「2・24」

 ロシアがウクライナを侵攻し始めたこの日を境に、サッカー界はめまぐるしく動いた。

 24日、W杯欧州予選のプレーオフでロシアと同組のチェコ、ポーランド、スウェーデンの3協会が共同声明を発表。FIFAに開催地の変更を訴えた。

 26日には、ポーランドとスウェーデンの協会がロシアとの対戦拒否を表明した。ポーランドサッカー協会のクレシャ会長はツイッターに「言葉ではなく行動で示すときだ」などと投稿。エースFWのレバンドフスキ選手はこのツイートを引用し「これが正しい決断だ。ロシアの選手やファンに責任はないが、何も見ないふりをするわけにはいかない」と賛同した。

 27日、チェコ協会も「中立地でもロシアと対戦できない」と声明を発表した。6月にUEFAネーションズリーグでロシアと対戦するアルバニア、イングランドなども対戦拒否を表明。同日、FIFAはロシアに対し、国際試合の主催を禁止すると発表した。ホーム戦は中立地で無観客として開催し、国名の使用も認めず、ロシア・サッカー連合の代表として試合を行い、国旗や国歌も禁ずる措置をとった。

 だが、各国はこれを弱腰と猛批判した。ポーランド協会のクレシャ会長は「FIFAの決定は全く受け入れられない。チーム名が変わってもロシアとは対戦しない」と断固拒否。そして28日、FIFAとUEFAが足並みをそろえ、主催大会からのロシアの排除を決定するに至った。UEFAは年間4000万ユーロ(約51億6000万円)とされるロシアの政府系企業ガスプロムとのスポンサー契約を打ち切ることも決定した。

 ジョンソン英首相の言葉を借りれば「自由に対するプーチンの忌まわしい攻撃を許さないという国際スポーツ社会からの強力なメッセージ」となった。ロシア・サッカー連合はスポーツ仲裁裁判所に不服を申し立てたが、FIFAは今月8日、W杯欧州プレーオフでウクライナの試合を6月へ延期し、ロシアを不戦敗とすることを発表した。

救済への動きも続いた

 FIFAは3月7日、ロシアでプレーする外国籍選手や監督の移籍に関する特例措置を決定。所属クラブと10日までに合意がなければ、選手と監督は6月末の今季終了まで一時的に他国のクラブへ移ることが可能となった。国外でのプレー機会確保を目指すため、侵攻でリーグ戦が中断しているウクライナのクラブに所属する外国籍選手や監督の契約も一時停止した。

「リアル」の世界だけではない。

 3月3日にはEA SPORTSもロシア代表とロシアのクラブチームを「FIFA 22」、「FIFA MOBILE」上から削除することを発表し、以下の声明を出した。

「EA SPORTSはウクライナの人々と連帯しており、サッカー界で上がっている多くの声と同じく、平和とウクライナにおける侵略の終結を求めています。FIFAおよびUEFAのパートナーと協力して、EA SPORTSは、ロシア代表チームとすべてのロシアのクラブをEA SPORTS FIFA製品から削除するプロセスを開始しました」

 侵攻への抗議へ、現実の世界でもバーチャルの世界でも足並みがそろった。

未来を悲観し、未来を変えようと、選手も声を上げている。

 マンチェスター・シティ所属のウクライナ代表DFジンチェンコ選手は英BBCの取材に涙ながらにこう訴えた。

 「ウクライナ人であることを誇りに思う。戦争が早く終結してほしい」

 そのジンチェンコ選手に、3月1日の国内カップ戦でキャプテンマークを巻かせたグアルディオラ監督は言った。

「彼は我々のファンだけでなく世界中から支持を得ている」

 また、ACミラン時代の04年にバロンドール(欧州年間最優秀選手)に輝いた元ウクライナ代表のエースで、同国の監督も務めたシェフチェンコ氏は言った。

「私たちは平和を望んでいるだけだ。戦争は答えではない」
彼自身も実母と妹が残る首都キエフに戻ることを考えたというが、空港が爆破されて不可能になったという。窮状を訴えることで自国を守るため、何度も声を大にする。

「これは紛争ではない。特別な軍事作戦でもない。襲撃であり民間人に対する犯罪行為だ」

 さらに、ウクライナ代表FWで現在はウェスト・ハムに所属するヤルモレンコ選手は、13日に行われたプレミアリーグ第29節のアストン・ヴィラ戦で先制点を奪うと、得点後は思わず涙を流した。自国が深刻な状況に陥る難しい状況下でのプレーに、両チームのサポーターからは惜しみない拍手が沸き起こった。イギリス『スカイスポーツ』によると、ヤルモレンコ選手は試合後、「僕の国の状況により、とても感動的なものになった。毎日ロシア軍がウクライナの人を殺しているから、フットボールのことを考えることはとても難しい時間だ」と話したという。

ロシアのスポンサーを外す動きも広がった。

 ドイツ2部リーグで日本人のDF板倉滉選手が所属するシャルケは、 25年まであったとされるロシアのガスプロム社とのスポンサー契約を早期に打ち切ることを決定した。

 プレミアリーグは、ロシアで放送権を持つラムブレル社との契約を停止すると発表した。

 そのプレミアの強豪、マンチェスター・ユナイテッドは、アエロフロート・ロシア航空とのスポンサー契約を打ち切った。

 また、チェルシーのロシア人オーナー、アブラモビッチ氏は英政府から資産凍結の制裁を科され、ユニホームの胸スポンサーである英通信会社、スリーが契約を一時停止。袖スポンサーである韓国の自動車メーカー、ヒュンダイも続いた。

 プレミアリーグは3月12日にアブラモビッチ氏のクラブ代表としての資格を剥奪した。同氏はクラブ売却の意向を示しており、今後はアブラモビッチ氏が利益を得ないよう一定の条件で売却できるよう英政府が特例措置を取る可能性が浮上している。

ロシアでは、外国籍のスタッフが職を辞す動きが広がった

 ロコモティフ・モスクワのギスドル監督は3月1日に辞任した。クラブは解任と発表したが、同氏は出身国ドイツの大衆紙ビルトに「欧州の真ん中で戦争を起こすような指導者がいる国で職務はできない」と明確に自らの反戦への意思であることを示した。
同じくドイツ人で、FCクラスノダールのファルケ監督も、就任から一度も指揮を執ることなく2日にスタッフらとともに辞職。元ウクライナ代表FWのボロニン氏もディナモ・モスクワのアシスタントコーチを辞した。

 国際プロサッカー選手協会の公表で明らかになっているだけでも、サッカー界だけで既に、2人もの尊い命が失われている。
ウクライナ3部カルパティ・リビウの下部組織所属で従軍していたサピロ選手は戦闘中に亡くなった。21歳だった。同国地域リーグでプレーしていたマルティネンコ選手は、母親と暮らす住居への爆撃で亡くなった。25歳だった。
 
サッカー界からの「NO」は、悲劇を生むだけの軍事侵攻を食い止める一手になるか。
先は分からない。ただ、そうなると信じる人々の行動は続く。


VictorySportsNews編集部