ライオンズが小学生に贈った30万個のベースボールキャップ
3月中旬、埼玉県所沢市立小手指小学校には、「ライオンズ・オリジナル・ベースボールキャップ」贈呈セレモニーに参加する増田達至選手会長、十亀剣投手、高橋朋己投手の姿がありました。この日のイベントでは600人を超える児童にキャップが贈呈されましたが、ライオンズでは埼玉県内の小学生30万人にベースボールキャップを贈呈、地域コミュニティ活動「L-FRIENDS」プロジェクトがスタートしました。
「これはとても良いことですね。子どもたちにとってもうれしいし、意味があることだと思います」
横浜DeNAベイスターズの前球団社長、池田純氏は、マーケティングのプロとして、ライオンズの取り組みに拍手を送ります。
ベースボールキャップ贈呈と聞いて思い出されるのは、2015年末にベイスターズが行った「5周年ロゴ入りベースボールキャップ」のプレゼント。72万個のベースボールキャップを配布したこのプロジェクトの陣頭指揮をとった池田氏は、ライオンズの取り組みに「もったいない」点があると指摘します。
マーケティングはコンセプトに基づいたストーリーの積み重ねで結実する
「良いことをしているのにそれほど話題になっていない。マーケティングの視点からいえば、ニュースに取り上げてもらえるようにしなければいけません。ベイスターズ時代の施策は、他球団から『これはやられた』と言われました。みんなが思いつきそうな企画なのに、誰もやっていなかった。それまでのファンクラブの子どもたち1万人にプレゼントといったような限られた中ではなく、地域の子ども全員に72万個を配るというのがニュースバリューになりました。ライオンズが同じ手法を採るなら、その土地ならでは、ライオンズならではの一捻りというか、工夫がないとニュースとしての価値が半減してしまうのではないかと感じます」
世界初、日本初、球界初など“初物”はそれを行うことに価値があるといいますが、後に続くならば独自色、意味や意義を明確にしなければ「やりっぱなし」になってしまう可能性もあることは、マーケティング界では半ば常識化していることです。
「繰り返しになりますが、ベースボールキャップを配るというのは良いことなんですよ。ベイスターズが72万個を配った時の単価は100円程度でした。今回のライオンズの場合、仮に単価を200円とすると、単純計算で6000万円、発送費などのコストを考えると、1億円近く使っているプロジェクトということになります。それならば、その費用に見合うだけの価値、『やっぱりライオンズはすごいな』と思わせるような仕掛けがあればより良かったのではないかと思います」
地域活性化プロジェクトにしても、ライオンズのオリジナリティ、ブランド、メッセージとどう絡めていくのかが大切だと池田氏は言います。
「マーケティングは単発でやってもなかなか伝わらないものです。もともとのコンセプトがあって、それに沿ったストーリーがあって、それらが積み重なっていくことで伝わっていくのです」
地域振興プロジェクトは「その地域との約束」
ライオンズの「L-FRIENDS」プロジェクトのコンセプトは、「野球振興」「子ども支援」「地域活性」の3本柱のもとに、地域、ファン、選手、スタッフが一つの仲間として繋がり、未来への夢を繋いでいくというものです。
ライオンズを中心に仲間が広がっていく活動、その支援をライオンズがしていくというプロジェクトは、40周年を機に、埼玉県および埼玉県内の各自治体と密接な関係を築いていきたいというライオンズの意志の表れでもあります。
「ベースボールキャップの件もそうですが、こんなに素晴らしいコンセプトがあるのに、メッセージとしてファンや地域に伝わりきっていない気がします。『L-FRIENDS』と聞いて、すぐにライオンズを連想するのは難しいのではないでしょうか。私なら例えば、思いきりライオンズっぽく、『真っ白若獅子プロジェクト』と名付けるかもしれません(笑)。『若獅子を何色に染めていくかはみなさんで決めてください!』といったメッセージ込みで、真っ白いたてがみ風のウイッグをプレゼントするとか。半分冗談ですが、マーケティングはいかに口コミで広がるかどうかにかかっています。ファンが面白がってくれて、自分からやりたいと思う、しかもコンセプトが伝わるような試みができたら最高ですよね」
池田氏がベイスターズ時代に行ったプレゼントプロジェクトには、「横浜スタジアム買収という事実をいかにコンセプチュアルに伝えるのか」というテーマがあったそうです。
「単純にキャップを配ったわけではなく、横浜スタジアムという“家”を買い、これからもっと横浜に根付いていきますよという“約束”をメッセージとして伝えたかった。その一環として、子どもたちが元気に外で遊ぶことの象徴であるベースボールキャップを贈ったので」
野球人口増加のためにグローブやバット、野球グッズを贈るという選択肢もありましたが、池田氏は「それでは“押しつけのマーケティング”になってしまい共感を生まない」と、あえて野球以外にも使えるキャップを選んだといいます。
「子どもたちが強い日差しの中でもベイスターズのキャップを被って外で元気に遊ぶ姿が思い浮かんだんです。ベイスターズとして、心身ともに健康で健全な未来を創りますという宣言して、その次の段階として『野球をやろうぜグッズ』と銘打ってビニールバットとボールとホームベースのクッションをプレゼントしたり、子どもたちがハマスタでキャッチボールできるように外野を無料で開放したり、いろんなことを積み重ねていきました。その根本には、『横浜の地に根付きます』というメッセージがあったわけです」
経営判断によって「横浜から出て行くのでは?」という目で見られることもあった当時のベイスターズは、横浜の子どもたちの将来にコミットすることで、強烈なメッセージを伝えることに成功しました。その後、ベイスターズは大幅な観客増を成し遂げ、地域密着型経営の成功例とまでいわれるようになったのは皆さんご存知の通りです。
「ライオンズのプロジェクトも、単発で終わらずに継続していくことが重要です。スタートダッシュに成功して、野球の成績で注目を集めているわけですから、コンセプトをしっかり持ってこうした取り組みを続けていってほしいですね」
地元との関係をさらに強固にするためのライオンズの40周年プロジェクト。今後の積み重ねに期待が集まります。
<了>
取材協力:文化放送
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文化放送「The News Masters TOKYO」(月~金 AM7:00~9:00)
毎週木曜日レギュラー出演:池田純
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※本コラムはAdvertimes様2017年05月31日掲載「スポーツ経営に学ぶ 常識を超えるマーケティング発想法」を全文転載させていただいたものです。※
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