前回は、「スポーツ投資から見る中国と日本」といった感じのテーマでの原稿で、私が興味を持っていて良く知っている分野ゆえ、筆も進みましたが、今回はかなり難易度高いリクエストが入りました。
 
「日本のスポーツメディアに求めること」というテーマで、しかも、VICTORYへの叱咤激励も含めてで構わないとのこと。VICTORYには日ごろお世話になっているので、「批判はできない」という意味ではありません。なぜ難しいかと言うと、私がスポーツメディアの人間ではないからです。

もちろん、自らの専門や興味がある分野に関しては、VICTORYなどのメディアを通して、発言したり記事を投稿したりしているので、スポーツメディアの世界にも少し足を突っ込んでいるのは否定できません。しかし基本、私はスポーツメディアの人間ではありません。そんな私が、スポーツメディアを語るのは恐れ多い、という気持ちが正直あります。
 
ただ、今回の原稿依頼を通して、改めて「日本のスポーツメディア」に関して考えるきっかけとなりました。特に、3つのことが矢継ぎ早に頭に浮かんだのです。

●2014年ブラジルW杯前に感じた、日本のスポーツメディアに対する違和感

●本業ではないながらもスポーツメディアに関わるようになって感じる「理想と現実」

●親善試合ニュージーランド戦後の、香川真司選手のコメント騒動
 
2014年W杯時のメディアのあり方にずっと違和感を抱いていたのですが、その後、自らもメディアに少なからず関わるようになり、実体験に基づいた知見が蓄積してきました。そして、今回のタイムリーな香川真司選手のコメント騒動を見て、ある意味「メディアを外から見ている」私なりの視点で、問題提起できることもあるのではと思い、筆を執ることにしました。

■「自分たちのサッカーをすれば勝てる」幻想を助長させたメディア

日本のスポーツメディアに対して大きな違和感を抱いたのは、先ほど述べた2014年W杯の時でした。代表選手が言い始めた「自分たちのサッカーをすれば世界でも勝てる」が独り歩きしてしまい、多くのファンがそれを妄信しているかのように見えたのです。
 
10年以上に渡って世界最高峰のチャンピオンズリーグに携わり、世界のトップレベルを日常的に見てきた身なので断言できますが、「自分たちのサッカーをすれば世界でも勝てる」ほど世界のサッカーは甘くはありません(「ハリルジャパンの弱者のサッカーに期待する理由」という記事でも振れています)。論点がずれるので詳しくは述べませんが、世界のサッカー界において日本はまだまだ弱小国に過ぎないのが、残念ながら現実だと思います。
 
誤解を生まないよう明記しておくと、代表選手たち自身が、「自分たちのサッカーをすれば世界でも勝てる」と信じ込んだり言及したりすることは、個人の自由だと思います。無理と思われるような目標に向かって一心不乱に努力を重ね、目標達成する姿に、われわれ一般人が感動を覚えるのがスポーツの醍醐味の一つだと思います。
 
しかし、メディアは別であるべきだと思います。選手たちが言っていることがおかしいと思えば、公然と批判するのがメディアの役割の一つであるはず。そうしたチェック機能がうまく働いていることも、成熟したスポーツ文化やサッカー文化には欠かせないと思うのです。
 
2014年W杯前の日本のメディアにおいて、チェック機能がうまく働いていたとは、言い難いでしょう。ほとんどのメディアが、「自分たちのサッカーをすれば世界でも勝てる」に乗っかり、よいしょするような形で、W杯前に極めて楽観的な報道を行なっていたからです。
 
思い出せる限りでは、「自分たちのサッカーをすれば世界でも勝てる」に最初から異論を唱え、現状を客観視してW杯への準備をすべきという論点をキープしていたのは釜本邦茂氏、セルジオ越後氏、杉山茂樹氏といった超少数派でした。
 
「批判さえすれば良い」という訳ではありません。しかし肯定派(よいしょ含め)、中立派、否定派といった様々な意見があるのが、普通のメディアのあるべき姿だと思うのです。2014年W杯前のメディア報道は、明らかなよいしょ(肯定派)一色でした。
 
なぜそうなってしまうのか? 様々な理由が考えられますが、自らがメディアに関わるようになってから、なんとなく謎が一つ解けた気がします。

■スポーツメディアの「理想と現実」

その一つは、ビジネス的な理由かもしれません。上記で述べた本来メディアがあるべき姿を「理想」とすると、その裏側に、数字という「現実」があるのです。数字とは、すなわち、売り上げ収入、売り上げ部数、広告収入、ページビュー数などです。

チェック機能などの「理想」を追い求めるのもメディアのあるべき姿ですが、営利団体であるゆえ数字と言う「現実」からは目を背けることはできないわけです。2014年W杯前は、売れる(数字があがる)コンテンツが、日本代表よいしょ系の楽観論だった訳です。
 
自分の経験を踏まえて、顕著な例をあげることができます。スポーツメディアに関わって少し経ちますが、良く言われる一つに、「中国ネタは売れない」です。冒頭であげた前回VICTORYで投稿した記事「総額80兆円!中国のスポーツ投資に、日本はどう対抗すべきか?」含めて、中国サッカーに関わる記事を幾つか書いたことがありますが、他のテーマで書いた記事と比べて、数字はよくありません。原稿依頼をしてくる編集部や執筆する私からすると、日本のスポーツ界や日本の将来に有益な情報であるとの想い(「理想」)から、記事を出している訳ですが、ページビュー数は芳しくないのです(泣)!
 
