で防御率2.20と、いわゆる「勝利の方程式」には入らない投手の健闘が目立つ。その背景には「首脳陣」の存在があると、五十嵐氏はいう。

「伊藤(智仁)コーチが『リスクを恐れないで、どんどんチャレンジしよう』って言って、ピッチャーの投げる球種が増えてるんですよね。それに石井(弘寿)コーチがブルペンの雰囲気をつくるのが上手いんですよ。石井さんも(現役時代から)ずっとリリーフだったんで、ブルペンにいるピッチャー心理っていうのをすごく理解してるんです。だから肩をつくらせる場面、休ませる場面とか、そのタイミングの見極めも絶妙で(ブルペンで)無駄にボールを投げさせない。それはベンチとブルペンの呼吸がうまくかみ合ってないとできないんで、その辺はベンチの高津(臣吾)監督、伊藤コーチと、ブルペンの関係がいいからこそ、ですよね」

 9月7日に甲子園で行われた阪神戦前のミーティングでは、高津監督が選手たちに対して「この『チームスワローズ』が一枚岩でいったら、絶対崩れることはない。絶対、大丈夫」と語りかけた。五十嵐氏も球団公式YouTubeチャンネルでその様子を見て、大いに感銘を受けたという。

「言葉って人それぞれで、拾い方とか伝え方って違うんですけど、あの言葉はたぶん選手全員の心に響いてると思うんですよ。ああいうのは選手が今どういう立場で戦っているかっていうのを第一に考えて、自分がプレーヤーだった時の気持ちとも照らし合わせた上で、かけるタイミングが非常に重要なんですよね。その辺も考えて、選手の立場に立って、そしてチームの監督として、その時に何が必要なのか、選手は何に困っているのかっていうことに、ものすごく向き合ってるなと感じましたね。僕がやった中でも、ああいう監督ってなかなかいなかったです」

 もっとも、そのヤクルトも9月14日の阪神戦(神宮)では9回に3点差を追いつかれ、18日の巨人戦(東京ドーム)でも4点のリードをフイにするなど“取りこぼし”も目につく。「ヤクルトは得点もリーグトップで、投打のバランスがいいですし、抜け出す可能性は高いんですけど、行きそうで行かない」と五十嵐氏が語るように、今はどのチームも決め手に欠ける状況にある。

直接対決も残す3チーム。最後に決め手となるのものは

 現在、首位を行く阪神は抑えのロベルト・スアレスがリーグトップの32セーブで防御率1.17、東京五輪で金メダル獲得にも貢献したセットアッパーの岩崎優はリーグ2位の31ホールドポイントに防御率2.55。最後を担う2人の安定感はヤクルトをしのぐが、チーム全体の救援防御率は前述のとおり4点台と、先発からこの2人につなぐ中継ぎ陣に不安が残る。さらに―。

「ここからは自分たちのパフォーマンスを最大限に発揮したチームが勝つんですけど、そこには守備力の差っていうのがすごく重要になる。エラーから崩れていったり、球際の強さや弱さ、そういう目に見えないというか、記録に表れない部分も勝敗を分けるんですね」

 失策の数を見ても、阪神はリーグ最多の75、ヤクルトも3位の56。その点を踏まえ、五十嵐氏が「このまま最後まで競っていった場合は抜け出す可能性がある」というのが、昨年まで2年連続でセ・リーグを制し、守備率で今季もリーグNo.1の.990を誇る巨人である。

「守備力でいうと巨人が一枚も二枚も上手なんですよね。こういう競った展開では、打てば勝つけどそうじゃない時にどういう野球をやるかっていうところが大事なので、そういった意味では守備力が高くて、崩れにくいのは巨人ですから。それに(リーグを)連覇してきたっていう、ここぞの強さがありますよね」

 8月下旬から阪神に代わって一時は首位に立っていた巨人は、抑えのチアゴ・ビエイラが9月9日に右肘の違和感で離脱して以降、3勝4敗2引き分けと負け越して3位に転落した。だが、そのビエイラがここへ来て復帰。5月から9月にかけて32試合連続無失点と抜群の安定感を誇った守護神の復活が、巨人にとって大きな追い風になる可能性がある。

 とはいえ3チームともお互いに直接対決を残しており、まだまだ熱い戦いが続きそうな気配だが、最後に決め手となるのは何か? ヤクルト、ソフトバンクで何度も優勝、そして日本一を経験している五十嵐氏はいう。

「結局、最後は気持ちです。(阪神、ヤクルト、巨人は)どこも優勝するチャンスがありますし、優勝したいのはみんな一緒だと思うんですよ。なのでこれからの1試合1試合にどれだけ集中して、力を出し切れるかっていうところになると思いますね。もちろんプレッシャーはありますけど、その中で何もかも忘れてその1球にどれだけ集中できるか。1回から9回まで気持ちを切らさずにやっていける選手が1人でも多いチームが、最後に勝つのかなと思います。

 この前のあの(甲子園での)ミーティングを見ていたら、ヤクルトがチーム一丸となってやっていきそうな雰囲気がありましたけど、それはヤクルトだけじゃないんです。阪神だってそうだし、巨人も意地があるっていうところで、いろんな気持ちやプライド、そういったところがペナント争いを左右してくるんじゃないですかね」

 シーズン終了まで残り1カ月あまり。白熱するセ・リーグの優勝争いは、最後まで目の離せない展開が続きそうだ。



※文中の今季データは9/20現在

高3時の“ザウス”以来のスキーに熱狂、コーチングへの興味…五十嵐亮太は第二の人生をどう生きるか

プロ野球生活は23年を数え、日米通算906登板を果たした末に、昨季41歳でユニフォームを脱いだ鉄腕・五十嵐亮太。プロ野球選手の“平均寿命”は9年、引退時の平均年齢は29歳と言われる厳しい世界において、五十嵐は馬車馬のごとく“よく働いた”。

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菊田康彦

1966年、静岡県生まれ。地方公務員、英会話講師などを経てメジャーリーグ日本語公式サイトの編集に携わった後、ライターとして独立。雑誌、ウェブなどさまざまな媒体に寄稿し、2004~08年は「スカパー!MLBライブ」、2016〜17年は「スポナビライブMLB」でコメンテイターも務めた。プロ野球は2010年から東京ヤクルトスワローズを取材。著書に『燕軍戦記 スワローズ、14年ぶり優勝への軌跡』、編集協力に『東京ヤクルトスワローズ語録集 燕之書』などがある。