何を詫びるか

 5月19日、内田監督が兵庫県西宮市の関西学院大学に出向いた。「責任を取る」と口にしていた通り、「宮川が犯した反則プレー」に対する謝罪が目的で、「宮川に対する反則プレーの指示」を詫びに行ったのではない。

 コーチの井上も同行し、前者については謝罪する予定だったが、内田が同席を止めたのだという。日大関係者によれば、「ひとりで被って話がまとまるなら、俺だけでいい。もし、どうしても収まらなかったら、声をかける」といって、内田は井上を別室に行かせたそうだ。
 
 関学大側は内田の釈明を受け入れなかったが、内田は井上を呼ばなかった。

桃色のネクタイ

 内田は東京へ戻る大阪空港で報道陣の取材に応じ、その場で監督辞任を表明した。この時、内田が「関西(かんせい)学院」を「かんさい学院」と言い間違えたことが火に油を注ぐことになった。ひとりの日大OBは報道を見た思いを振り返る。

「謝罪相手の校名を間違えるのは言い訳のしようもないけれど、もともと内田さんって、すごい口ベタなんですよ。それに、タレントとか芸人じゃないんだから、あれだけの記者に囲まれたら、上がっちゃって、普通の人間は上手く喋れないですって。
 監督は、メディアやSNSでめちゃくちゃに叩かれた。もうネクタイが桃色だっただけで『ふざけているのか。誠意を感じない』と。でも、監督がすべての責任を負って辞任表明して、メディアのまえで経緯を説明したことでもうこれで騒動は治まるって思いましたね。会社で言えば、“社長”がテレビカメラの前で頭下げているんですから」

 アメフトは選手のポジションごとに役割が決められ、その力量などに応じて戦術を組み立てるチームビルディングなスポーツだ。つまり、会社組織に似通っている。日大フェニックスでいえば、約150人の選手にそれぞれポジションごとに1、2人つくコーチ陣が約20人、試合を分析する学生スタッフ、そのうえにヘッドコーチと監督がいる。組織で試合ごとに組み立てた戦術を駆使して戦うために選手たちは自分の役割を徹底的に叩きこまれる。その組織を引き締めるために要となる監督は「雲の上の存在であったほうが、チームビルディングしやすい」と、OB(前出)は言う。

「僕たちだって、現役時代は監督がグランドに来る車の音を覚えていて、その音がしたら『来たぞ、来たぞ』って選手同士で合図し合っていました。後輩たちは、上級生の僕たちの、そうした様子を見て、(監督がやって来ると)練習が一気にピリッと引き締まる。
 井上コーチのことを、金魚の糞というか、監督の腰巾着みたいに報じていたメディアもいっぱいありましたけど。彼がやっていたのは腰巾着というより、チームの雰囲気を作るためのパフォーマンスですよ。
 監督が来たら、さっと車まで出迎えて、カバンを持って歩くとか。ひと際大きな声で挨拶して見せる、とか。ピリッとした雰囲気をつくるためにやっていただけだと思うんですけどね。それがまた内田監督のマネジャーだとか、親分子分の関係だとかあらぬことを書かれることになっちゃったけど……*」

 とにかく、内田監督が辞任表明ですべての責任を取ることで事態が収束してほしい。OBは、祈るような気持ちで推移を見守っていたという。

* 井上が、フェニックスでコーチとなるために「日大の子会社に就職した」ことは事実であり、その就職にあたって、内田監督と井ノ口忠男・元理事(背任事件で逮捕)の世話になったことも事実である。と同時に、アメフトにおける内田監督の実績は言うに及ばず、井ノ口元理事もまた甲子園ボウルを制したフェニックスの元主将であったことも忘れるべきではないだろう。日大事業部は背任事件の舞台となったが、井上個人は何らの嫌疑も掛けられていない。

第7回につづく

Project Logic

全国紙記者、週刊誌記者、スポーツ行政に携わる者らで構成された特別取材班。