私の場合は、日本と日本スポーツに貢献したいという思いから、本業の傍ら、日本の皆さんに有益だと思う情報やネタを提供しているに過ぎません。数字が出なくても生活に支障が出る訳ではありません。しかし本業のライターさんや利益責任があるメディア会社の場合は、異なる状況かと思います。「社会の公器」としての「理想」を追い求めつつも、「数字」という「現実」も追わなくてはいけない。かなり難しいバランス取りをしなくてはならない訳です。インターネット全盛のこの時代、このことはさらに難しさが増してきている気がします。

■親善試合ニュージーランド戦後の、香川真司選手のコメント騒動

先日のニュージーランドとの親善試合後の香川選手コメントをもとに、ネットを中心に騒動が起こりました。あるメディアが、香川選手のインタビューに潜む背景や文脈を無視し、部分的に載せた発言を批判した、というように個人的には理解しております(もちろん、真相は定かではありませんし、本記事におけることの本質はそこにはありません)。
 
ただこの記事は、タイトルからして煽る感じでしたので、最初から「狙って」いた感が強いのです。そして、SNS(ソーシャルメディア)を中心にこの記事が盛り上がり、「数字」があがったため、メディア会社か編集者の「狙い」通りになったのかもしれません。
 
この香川選手インタビュー騒動の一件を見ても分かるように、インターネットやSNS全盛の今「社会の公器」としての「理想」を捨て、「数字」という「現実」を追いかけるメディアが増えてきたように感じます。
  
このように、「理想(社会の公器)」と「現実(数字)」の狭間でさまよい、正当な批判能力を失い(忘れ去って?)、メディアとしての機能を果たしていない日本のスポーツメディアもあるのが現状かと思います。このインターネットやSNS全盛時代には、ますます増えてくるのかもしれません。
 
この時代特有のあり方としては、「日本国民一億総メディア化」なのかもしれません。SNSの出現で、誰しもがメディアになりうる時代です。上記でも述べたように、インターネット全盛時代ゆえ「数字」を必要以上に追ってしまうメディアの出現がある反面、私のように本業ライターではなく、生活への支障を気にすることなく、専門分野に関して「正しい」や「伝えたい」と思うことを執筆できる人間が増えてきている面も否定できないと思います。
 
玉石混交のメディア時代ゆえ、メディア側の姿勢だけでなく、究極的には読者本人の姿勢も大事になってくると思います。一つのメディアに情報収集を偏ることなく、「肯定」、「否定」、「中立」の意見をまんべんなく調べ、「最終的には自ら判断する」という姿勢です。少なからず、メディアに関わる人間として、私も、日本や日本スポーツの「理想」を追い求めながら、日本の読者に貢献できるように頑張っていきたいと思います!

<了>

総額80兆円! 中国のスポーツ投資に、日本はどう対抗すべきか。特別寄稿:岡部恭英

国策としてスポーツ産業の拡充が進む中国、その予算総額は2025年までにGDPの1パーセント、約80兆円にのぼるとも見られます。すでに中国のクラブはブラジル代表やアルゼンチン代表など多くの有力選手と契約し、アジア・チャンピオンズリーグでも上位の常連に食い込んでいます。そんな「マネー」「スピード」「スケール」を誇る「トップダウン型」の中国に対し、日本はどう対抗すべきなのでしょうか? VICTORYプロクリックスである岡部恭英(おかべ・やすひで)さんに寄稿をいただきました。

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特別寄稿:岡部恭英 斜陽国家・日本において、スポーツ界は何をすべきか?

いわゆる「2025年問題」(団塊の世代が一斉に後期高齢者となり、5人に1人が高齢者となる)など、他国からみて日本は紛れもなく“斜陽国家”です。他国も高齢化しているものの、日本がこれから経験するそれは、人類がかつて経験したことのない『超・超高齢化社会』ともいえるべきもの。そういう社会において、スポーツ産業は何をすべきなのでしょうか? VICTORY・プロクリックスでもおなじみ、岡部恭英さんに特別寄稿を依頼しました。(文:岡部恭英、写真:Getty Images)

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日本代表に足りない“ポジショナルプレー”とは何か?日本は、いつまで“メッシの卵”を見落とし続けるのか?過剰な演出で魅力を半減させる日本のスポーツ中継

VictorySportsNews編集部