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大会中は、1日900グラムの炭水化物を摂る

――本日は、水泳選手の身体づくりについて伺います。以前、水泳部の人間に「水の中で浮くために、脂肪がある程度必要」という話を聞いたことがあるのですが、実際のところある程度の体脂肪が必要なのでしょうか?

塩浦慎理(以下、塩浦) 実は、そこまで必要でもないんですね。僕自身でいうと体脂肪の量はこの1年で増えていますが、それは筋肉を増やしているためで。筋肉と体脂肪、どちらかだけを極端に増やすのは難しいですから。
 
(オリンピックに出場する)僕らのレベルでいうと、浮力は自分たちでコントロールできます。そういう意味で、脂肪が浮力のために必要ということではないですね。ただ、筋肉を大きくしてよりパワーを得ようと思うと、たくさん食べないとエネルギーが枯渇していくので。結果的に脂肪がつきやすくはなっています。あと、単純に水の中って脂肪がつきやすいんですよね。
 
――内臓を冷やさないように。
 
塩浦 そうです、結果的に脂肪を蓄えやすくなる。それだけであって、ある程度脂肪がなければいけないという話でもないですね。
 
――1日の食事で、何千キロカロリー摂取せねばならない、という決まりはありますか?
 
塩浦 ある程度は決まっています。僕の場合、4,000~5,000キロカロリーぐらいです。ただ、大きな大会になると強度の高いレースになりますので、筋肉内の糖質をスグに使い切ります。そうすると、炭水化物だけで3,600キロカロリー取ることもありますね。それぐらいの数値が、一番回復が早いというデータもあり。
 
――炭水化物だけで3,600キロカロリー?? グラムにするとどれぐらいですか?

塩浦 900グラムぐらいですね。残りはタンパク質やビタミンを取りますが。
 
――それはとんでもない量ですね……すべて砂糖なりで取るわけではないにせよ、ほとんど1キロ糖質を取るというのは。食事はどれぐらいに分けて摂っているのですか?

塩浦 果てしなく(笑)。時間が空いたらゼリーを食べたり。1時間のうちに吸収できる量やスピードはだいたい決まっているので、本当にこまめに食べ続けている感覚です。レースに出て、終わってリカバリーで食べて、ちょっと時間が空いたら食べて、昼寝して、起きたら食べて……という繰り返しですね。大会期は。

©素材提供:塩浦慎理、編集:VICTORY

塩浦 何を食べるかは好みや消化力にもよるんですけど、あまりお腹にたまらないほうがいいと思う人はゼリーとか。僕らがすごく気にしているのは、炭水化物の量とタイミング。予めこれぐらいの強度なら40グラム取るとか、シミュレーションもやっています。特に僕はスプリンターなので、強度が高いレースになると筋肉内のグリコーゲンを一気に使い切ってしまうんです。そうすると、筋肉量が多い分、必要摂取量も増えます。

――大会期以外でも、普段何をどれぐらい食べるかは管理されていますか?

塩浦 ある程度は。お米を何グラム取るとか、うっすら頭に入れながら。例えば夕食を18時に摂ったら、疲れてるときは20時や21時にちょっと炭水化物を入れるとかは意識しています。
 
――余談ですが、以前マイケル・フェルプス選手が一食で摂る食事量がとてつもないという画像が出回っていました。Youtubeでも、「Michael Phelps 12,000+cal Diet Challenge」なんて動画がバズっていましたね。

塩浦 あの量を消化できる内臓がまずすごいですね。やっぱり、結構たいへんなんですよ、ずっと食べ続けるというのも。たまに「ああ、内臓疲れてるなあ」という感じがします。試合で激しく身体を使って、なおかつきっちり食べるとなるとキツいですね。内臓が強いというのは、一つの才能だと思います。
 
――となると、水泳という競技でトップを極めるには先天的な資質もかなり重要といえそうですね。塩浦選手自身も188センチメートルと恵まれた体格をしていますし。
 
塩浦 足も31センチありますしね。食べたらしっかり太れるし、内臓は丈夫だと思います。お腹下しがちな人もいますからね、食べた分下しちゃって吸収できなかったり。
 
――逆に、体重が落ちなくて困る、ということはありますか?
 
