マイコラスの穴を埋めるのはあの右腕?

 昨季11年ぶりのBクラスに終わった巨人が復活するには何が必要なのか? 

 今回のVICTORY編集部からのテーマは、ズバリ「2018年の巨人軍」についてである。17年は初めてCS出場を逃し、ファンからしたら惜しいとか悔しいではなく、なにより寂しいシーズンだった。ストーブリーグは村田修一への戦力外通告に始まり、中日からゲレーロ獲得、西武からFAで野上亮磨が移籍、先日は新外国人投手テイラー・ヤングマンと契約合意という一連の流れだったが、ひと言で書けば非常に切実で「現実的」な補強だと思う。

 夢いっぱいの90年代の落合博満や清原和博、2000年代の小笠原道大やラミレスといったような超大物たちがこぞって巨人のユニフォームを着たジャイアンツバブル時代は終わりつつあり、マイコラスも3年間の日本生活でステップアップして美人妻ローレンさんとともにアメリカへ帰って行った。カージナルスと2年総額1550万ドル(約17億5000万円)の大型契約でメジャー復帰。昨季14勝を挙げ、WBCに参加した菅野に代わり開幕投手を務め、12球団トップの188イニングを投げ最多奪三振のタイトルに輝いた頼れる助っ人右腕。QS(先発して6回3失点以下)数はリーグ1位の22試合で記録。2位が沢村賞を獲得した菅野の21試合だったので、まさに抜群の安定感でスーパーエースと重圧をワリカンしていたわけだ。

 さて、その偉大なマイコラスの穴をどう埋めるのか? まずはFA移籍の野上だが、昨季は11勝10敗、防御率3.63。プロ9年でキャリア通算53勝56敗、防御率4.03。昨季の巨人は三本柱以降の先発不在に悩んだだけに、補強の意図ととして野上は先発4~5番手で回り、10勝10敗でも1年間ローテを守ってくれたら御の字といったところだろう。
 
 となると、実績やポテンシャルを考えると、投手陣の鍵を握って来るのが山口俊ではないだろうか。移籍1年目は故障や泥酔暴行事件での謹慎もあり、わずか1勝に終わったが、秋にはジャイアンツ球場のブルペンで凄まじいボールを投げ込んでいた。まだ30歳、16年には菅野と並ぶリーグトップの5完投を記録するタフさもあり、冷静に見たら杉内俊哉(昨季0勝)、内海哲也(2勝)、大竹寛(4勝)、吉川光夫(1勝)ら崖っぷち中堅ベテラン組の中で最も昨季からの数字的伸びしろが期待できるのがこの男だ。
 
 20代前半の田口麗斗や畠世周ら若手のさらなる成長、野上の加入、加えて山口俊の復活。忘れた頃に立ち上がれヤングマン。誰かではなく、全員でマイコラス退団をカバーするしかない。

18年版新打線の鍵を握るのは、長野と陽

 チーム打率.249、113本塁打、536得点と寂しい数字が並び、昨季リーグ唯一の20本塁打以上0名に終わった打線は、パワー不足を解消するため17年セ本塁打王ゲレーロを獲得。今年39歳の阿部慎之助に代わる新4番打者として注目される。そんな18年版新打線の鍵を握るのは、左翼ゲレーロと外野陣を形成することになりそうな長野久義と陽岱鋼ではないだろうか。
 
 本来なら坂本勇人とともに“チーム世代交代のベース”になってほしいところだが、昨季は長野が率.261 16本 46点 OPS.755。陽が率.264 9本 33点 OPS.762という微妙な成績。同時にこの数字を超えられる若手もいない悲しいリアル。正直、DHのないセ・リーグで外野レギュラーに打率2割6分台、10本クラスの30代右打者が2名というのはG打線迫力不足の象徴でもあるのが難しいところだ。
 
 ともに近年は故障を抱える脚力の衰えが顕著で、長野は12年の20盗塁から17年6盗塁(併殺打は自身ワーストの17個)、1番打者を託された陽は13年47盗塁から17年4盗塁へと激減。そんな彼らを脅かしてほしい90年組の橋本到や立岡宗一郎も伸び悩んでおり、ここ10年ずっと渋い働きをしてくれたベテラン亀井善行も今季36歳になる。あくまで状態が戻るのを信じてライト長野、センター陽にこだわるのか、それともこの二人を競わせるのか。もしくは昨季打席数は少ないながらも打率.350、4本塁打をマークした“打てるキャッチャー”宇佐見真吾の内外野起用があるのか。3年契約最終年を迎える由伸監督の思いきった采配に注目したい。

苦戦するドラフト1位勢、逆襲なるか?

