レーバークーゼンを語る上で欠かせないのは、監督のシャビアロンソである。元スペイン代表の名手は、2022年10月に当時17位と残留争いに苦しんでいたクラブの指揮官に就任。見事に立て直して6位でシーズンを終えると、シーズン開幕前の準備期間をフルに活用できた今季はリーグ戦に加えて、欧州リーグでベスト8、ポカール(ドイツ・カップ)はベスト4に勝ち残っており、公式戦38試合無敗と強さを見せつけている(以下、記録はすべて3月22日時点)。

 シャビアロンソ監督は、現役時代にリバプール(イングランド)やレアル・マドリード(スペイン)、さらにバイエルン・ミュンヘン(ドイツ)で活躍し、欧州チャンピオンズリーグ(CL)をはじめとする数々のタイトルを獲得した。スペイン代表ではワールドカップ(W杯)南アフリカ大会と2度の欧州選手権制覇を成し遂げた。中盤の底で落ち着き払ったたたずまいを崩さず、広い視野で試合の局面を変える頭脳的なパスを出す姿はアメリカンフットボールのQBのようでもあった。

 2017年に引退し、指導者の道へ。トップチームとして初めて率いたのがレーバークーゼンだ。基本的な布陣は3―4―2―1。ドイツ代表で、進境著しい20歳の攻撃的MFウィルツと、アーセナル(イングランド)などで活躍して今季加入したスイス代表MFシャカが中心的な存在だ。チームの特徴を端的に示すデータが二つある。欧州各リーグを横断的に比較できるデータサイト「fbref.com」によると、パス成功率はブンデスリーガの18チーム中、最も高い87・4%。パスの試行数は1万9175本、パス成功数も1万6759本で、いずれもリーグ最多を記録している。現役時代にMFとして正確なパスを操った監督自身のサッカー哲学を、チームにしっかりと反映させていることがうかがえる。

 目を引くのはショートパス(4・5~13・5メートル)の多さで、9703本を成功させている。これは2番目に多いバイエルン・ミュンヘンの7134本の1・36倍に相当する。ミドルパス(13・5~27メートル)はレーバークーゼンが5655本で、バイエルンが6773本、ロングパス(27メートル以上)はレーバークーゼンが933本で、バイエルンが1111本であり、レーバークーゼンがショートパスを多用していることが浮かび上がる。

 もう一つがウイングバックのグリマルドとフリンポンの得点数である。左のグリマルドはベンフィカ(ポルトガル)から今季加入した28歳。右のフリンポンはオランダ代表の23歳で、2022年ワールドカップ(W杯)カタール大会に選ばれたものの出場機会はなかった。国際的に見て華々しい実績があるとはいえない二人だが、グリマルドはブンデスリーガで9点、フリンポンは8点を挙げており、チーム内で2、3位のゴール数を記録している。3―4―2―1の布陣で全体がコレクティブに動き、サイドから効果的な攻撃参加をしている証しにほかならない。
勝ち点2差で迎えた首位攻防戦の2月10日のバイエルン・ミュンヘン戦は完勝だった。ホームで3―0の白星を収め、クラブ初のリーグ優勝への視界が大きく開けた。この一戦でもグリマルドとフリンポンはゴールを挙げている。26節を終えた時点では勝ち点10差をつけており、残り8試合。リーグ初制覇へのカウントダウンは始まっているといっても過言ではないだろう。今季のバイエルン・ミュンヘンが低調だったというわけでもない。昨季は同じ26節終了時点で勝ち点55(16勝7分け3敗)で首位だった。今季のバイエルンは勝ち点60(19勝3分け4敗)を稼いでいることから、レーバークーゼンの充実ぶりがより際立つ。

 レーバークーゼンはドイツ西部に本拠地を置き、1979/80年シーズンに初めてブンデスリーガに昇格した。ポカールで1度優勝したことはあるが、リーグ戦では頂点に届かず、5度も2位を記録している。2001/02年シーズンにはブンデスリーガ、ポカール、欧州チャンピオンズリーグ(CL)ですべて2位となるなど、あと一歩のところで涙をのんできた「シルバーコレクター」の歴史がある。レアル・マドリード(スペイン)に敗れた22年前の欧州CL決勝は、大会史上最も美しいゴールとたたえられるジネディーヌ・ジダンの左足ボレーシュートが決まった試合として記憶されている。

 五大リーグでの無敗優勝となれば、思い出されるのはベンゲル監督が率いてアンリが輝いた2003/04年シーズンのアーセナルだ。26勝12分けで、イングランドでは実に115年ぶりの快挙(前例は1888/89年シーズンのイングランド1部のプレストン)だった。イタリアのセリエAでは過去2度あり、1991/92年のACミランが22勝12分け、2011/12年シーズンのユベントスが23勝15分けで達成している。ブンデスリーガでは過去にバイエルン・ミュンヘンが2012/13年シーズンの途中から翌シーズンにかけて53試合連続無敗記録をつくったことがあるが、シーズン無敗優勝は1度も記録されていない。シーズンは残り2か月。レーバークーゼンは、偉業に挑む。


VictorySportsNews編集部