取材・翻訳・文/小澤一郎

信じられないほどうれしい気分

――まずはLaLiga4Sportsというプロジェクトの概要を教えて下さい。

ハビエル・フェルナンデス(以下、ハビ) LaLiga4Sportsとは、スペインのプロサッカーリーグであるLaLiga(ラ・リーガ)が他の競技を支援するプロジェクトのことです。周知の通り、スペインでのサッカーは社会的に大きな影響力と人気を誇るダントツのNO.1スポーツです。(2015年3月から)LaLigaはサッカー以外の64もの競技団体に売上の一部を分配金として援助しており、例えば私たちサッカー以外の競技に励むスペイン人アスリートの活動をサポートしてくれています。

――今年2月、LaLiga4Sportsのアンバサダーに就任されましたが、具体的にどういうタスクを担っているのですか?

ハビ 私たちアンバサダーの活動は、自身の競技が盛んな国、地域でサッカー、LaLigaの魅力を伝えることです。例えば私は今回フィギュアスケートの人気が高い日本でそうした活動を行なっていますし、同じくアンバサダーを務めるバトミントン女子の金メダリスト(2016年リオデジャネイロ五輪)のカロリーナ・マリン選手はインドネシアなどバトミントン人気の高い国でサッカーやLaLigaの普及活動を行なっています。

――LaLiga4Sportsのアンバサダーに任命されたこと自体、とても光栄なことですね?

ハビ 想像してみて下さい。私はスペイン人として、幼い頃からスペインのサッカーやプロサッカー選手のファンでした。いちファンだった自分が憧れていた選手、クラブ、リーグのブランドを高めるための仕事を海外でやっているのですから、本当に信じられないことです。

――レアル・マドリードのサポーターと聞いています。マドリディスタ(レアル・マドリードのサポーターの呼称)として昨季の二冠(ラ・リーガとUEFAチャンピオンズリーグの優勝)にはとても満足しているのではないですか?

ハビ もちろん、最高の気分です。今現在、レアル・マドリードは欧州で最もフィジカル、メンタル面で状態のいいチームだと思いますし、素晴らしいプロフェッショナルが揃う中で選手間の仲間意識も高いと感じます。そこは(ジダン)監督の手腕でしょうし、監督と選手のコネクションも上手くいっているように見えます。私のような個人競技のアスリートにとってもコーチとのコネクションは重要で、例えばブライアン・オーサー氏といい関係性を作れたことが競技面での成功の秘訣です。

憧れの選手はロベカルとラウール

――スペインにおいてサッカーとはNO.1スポーツですが、あなたも幼い頃はサッカーをやっていたのですか?

ハビ はい、12~13歳頃までサッカーをしていました。約1年半、クラブに所属してプレーしていました。レベルは低かったですけど、楽しくプレー出来ていました。幼い頃の憧れの選手はロベルト・カルロスとラウール(共に元レアル・マドリード)でした。

――スペインにおけるフィギュアスケートはあなたの出現までかなりのマイナー競技だったと想像しますが、今は異なる状況ですか?

ハビ そうですね、お陰様で私の国際大会での成績をメディアが大きく報じてくれていますので、スペイン国内では一般的なスポーツとなってきています。また、私個人の成績のみならずスペインで主催されるフィギュアスケートの国際大会やエンターテイメントとしてのアイスショーが増えていますので、そうした側面からフィギュアスケートファンが増えています。フィギュアスケートとしての魅力に見せられてファンになった人は、その後で私が国際大会で結果を出していることを知り、応援してくれるようになっていますし、相乗効果が出ていると感じます。

団結して、スペインの価値を高めていきたい

――フィギュアスケートがマイナー競技だったスペインのような国から突然、あなたのように世界選手権を連覇するようなスケーターが出てきたことが驚きです。どうしてですか?

