©VICTORY編集部【前編はこちら】並木裕太×池田純 赤字覚悟でスポーツチームを持つ理由は何か? 

「本当に改革するなら、権限ある立場でないと難しい」(池田)

――お二人はいま、Jリーグの理事を務められていますが、具体的にはどんなことをしているんですか?

池田 私は特任理事という役職をいただいていて、月に1回の理事会に参加しています。できることはおのずと限られてきますよね。そこで何らかの提言をしたとしても「やる・やらない」を決める権限が私たちにあるわけではないし、私自身、現場の真実を見ながら発言できているわけでもないので。

並木 議事録が公開されるので、あんまり過激なことも言えない(笑)。せっかく呼んでいただいているからには貢献したい、という気持ちはあるんですけど。

池田 ちょっともったいないと感じることがありますね。私や並木さんが持っている、それなりの経験や知識をもうちょっとうまく生かせないかなという思いはあります。

――時系列が前後しますが、並木さんがJリーグに関わるようになった経緯はどういうものだったんですか。

並木 2011年に、プロ野球のオーナー会議でプレゼンをさせていただく機会があったんです。MLBの事例を紹介しながら、日本のプロ野球もリーグビジネスを真剣に検討すべきではないかと訴えました。でも出席者の方たちの心を突き動かすようなプレゼンをすることができなくて、球界を変えていくんだという意気込みもトーンダウンせざるを得ない現実がありました。
 
それで球界に対するチャレンジは未来のために取っておきながら、サッカー界ならもっと耳を貸してくれるんじゃないかという思いがあったんです。ちょうど、村井満さんがビジネス界から初めてJリーグのチェアマンに就任することになり、リーグビジネスを推進するという考えに共鳴していただけた。DAZN(ダ・ゾーン)との放映権大型契約なんかも実現して、大きなうねりを体感することができたわけですけど、次第に現実が見えてきたりもして……。
 
池田 並木さんは、理事だとかコンサルという立場ではなく、Jリーグにがっつり絡みたいという気持ちはどこかにあるんですか?
 
並木 自分の会社をしっかりと経営しなければいけないので、フルタイムで何かをするのは現実的に難しいですね。池田さんが絡むなら、私も絡み方を考えます(笑)。
 
池田 本気で絡むとしたら、チェアマンになるぐらいじゃないと……っていうのは冗談ですけど(笑)、本当に改革をするなら、権限ある立場でないと難しいですよ。現実問題として。
 
並木 少なくとも、志と能力のある人がどんどん関われて、どんどん動いてもらえるような構造の組織であってほしいとは思いますね。

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「手腕を持つ人が関わりやすい環境が必要」(並木)

――個別のクラブの経営から変えていくという選択肢もありますか?

並木 リーグの議論と共通する部分が大きいかもしれません。やっぱり、優れたビジネスの手腕を持つ人が関わりやすい環境が必要なんだと思います。クラブの社長はほとんどの場合、Jリーグの実行委員に選任されるんですけど、実行委員というのは試合を滞りなく運営するための責任者として、アウェイゲームも含めて試合の時に会場にいなければならない決まりになっている。これ、結構大変なことだと思うんです。

池田 それはつらいですよね。社長がそこにいることで試合に勝てるなら意味がありますけど、そうじゃないですから。ベイスターズの時も遠征に帯同すると、試合が終わった後の遅い時間に食事することになって健康にはよくないし、社長としての自分の仕事をする時間も減ってしまうから、本当に必要な時以外は行かなくなりました。地元で取引先と会食して1社でも見込みをつけたほうが会社のためになる。
 
並木 地方のクラブは特に、たとえ地元で試合が行われている時間であっても、その同じ時間に東京で大きなビジネスチャンスをものにできそうなら、そっちを追う自由を経営者に与えるべきだと思います。いまのシステムだと、せっかくやる気と実力のある人が現れたとしても、そういう現実があるとわかった瞬間、引いてしまうかもしれない。
 
池田 スポーツに参入したいという声は聞こえるようになってきたのに、実際のところは優秀な人材がまだ二の足を踏んでいるのはそういう部分なんでしょうね。しがらみだとか、本質的ではない仕事がいっぱいある。そういう意味では、オーナーになるのがいいのかなと思ったりします。少なくとも社長じゃない立場で関わるのがいい。副社長で、組織と権限を下にくっつけてもらって、というのは理想的かも。
 
並木 いまさら誰かの下につくことに抵抗を感じるというなら、会長でも可(笑)。社長はそのクラブの元名選手であったり、顔や名前が看板になる人に任せて、あいさつ回りだとかサポーターとの対話だとかの部分を担ってもらう。ビジネスを回していくのはその道のプロフェッショナルに託す。そういう分業ですね。

――あえて社長にならない、というのはちょっと哀しい感じもします。日本のスポーツ界がより発展していくために、具体的な提言はありますか?

池田 やっぱり、お客さんがいちばん見たいものって何なのかをもっと突き詰めていくべきなのかなと。私は、ラグビーのサンウルブズは一つのモデルになる可能性を秘めていると思います。サンウルブズって、世界最高峰と言われるスーパーリーグに参戦していて、要は世界と戦っているわけです。まだ現状では認知度が低いんですけど、そういう座組のものって実はすごく貴重だし、世界レベルの戦いをお客さんも見たいだろうなと思う。できるかできないかの議論はさておき、サッカーも、あるいは野球さえも、世界との接点をつくる仕組みを考えることは必要なんじゃないかと思います。

並木 J1のさらに上に“スーパーリーグ”をつくるという考えを提唱している方もいますよね。個人的には、スポーツベッティング(賭け)の段階的な解禁が日本のスポーツ市場を大きく変えることになるのではないかと思っています。いまの「toto」はサッカーが好きな人が支えていますけど、サッカーに興味はなくても「これで一攫千金だ」という人たちが増えていけば、欧米のような大きな市場にいつか育っていく。プロ野球でも解禁に向けての検討が行われているようですし、少なくとも市場規模の点ではかなりインパクトが大きいと思います。それはだいぶ先の話だとしても、いま、5年前とは全然違うくらいにスポーツのビジネス価値が認められ始めている兆しはあるので、これからどうなっていくのかが楽しみです。池田さんの次の一手にも注目しています。

池田 私は何よりコンテンツがほしいなと思いますね。ベイスターズで5年かけてやったことは、次は2年もあればきっとできる。同じことの焼き直しをしても仕方がないので、問題はそれ以上の何ができるか。並木さんが言うように環境が変わってきているからには、まったく違う次元でスポーツをビジネスにしたいし、こういうこともできるんだということを見せたい思いはあります。そのためには、まずコンテンツを手にしないと始まらない。そこがなかなか難しいところなんですけど、いま動いている案件もないわけではないので、近いうちにいいご報告ができればいいなと思っています。

<了>

【前編はこちら】並木裕太×池田純 赤字覚悟でスポーツチームを持つ理由は何か? 

プロ野球とサッカーという2大スポーツに、それぞれの立場で関わってきた並木裕太氏(経営コンサルタント)と池田純氏(前・横浜DeNAベイスターズ)。現在はJリーグ理事を務めるお二人に、今後の日本スポーツの課題を伺った。(文:日比野恭三)

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日比野恭三

1981年、宮崎県生まれ。PR代理店勤務などを経て、2010年から6年間『Sports Graphic Number』編集部に所属。現在はフリーランスのライター・編集者として、野球やボクシングを中心とした各種競技、またスポーツビジネスを取材対象に活動中。