塩浦 僕はそんなに気にしていないですね、計量もありませんし。僕は距離もそんなに泳がなくて、一週間に20キロメートルぐらいです。泳ぐ人は週に70、80キロメートル泳ぎます。僕は短距離の選手ですから、一回の練習の中で強度を高めたりしているんですけど、長距離の選手はシンプルに泳ぐ距離が必要になってきます。
 
僕の場合はトレーニング量が限られていますが、強度は高いです。だから、バランスが難しい部分はあります。食べ過ぎるといけないですが、摂らなさすぎると今度は筋肉中のグリコーゲンが枯渇し全く身体が動かなくなります。
 
――そういうお話を聞くといよいよ、以前伺ったドーピングの件は許せなくなりますね……。
 
塩浦 そうですね、こういうこと関係なく身体が絞れますし。まあドーピングしたからそれ以外何もしなくていいわけではないですが、頑張りやすくなるし、結果も出やすくなる。そうしたらやる気も出る。ズルいですよね。

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身体を大きくして遅くなることはない、と思います

――塩浦選手はがっつりウェイトトレーニングをやられているそうですが、いつごろから開始されたんですか?

塩浦 大学生からなので、もう7~8年ぐらいですか。大学(中央大)の水泳部でトレーニングに組み入れられていたので、そこからです。高校からやっている人もいるはいるんですが、日本だと少ないですね。あまり子どもにはやらせたくない、という傾向は感じます。僕自身は水泳部に専門のトレーナーが付いていたので、きちんと(フォームなどを)教わりました。かなり恵まれた状態でスタートできたと思います。

――他の競技では「身体を大きくしたら遅くなる」ということが未だに言われているようですが、そういう懸念をしたことはありますか?

塩浦 ないですね。でかくして遅くなることはないと思います。陸上選手だってガンガンにウェイトをやって、身体をでかくしてそれでも速く走ってるわけじゃないですか。ウェイトトレーニングに関していうと、大学の新入生はベーシックなところから始まって2年3年になると結構細かく分かれます。トレーナーさんについてもらってしっかり教えてもらえますし、中央大は環境としては恵まれていますね。

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塩浦 個人的に、ウェイトは高校生からガンガンやらせていいと思ってます。けど、教わるところがないんですよね。今となってはJISSでトレーナーさんにマンツーマンでつきっきり、メニューも年間通して作ってもらえます。けど、それはこの競技レベルに来たからであって。高校生がじゃあ今から始めようとなったときに、ちゃんとした知識で教われるかは難しいですね。

――やみくもにやればいい、わけでもないですからね。

塩浦 僕がコーチだったら、高校生になったら絶対やらせるんですが、水泳のコーチがその辺まで全部カバーできるかというと、専門的な知識が必要になってくるので、そこは難しいところですね。

――とはいえ、水泳を競技として行なうだけで筋肉が付く人は付きますよね。ウェイトトレーニングをやり始めて、明らかに変わったなと実感することはありますか?

塩浦 ありますね。飛び込みの場面でもジャンプの切れが出ますし、泳いでいてチカラも入りやすいです。自分の理想のストロークの軌道があるとして、その中でチカラを出すときに、やっぱり水って結構重いんですね。早く動かそうとすると、それに負けない強さが必要になります。理想の泳ぎを追求しようとすると、高校生のときはイメージはしていてもチカラが伴いませんでした。ウェイトトレーニングをやることで、自分のイメージに身体がついてきた実感はすごく感じています。

――その筋力は、泳ぐだけでは身につきづらいものですか?

塩浦 難しいと思います。パドルという手に板のようなものをつける器具があるのですが、あれをつければ水の中でもある程度は負荷を掛けられます。でも、ウェイトのほうが圧倒的に強い負荷が掛かるので。筋肉も大きくなるし、僕自身が短距離の選手だからという部分もありますが、ウェイトトレーニングは絶対に必要だなと思いますね。体幹トレーニングもブームですけど、ウェイトを持ってスクワットやってたほうが圧倒的に体幹も強くなります。

――体幹トレーニング自体よりも、ウェイトを持ったほうが効果は大きいと思います。

塩浦 僕自身の感覚としても、スクワットで100キロ持つとして、それに見合った体幹がないと持ち上がらないですから。ということは、100キロ持てるようになる過程で、持ち上がるだけの体幹の強さが身についていると思うんです。ウェイトトレーニングは日本では悪だと思われがちなんですけど、もっと取り入れられてほしいですね。

――サッカーではよく、「キレがなくなる」ということで敬遠する選手もいますね。

塩浦 あくまでこれも僕の感覚なんですが、キレってキレを出すトレーニングをやるかどうかの話のような気もするんですね。例えば僕がラットプルダウンで100キロ行きましたといっても、それを水の中で伝えられないと意味がない。大学の後輩でも、入学していきなりベンチプレス100キロ行くようなチカラが強い後輩がいたんです。でも、それがストレートに水泳の強さにつながってるわけでもなくて、その辺は水にチカラを伝えるという水泳の難しさでもあります。

