男子は最初の1㎞を2分57秒で入ると、徐々にスピードアップ。20人以上いたトップ集団は5㎞を14分24秒で通過した。ここからハーフマラソンで世界歴代4位の57分59秒の自己記録を持つアレクサンダー・ムティソ(NDソフト)が前に出る。一気にペースが上がるなか、日本勢では村山謙太(旭化成)が食らいついた。

12人のトップ集団は10㎞を28分42秒で通過。村山は13㎞過ぎに遅れはじめた。優勝争いは外国勢に絞られ、15㎞は42分54秒で通過した。18㎞付近でベナード・キメリ(富士通)が脱落して、終盤はムティソと2020年まで日本の実業団に所属していたヴィンセント・キプケモイ(ケニア)の勝負になった。

キプケモイが18.5㎞付近の上り坂でリードを奪うと、真っ先に国立競技場に駆け込んできた。そして1時間0分10秒でフィニッシュ。この時期としては蒸し暑いコンディション(スタート時の天候は曇り、気温24.1度、湿度66.8%)にタイムは阻まれたが、見事〝初代王者〟に輝いた。2位のムティソに19秒差をつけたキプケモイは、「とても良く走れたと自分では評価しています。強い選手がたくさんいたので、かなりの準備をしてきました。その成果が出ましたね」と笑顔を見せた。

日本人トップ争いは3人による〝トラック勝負〟が待っていた。10㎞通過時で村山に10秒以上の差をつけられていた西山雄介(トヨタ自動車)と上門大祐(大塚製薬)が後半猛追。国立競技場には上門、村山、西山の順番で入ってきた。スピードで勝る村山が残り200mでスパートして、日本人トップの9位(1時間2分14秒)でフィニッシュに飛び込む。上門と西山は1秒差で続いた。

今大会はMGC出場権獲得を狙う12月の福岡国際マラソンに向けた「ステップレース」という位置づけで出場したという村山。持ち味の積極的なレースを展開しながら、ラストでも強さを発揮した。

「最後は自分を引き離そうとするなかで、自信のあるスパートで勝てた。MGCでラストの争いになったら『村山には勝てない』という印象を残すことができたのかなと思います」と村山。東京レガシーハーフマラソンは来秋に開催されるパリ五輪代表選考レースのMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)の一部コースとなる可能性がある。

すでにMGC出場資格を持つ上門と西山は、「勝負のポイント」を探しながらレースを走ったという。「個人的には、中盤余裕を持っていけるかがポイントになると思いました。上り坂はそんなに苦手意識がないので、余裕さえあれば勝負できる。今日はラストで負けちゃったんですけど、スパートも少しは勝負ができるかなと感じました」と上門は充実の表情を浮かべていた。

大学の先輩・村山とのスパート合戦に敗れた西山は、「世界選手権後の流れのなかではまずまず走れたと思います。ただ、あそこまで行ったら勝ち切らないといけません。最後はちょっと差し込みが来て、ラストが効かなかった。そこはプラスにとらえて、今後は解消法を考えながらやっていきたいと思います」と前を見つめていた。

東京レガシーハーフマラソンはエリートの部だけでなく、一般ランナーの参加も多い。普段のエリートレースとは異なる雰囲気に、「都心の真ん中を走れたのがすごく気持ち良かったです。沿道の応援もすごくて、市民ランナーの方は逆側から声援を送ってくれた。うれしかったですし、楽しく走ることができました」と西山は感動していた。

女子はドルフィンニャボケ・オマレ(ケニア・ユーエスイー)が飛び出す展開になり、5㎞を15分59秒、10㎞を32分20秒で通過した。ここから10㎞通過時に18秒差をつけられていたキャロライン・ニャガ(ケニア)がペースアップ。12㎞付近でオマレを逆転すると、トップを快調に駆け抜けた。優勝タイムは1時間08分23秒。自己記録を1分37秒も更新して〝初代女王〟の座についた。

日本勢は山口遥(AC・KITA)が先行していた大森菜月(ダイハツ)をかわすと、12㎞付近で3位を走るベッツィ・サイナ(米国)に追いついた。「10㎞の通過タイムを見て目標を自己ベスト(1時間09分50秒)から3位入賞に切り換えた」という山口は残り3㎞付近の上りでスパート。〝最強の市民ランナー〟が1時間10分35秒で日本人トップの3位に食い込んだ。

昨夏の東京パラリンピックでブラインドランナーの伴走を務めている山口は、「今日もパラの選手たちと一緒に走ることができてうれしかったですし、パラの選手たちも良い環境で走れたと思います。こういう大会が増えていってほしいですね」とエリート、パラアスリート、一般ランナーが同じステージで走るのが当たり前になる未来を期待した。

東京マラソンに続いてレースディレクターを担う早野忠昭氏は、「初めての大会ということで手探りの状態でした。蒸し暑さもあり、今回はタイムが出ませんでしたが、来年以降はペースメーカーをつけて引っ張っていくことも考えていきたいと思います。それにコロナの状況が落ちつけば、東京マラソン同様に世界トップの選手を呼びたい。そのなかで日本人選手が積極的なレースをしてくれれば、スピード強化につながるのかなと思います。そして一般ランナーとともにこの大会をもっと盛り上げていきたいですね」と今後の課題と目標を口にした。

初開催ということもあり、運営面での不備も指摘されたが、とにかくランナーたちの笑顔が印象的だった。約1万5000人が参加したレース。次々とフィニッシュに駆け込むシーンを眺めていたら、自分も走りたくなってきた。国立競技場にフィニッシュする最高の気分をいつか味わいたいな。


酒井政人

元箱根駅伝ランナーのスポーツライター。国内外の陸上競技・ランニングを幅広く執筆中。著書に『箱根駅伝ノート』『新・箱根駅伝 5区短縮で変わる勢力図』『東京五輪マラソンで日本がメダルを取るために必要なこと』など。