 さて、近年はどうしても「若手が出てこない」的なイメージのある巨人だが、やはりドラフト1位勢の苦戦がチーム作りの大きな誤算を生んでしまっている。近年の1位選手を見てみると14年岡本和真は3年間でわずか1本塁打、15年桜井俊貴はいまだ1軍未勝利、16年吉川尚輝は昨季5試合出場に終わり、17年1位右腕の鍬原拓也も早々に上半身のコンディション不良でキャンプ3軍スタートが決定した。この状況ではスカウト部門への批判が出るのも当然だろう。
 
 歴代キャプテンの阿部や坂本にしても、昨季の沢村賞・菅野やゴールデングラブ受賞の小林誠司にしても皆1位入団と、巨人はドラ1選手を決め打ちで徹底的に起用することで主力へと定着させてきたが、その伝統の流れが近年は止まってしまっている。オフの村田修一への戦力外通告は、岡本和真や吉川尚輝の1軍での出場機会確保という意味合いも大きかった。いわば、若手にチャンスを与えるとともに「チャンスが満足にもらえない」的なヌルいエクスキューズを奪ったわけだ。もう何の言い訳もできない。岡本も吉川も2018年シーズンに1軍で何らかの爪痕を残さない限り未来はないだろう。
 
 …と色々と巨人復活のテーマに沿って書きながら、ふと思ったが、果たして巨人の場合は何を持って“復活”と言えるのだろうか? とりあえず現実的にAクラス復帰でよしとするのか、それともやはり優勝しかないのか? 理想と現実の落としどころが難しい球団だが、ひとつの目安は「シーズンを通して優勝争いをできるところまでチームの状態を戻せるか」だと思う。原監督時代は2度のリーグV3と安定の強さを誇っていたが、由伸監督が就任した16年は2位確保も1位広島と17.5ゲーム差をつけられ、17年はシーズン中盤の球団最多13連敗で早々にジ・エンド。気が付けば、巨人ファンはもうしばらくシビアな優勝争いを体験できていない。
 
 まずは焦らず、セ・リーグ優勝戦線への復帰が「巨人復活への第一歩」と言えるのではないだろうか。

<了>

戦力外の村田修一はどこに行くのか? 新天地決定は、来シーズン開幕後の可能性も

2016年にセ・リーグのベストナイン、ゴールデングラブを同時受賞した村田修一。だが、クライマックスシリーズの出場を初めて逃した読売ジャイアンツは若返りにかじを切り、今オフ、村田に戦力外通告を突きつけた。2012年に横浜DeNAベイスターズからFAで巨人に移籍し、リーグ3連覇にも貢献した36歳は新シーズンをどこで迎えることになるのか。(文:菊地選手)

VICTORY ALL SPORTS NEWS

「プロ野球離れ」はどこまで本当か? 伝統のスターシステムの終焉

巷間ささやかれる「プロ野球離れ」。しかし、会場には過去最多の観客が集まっています。われわれは、この矛盾をどう解釈すればよいのでしょうか?「プロ野球死亡遊戯」でおなじみ、中溝康隆さんに解説を依頼しました。(文:中溝康隆)

VICTORY ALL SPORTS NEWS

野球のトレーニングに「走り込み」は必要なのか? vol.1

日々、進化し続けるスポーツのトレーニング事情。近年、とりわけ話題になっているのが「走り込み」と「ウェイト・トレーニング」の是非をめぐる問題だ。野球という競技において「走り込み」はそれほど効果がなく、「ウェイト・トレーニング」にもっとしっかり取り組むべき、という考え方が広まってきている。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

なぜ伊藤智仁は、今なお愛されるのか? 悲運のエースの「幸福」

2018年の正月、相次いで放送された“悲運のエース”伊藤智仁の特集。2003年末に現役を退いてから14年、未だに根強いファンが多くいることを再確認させた。彼が愛される理由とは何か? プロクリックスでもあるノンフィクションライター・長谷川晶一氏に寄稿を依頼した。

VICTORY ALL SPORTS NEWS

絶対不可能と言われた買収の裏側にあった「ハマスタ物語」 前ベイスターズ社長が明かす“ハマスタのドン”への感謝

2017年12月、“ハマスタのドン”と呼ばれた横浜スタジアム元社長、鶴岡博氏の訃報が届きました。鶴岡氏は、1978年の横浜スタジアム建設に尽力しただけでなく、現在「プロ野球でもっとも集客力のあるスタジアム」といわれる横浜スタジアムの「コミュニティボールパーク化構想」を横浜DeNAベイスターズ初代社長である池田純氏と共に生み出した人物でした。転機となったのは、球団とスタジアムの一体運営化。「不可能」といわれた球団によるスタジアム買収の一方の当事者である横浜DeNAベイスターズ前社長の池田純氏が、球団社長就任以来、親交を深めてきた鶴岡氏との思い出を明かしてくれました。(文=池田純)

VICTORY ALL SPORTS NEWS

中溝康隆

1979年埼玉県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒。 年間約50試合球場観戦をするライター兼デザイナー。 ブログ『プロ野球死亡遊戯』が累計7000万PVを記録し話題となる。 主な著作に『プロ野球死亡遊戯 そのブログ、凶暴につき』(ユーキャン)、『プロ野球死亡遊戯 さらば昭和のプロ野球』(ユーキャン)、『隣のアイツは年俸1億 巨人2軍のリアル』(白泉社)など。