だから、パワー付けすぎると嫌だという人はその辺の感覚にズレがあるのかなと思います。でも、外国人なんて圧倒的にパワーがありますからね。230キロかついでジャンプするみたいな、意味不明なパワー持った選手いますから。

――とんでもないですね。

塩浦 日本は特に、ウェイトをやらせたくないという考え方が強いですね。僕も高校時代、「伸びしろはあとに持っていく」ということを言われました。要は、もっと年齢を重ねてからと。でも、若い内にキャリアを積まなかったら伸びしろも何もないんですよ。僕自身は割りと順調なキャリアでしたが、仮に高校時代に芽が出なかったら水泳の場合は(高いレベルで)続ける環境がないんです。

ポテンシャルがあったとしても、高校時にある程度の実績がないと、そもそもちゃんとした環境のある大学に進めないんです。海外の選手はデビューが早いですが、日本人でも女子では高校生でバンバン日本代表に入ってきています。伸ばせるなら、早めに伸ばせばいいと思うんですね。仮に高校3年生で、能力を伸ばしきったら日本代表に入れるなら、そこで(ウェイトを)頑張ればいいと思うんですね。

――わざわざ大学4年にずらす必要はないと。

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塩浦 ウェイトトレーニングにしても、ある程度の期間続けないと効果が出ないですから。やり始めて2年ぐらいは必要だと思います。だから、早ければ早いほどいいんじゃないかと僕は思います。

いま、世界的に見てもかなり早い年齢からやらせていますね。15歳ぐらいから始めている選手もいます。女子選手でも、サラ(・ショーストレム)はクリーン(全身を使い、ウェイトを付けたバーを持ちあげてキャッチするトレーニング)90キロを挙げますしね。90キロは正直、僕でもできないです(笑)。

アダム・ピーティという、7月の世界選手権で平泳ぎで50メートル25秒台という前人未到の記録を出した選手がいるのですが、彼なんてやっぱり身体がバキバキで。レース前にメディシンボールをぶん投げて筋肉に刺激を入れるんですが、僕らがせいぜい3~4キロのところピーティは8キロを使うと。8キロってめちゃくちゃ重いんですよ。

――とんでもないですね。

塩浦 ああいうのを見てると、もうシンプルに負けてるなと。もちろん、ウェイトの重さで勝負するわけではないです。けど、彼らは大好きでウェイトをやっていますし、最低限こちらもやらないと追いつけないですよね。

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休むときはしっかり休むべきだと思います

――身体づくりにおいては睡眠も大事ですが、塩浦選手はどれぐらい睡眠をとっておられますか?

塩浦 6~7時間ぐらいです、もっと寝たいですけどね。アメリカの大学のバスケ部でも、アベレージで5時間~6時間しか寝ていなかったチームに全員8時間~9時間眠らせるようにしたら、それだけで一気にいろんなスコアが伸びたそうです。ランの速さから、ジャンプ力から何から。
 
睡眠時間と成長には間違いなく相関関係があって、特に中高生は大事だと思いますね。若い頃は僕もっと寝ていましたよ、だから他の兄弟より身長高いのかもしれません。3人兄弟の真ん中なんですが弟が180センチ、兄貴が181センチで僕だけ188センチあります。

僕は高校から自宅まで遠くなかったので、学校終わって部活で泳いで、帰宅は20時ぐらいでした。睡眠時間はきっちり確保できましたね。スイミングスクールだと、18時開始とかなので、もうちょっと遅くなった可能性があります。とはいえ、水泳は意外と休憩もきっちり取ってます。朝練したなら、夕方の練習はちょっと時間を空けて16時17時ぐらいからスタートしたり。

――水泳は明らかに消耗が大きなスポーツですから、「消耗が大きい=休養が必要」という認識が浸透しているんですね。今回、塩浦選手にお声がけさせていただいたのは、ドーピングの件でもそうですがアスリートが持っておくべき知識について積極的に発言を行なっておられるからです。まして、オリンピアンである塩浦選手が言うことはインパクトが大きいと思います。今後とも、ご協力のほどよろしくお願いします。

<了>

塩浦慎理(しおうら・しんり)
1991年11月26日、神奈川県生まれ。イトマン東進所属の競泳選手、自由形スプリンター。高校3年時には高校生として初めて100メートル自由形にて50秒を切り、当時の高校生日本記録を更新。2013年世界水泳では男子4×100メートルメドレーリレー決勝で入江陵介、北島康介、藤井拓郎の後を受けアンカーで出場し3位。2014年には日本選手権の50メートル自由形にて日本人初の21秒台となる21秒88のアジア新記録を樹立。リオ五輪メンバーにも選ばれ、男子4×100メートルリレーで8位入賞に貢献した。

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