背番号は14。地元報道によると、完全移籍で2027年までの5年契約を結び、移籍金は600万ユーロ(8億4千万円、1ユーロ=140円で換算)とされる。移籍がまとまる前からスペイン・メディアではレアル・マドリードが保有権の50%を持ち続けるという報道があったが、同国のアス紙(電子版)は20日付で契約の詳細を報道。Rマドリードは、将来久保がさらに移籍した場合の移籍金の差額の50%を手にする仕組みで決着したという。例えば久保がいずれ4000万ユーロの移籍金で他クラブに移った場合、今回の移籍金との差額でRソシエダードが手にする「利益」は3400万ユーロのため、その半分の1700万ユーロをRマドリードが得ることになると報じている。

 開幕時に“21歳で迎えるシーズン”は、欧州で成功を収めた日本選手の一つの共通点でもある。

 日本人の欧州挑戦の先駆け的存在の中田英寿は1998年、ペルージャ(イタリア)へと渡り、開幕戦で強豪ユベントスから2ゴールを挙げて一躍その名をとどろかせた。最終的にリーグ戦で10ゴールを挙げ、その後のセリエAでの飛躍の礎を築いた。

 小野伸二は2001年に加入したフェイエノールト(オランダ)で卓越した技術を披露。主力として、いきなりUEFA(欧州連盟)カップ(現欧州リーグ)優勝という快挙を達成している。そして香川真司も2010年にドルトムント(ドイツ)に加入し、シーズン後半に怪我による長期離脱があったとはいえ、リーグ戦8得点を挙げてチームの優勝に大きく貢献した。

 ならば、今季こそ久保も―。日本を背負って立つような選手になるためには、欧州での成功は欠かせない。2桁得点、あるいはタイトル獲得という目標は、決して夢物語というわけではないのだ。前述の3人はいずれも欧州1季目だったが、久保には過去3シーズンの経験もある。「ここからはまた違う段階に入っていけたらいいかなと思う。もう1段階上の自分として、しっかり自分のプレーと向き合っていきたい」と言うように、今年こそインパクトのある結果を残したいとの思いは強いだろう。

心機一転の再スタート、勝負のシーズン

 期限付き移籍を繰り返した昨季までの3シーズン。1季目の久保はマジョルカで4得点4アシストとスペイン1部の滑り出しとしては順調といえる成績を残した。しかし、2季目にステップアップを果たしたビリャレアルで壁にぶつかる。UEFA大会の常連でもある中堅クラブで定位置をつかめず、シーズン後半にはヘタフェへと再レンタル。結局シーズンを通してわずか1点にとどまった。再びマジョルカに貸し出された昨季も1ゴールと思うような成績は残せなかった。

 昨年9月のRマドリード戦のこと。それまではスタジアムが改修中だったこともあって、久保にとってはスペイン3季目にして初めてのサンティアゴ・ベルナベウでのプレーだった。試合前の選手紹介のアナウンスでマジョルカの久保の名前が紹介されると、地元のRマドリードのサポーターから拍手と歓声が上がった。“タケ、私たちは見守っている”、“ここに戻ってこられるように、成長するのを待っている”。そんな空気を感じ取れるほどの温かい歓迎だった。その試合で膝を負傷し、前半のみで交代して長期離脱を余儀なくされてしまったのは、今振り返っても残念な出来事だった。

 スペインでは欧州連合(EU)外の選手の枠が原則3人までしか認められておらず、Rマドリードではビニシウス、ミリタン、ロドリゴのブラジルトリオが占めている。結局、久保は彼らに割って入るほどの高い評価を積み上げられず、Rマドリードへの「復帰」はかなわなかった。

 心機一転の再スタートといえる今回の完全移籍。23日には敵地で行われたボルシアMG(ドイツ)との親善試合でさっそく新天地デビューした。契約の直前に風邪をひいていたそうだが、久保は0-1の後半開始からピッチに立ち、ダイヤモンド型の中盤のトップ下に入ってプレー。49分には右サイドで起点になって味方のシュートにつなげ、69分には中央から縦パスを入れてワンツーを試み、攻撃のスイッチ役を果たそうとする姿が見て取れた。そして78分には絶好機を迎える。右からのパスをうまくトラップして相手を置き去りにし、GKと1対1に。しかし、スイス代表でもあるGKゾマーをかわそうとしたものの、わずかに足でボールに触られてシュートに持ち込めず、思わず頭を抱えた。

 球際の競り合いで体をぶつけられて倒される場面があったのは、これまでと変わらず課題として残る。ただ、「攻撃がとても流動的で、厚みを持って、基本的に試合をコントロールしたいチームだと思う。自分の特長を出すには適しているかなと思っている」と話していたように、攻撃で周囲との呼吸が合うようになれば持ち前の技巧で相手ゴールに迫る場面も増えるだろう。

 Rソシエダードは、北部バスク地方のサンセバスチャンが本拠地。1980年代にクラブにとっての黄金期を迎え、80~81年、81~82年とリーガ制覇。86~87年にはスペイン国王杯を制した(新型コロナウイルスの影響で昨年4月に決勝が延期された2019~20年の国王杯でも優勝)。クラブの規模はスペイン1部の中堅で、昨季は6位。今季は欧州リーグにも出場する。現在は36歳のベテランになった元スペイン代表のダビド・シルバが健在で、久保自身が記者会見で名前を挙げた23歳のマルティン・スビメンディという中盤の好選手もいる。Rマドリードやバルセロナ、アトレチコ・マドリードのようなスケールや国際的な知名度はなくても、攻撃サッカーを標榜する好チームだ。

 11月にはワールドカップ(W杯)カタール大会が開幕する。自身がバルセロナのカンテラ(育成組織)時代から育ったスペインと1次リーグでぶつかるという巡り合わせ、そして昨年の東京五輪の準決勝で敗れた借りもある。久保は「日本人に限って言えばですけど、今年移籍する選手でW杯を考えずに移籍したという選手はいないと思う。しっかりそこも意識した上で、総合的にどう見ても一番ここがいいなということで移籍させてもらった。低く見積もって、2、3点は11月までには取って、いい状態で(W杯に)行きたいなと思う。もうちょっと取りたいけど、まずは2,3点」と具体的な目標も掲げている。

 サンセバスチャンはスペイン屈指の景色といわれるラ・コンチャ海岸があり、美しい海が望める。真新しい青白の縦じまのユニホームをまとう久保の未来にも、洋々たる前途が広がっていると期待したい。

レアル・ソシエダード公式サイトより

土屋健太郎

共同通信社 2002年入社。’15年から約6年半、ベルリン支局で欧州のスポーツを取材