ハビ さあ、わかりません(笑)。でも、「パイオニア」という言葉が存在するように、スポーツにおいては時にそういうことが起こるものです。私個人としてもスペインにフィギュアスケートという競技の魅力を伝えることができているのはとても名誉なことです。

――世界トップレベルのスケーターとして世界中を旅し、スペイン以外の国での生活経験も長いですが、客観的に外からスペインのスポーツはどう見えますか?

ハビ 実際にロシア、カナダ、米国といった国で生活をした経験がありますし、それ以外にも多くの国を訪れています。私は国外にいてもサッカーやテニスといった競技をチェックしていますし、五輪などの大きな世界大会がある時にはスペイン代表を応援しながら様々な競技を見ています。選手である自分が言うのも何ですが、国際大会に出場するようなアスリートというのは幸か不幸かその国の親善大使を務めることになります。

母国のみならず世界中から多くの人の注目を浴び、アスリートとしての成績はもちろん、ピッチ外での一挙手一投足が常に見られています。だからこそ、私たちアスリートは「国を背負っている」という自覚を持って競技に打ち込まなくてはいけません。スペインはサッカーのみならず、多くの競技で国際的な成功を収めている国ですし、数多くの競技、数多のアスリートが世界で戦うことのできる実力を持っています。今回、LaLiga4Sportsというプロジェクトが立ち上がって、サッカーが他の競技を支援することを始めたように、各競技団体、アスリートたちが団結してスポーツの側面からスペインという国の価値を高めていければいいと思います。

スペインにおいて、スポーツは人生の一部です

――日本の半数以下の人口(約4600万人)であるスペインがサッカーを筆頭にスポーツで国際的に大きな成功を収め、LaLiga4Sportsのプロジェクトのように競技の枠を超えて連携している姿は羨ましくもあります。

ハビ スペインにおいてスポーツは私たちの人生、生活の一部です。スポーツの持つ価値とは、LaLiga4Sports発足の趣旨にある通り仲間を助けることです。そうしたスポーツの持つ価値、仲間と助け合うことの大切さというのは日本でもしっかりと根づいているように感じます。なぜなら、日本はスポーツが盛んな国で多くの競技が存在するからです。スポーツにおけるスペインと他国の違いというのは正直私にはわかりません。ただ、スペインでは自分が好きになったスポーツにおいて一番になりたいという気持ちを強く持ち、その覚悟が周囲に伝わってくる選手が多く存在するような気がしています。

――すでに何度も日本を訪れているあなたが最初に来日した際、一番驚いたことは何ですか?

ハビ まずは物事をオーガナイズする力と清潔さ。初来日した時、本当に驚かされました。2つ目は、スーツを来ているビジネスマンのスーツとネクタイの色がみんな同じで、街中を歩いていると同じような格好をしている人ばかりだったことです。スペインで外を歩いているとビジネスマンでもスーツやネクタイの色が多彩で、そこに個性が見えます。日本のビジネスマンに個性がないというわけではなく、今では何となく同じような色のスーツ、ネクタイで働かなくてはいけないルールがあるということを理解しているのですが、それを知らなかった最初の頃は街を歩く度に「同じような人ばかりだ」と思っていました(笑)。

――日本はフィギュアスケート人気がとても高い国で、あなたのファンも多く存在します。LaLiga4SportsのアンバサダーとしてLaLigaの宣伝、普及のみならず、日本のフィギュアファンに対してサッカーの面白さを伝えてもらうことはできますか?

ハビ もちろん、協力します。サッカーというのは世界で最も影響力のあるスポーツであり、最も競技人口の多いスポーツでもあります。日本でもサッカーが野球の競技人口を抜いたそうですし、スペイン人として近年のFIFAワールドカップで日本代表が素晴らしい活躍をしていることに驚いています。本当に、毎回いいチームを作っていますよ。すでに日本はサッカーの魅力や価値を理解している国だと思いますし、スポーツにおける大きなポテンシャルを持つ国です。いつか日本がサッカーにおいても国際タイトルを獲ると信じていますし、私に出来る協力はしていきたいと思います。

<了>

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VictorySportsNews編集部