入場制限の関係で入場料や物販などでの収入を満足に得られないという昨シーズンまでの苦しいお財布事情を鑑みると、NPBや各球団にとって、この規制緩和は、ようやくの一歩であることは間違いない。

 2022年シーズンから、巨人が本拠地をおく東京ドームでは、過去最大級のリニューアルを実施。球場内全体から観ることのできる外野席のメインビジョンは、横幅約125m、総面積1050平方メートルと、従来の約4.4倍という国内球場最大級の面積の大型フルカラービジョンが設置された。LEDのデジタルビジョンには各スポンサーの広告や、最大7面の映像が同時に映され、選手登場シーンのムービーが流されると音響や照明も連携。高精細な映像を映すビジョンによる迫力ある演出で、より試合を楽しめるスタジアムになった。
メインエントランスにある3台の大型LEDディスプレーや、コンコース等に全部で約260台設置されたデジタルサイネージも設けられ、球場内のどこにいても試合をエンターテインメントとして感じられるスポットとなった。

 また国内球場最大のグルメエリアや、筆者が何より驚いたのは球場内の決済がすべてキャッシュレス化されたことだ。ビールの売り子など現金の受け渡しが発生するため、キャッシュレスに慣れていない人にとっては不便になったかもしれないが、非接触型の決済になったことで、感染対策という意味でもより安心して野球観戦ができること、そして観客の球場内の行動データがとれることはメリットが大きいだろう。また事前に顔認証登録をすれば、その機能で決済もすることができる、まさに球場のDXだ。

 東京ドームで野球担当をする記者からは、「巨人の人気は一時期よりはかなり落ちている。でも東京ドームでの観戦環境が進化していくことで、ライトな野球ファンがまた来たいと思えると思う。何より大型スクリーンは迫力がすごい、長年東京ドームで取材している私たちもテンションが上がる。マンネリ化している球場演出を変えるのはやっぱり巨人とホークス」と今回のリニューアルについてしみじみと語っている。

 筆者も4月9日の巨人―ヤクルト戦の9回裏、巨人・立岡選手が打ったサヨナラホームランを現地で観戦していたが、サヨナラホームランの演出や、ヒーローインタビューでのスクリーンや照明演出を入れた盛り上げには、今までにないエンターテイメントを球場で感じた。

2031年完成予定での建て替えが計画されている神宮球場

 一方で、巨人と同じ東京をホームタウンにする東京ヤクルトスワローズが本拠地を置く神宮球場は、夏場は心地よいビル風を感じ、花火を見ながらビールを楽しめ、今でもレトロな雰囲気を感じる屋外球場だ。

 東京ドームと比べると、観戦環境の目新しさは少ないものの、近年は外野席のハイネケンシートや内野席のマイナビシートなどスタンディングやテーブル付きのシートができるなど少しずつ観客が楽しむことのできるコンテンツは増えている。ただ、一方で東京六大学連盟が球場の建設に尽力したため大学野球の開催が優先される関係(土日でもナイター開催になってしまう等)や、球場が宗教法人・明治神宮が所有している関係でプロ野球を中心とした大幅な改修が難しい状況だ。

 そんな中、2031年を完成予定(着工は2028年、使用開始は2032年予定)として新球場を中心にしたボールパーク計画が決定している。1926年に開場し、築90年を超え既に老朽化した神宮球場。隣接する秩父宮ラグビー場をまず現在の神宮第二球場の位置に移転させ、その解体された秩父宮ラグビー場の跡地に新しい球場を建てるという計画だ。

 神宮球場を所有しているのは宗教法人の明治神宮、隣の秩父宮ラグビー場を所有しているのが日本スポーツ振興センターという構図で、双方とも公的な団体であることと、大学野球やラグビーなどの試合も実施しているという理由で商業活用のための抜本的なリニューアルなどが今まで行われてこなかった。そんな中で今回の大きな計画はまだまだ先の出来事であるが、国立競技場も合わせて東京に大きなスポーツの中心地ができることは間違いない。

 大型サイネージやキャッシュレスなどDXによるエンタメ化に進む東京ドームに対して、古き良き野球を感じる神宮球場がどう生まれ変わるかが今から楽しみだ。今のレトロな神宮球場が好きなスワローズファンも多いだろうが、時代の流れの中で新しい野球の杜ができることで、東京における野球観戦の新しい文化が生まれ、新しいファンが増えプロ野球人気に再び火がつくことを期待したい。

 ファン目線だけでなく、選手の目線も変わるだろう。スワローズでもプレーし2021年に現役引退、神宮球場と東京ドームでプレーと解説を共にしているOBの五十嵐亮太氏は、こう語る。

「球場に入った時、試合が終わって球場を出る時、ファールゾーンを選手、監督、コーチが歩いて出入りすることに神宮球場っぽさを感じます。打たれた時と抑えた時の足取りが違うんです(笑)。今はできないですが、勝った時にファンとタッチをしながら帰ることができるのは、神宮の良いところなので変わってほしくないですね。

 僕はブルペンにいたので、ドームとは違い神宮だとファンに見られている感覚があるのであの緊張感がたまらなかった。ブルペンの横にすぐ席があるので投手のボールをほぼ真横から見られる球場はメジャーっぽくて日本にはなかなかない。でも、ドームは空調設備が整っているのでシーズン通して快適な環境で試合ができるので、神宮は暑い時寒い時の対策に気を使うことが多かったです。

 東京に最先端の東京ドームと、雰囲気のある神宮のスタジアムが両方あると盛り上がと思います」

 10年後の完成のため、入れ替わりの激しいプロ野球界において、現在現役の選手の大半がこの球場でプレーすることは難しいかもしれないが、スワローズの村上宗隆や奥川恭伸、濱田太貴、長岡秀樹、内山壮真といった選手は一番脂ののった30歳台に突入し、山田哲人は今の石川雅規や青木宣親のようにベテラン選手として、新神宮球場で大きな活躍をしているかもしれない。

 いや、ドラゴンズの山本昌が50歳まで現役を貫いていいたことを考えると、石川が52歳まで投げ続け新しい神宮球場でも投げているかもしれないと心が踊る。


VictorySportsNews編集部