先発左腕が充実したDeNAが、さらに左投手・東克樹をドラフト1位指名

昨年10月26日に行われたプロ野球ドラフト会議。横浜DeNAベイスターズの1位指名に「東克樹、投手、立命館大学」の名前がコールされた瞬間、正直、「なぜ?」と感じざるを得なかった。

同ドラフトで「目玉」とされていたのは高校ナンバーワンスラッガーの清宮幸太郎(早稲田実業から日本ハムに入団)、夏の甲子園で1大会6本塁打を放ったスーパー捕手・中村奨成(広陵高から広島に入団)、アマ球界ナンバーワン左腕・田嶋大樹(JR東日本からオリックスに入団)の3選手。事実、DeNA以外の11球団は全てこの3選手を1位で指名し、いわゆる「一本釣り」に成功したのはDeNAだけだった。

とはいえ、大学球界屈指の左腕である東の1位指名はドラフト前にも報道されており、いわば既定路線。指名自体はサプライズではなかったのだが、それでもやはり、その指名に疑問を感じたのはDeNAの補強ポイントと東という投手の乖離にあった。

2017年、DeNAはセ・リーグ3位ながらクライマックスシリーズを勝ち上がり、日本シリーズへと進出した。その原動力の一つに、「先発左腕の充実」があったのは間違いない。

昨季、DeNAの投手陣で10試合以上に先発したのは5人。そのうち、今永昇太、濵口遥大、石田健大の3人が左投手だった。今永はチームトップの11勝を挙げ、新人の濵口も10勝、石田は6勝に終わったが、2016年には9勝を挙げ、昨季はチームの開幕投手を任されている。

先発左腕の充実度でいえば、12球団でもトップクラス。先発ローテーションは6人で回すのが基本であるため、「右投手3人、左投手3人」という現状の布陣は理想的ともいえた。

左の先発候補は、決してDeNAの補強ポイントではなかった。むしろ、メジャー移籍願望の強い筒香嘉智の後継者として清宮や安田尚憲(履正社高からロッテに入団)を、頭数は揃っているが絶対的存在のいない捕手へのカンフル剤として中村を指名する方が、自然に思えたのだ。

それでもDeNAはドラフトで清宮でも、中村でもなく、左投手である東を単独指名した。

これにより、今季のDeNAは即戦力の呼び声高い東が評判通りの実力を発揮できれば「左腕4人」という、プロ野球界でもめったにお目にかかれない先発ローテーションを形成することになる。

東の実力は、確かにドラフト1位にふさわしい。ただ、果たして獲得すべき球団はDeNAだったのか……。

ドラフト直後、そんな疑問を感じたのは確かだ。

しかし、このオフ。複数の野球評論家にDeNAの「先発左腕4人体制」の話を聞くうちにその考え方は少しずつ変わっていった。

球界OBは口をそろえて「左投手4人」に肯定的

横浜、中日で正捕手を務め、選手兼任監督の経験も持つ谷繁元信氏は「もちろん、左右のバランスが取れているのがベスト」と前置きした上でこう語る。

「右投手ばかりよりは、左投手が多い方が良い。そもそも、プロ野球界全体を見ると先発投手は右が多く、左は稀少。先発を任せることのできる能力があることが大前提だが、左投手が多いデメリットはあまりない」

また、元ロッテの正捕手、里崎智也氏は近年の野球界の傾向についても語ってくれた。

「左投手は右打者に弱いといわれることが多かったが、今はそんなことはない。特にDeNAの左投手は右打者に対しても外に逃げるボールがあるので、左右の差はほとんどないはず。それは、日本シリーズの投球でも証明されている」

1998年に横浜の日本一に貢献し、自身も「左のエース」として活躍した野村弘樹氏も同様の意見だ。

「左4枚、面白いじゃないですか! 確かに珍しいけれど、DeNAはそういう固定観念にとらわれない野球をしている。もし今季、左偏重のローテーションで結果が出れば、他球団もそれに追随する可能性は十分ある」

取材した球界OBは皆、口をそろえてDeNAの「左投手4人」に肯定的だったのだ。

その背景には谷繁氏が語るように、先発左腕の「稀少性」がある。

昨季、12球団で規定投球回数に到達した投手は全部で25人。そのうち、左投手は今永、田口麗斗(巨人)、バルデス、大野雄大(ともに中日)、菊池雄星(西武)の5人のみ。

12球団を見渡しても、規定投球回に到達し、2ケタの勝ち星が期待できるような先発左腕は限られている。

プロ野球全体を見ても稀少な「先発左腕」を実に4人もそろえる――。一見、補強ポイントとはマッチせず、球界の常識からはかけ離れているかに思えるDeNAのドラフト戦略だが、その裏には確かな手応えが透けて見える。

昨秋ドラフトであえて競合を避け、東の一本釣りを狙ったことからも、それは分かる。

ドラフト候補の先発左腕候補でいえば、オリックスと西武が1位で重複した田嶋もいた。もちろん、DeNAスカウト陣が純粋に田嶋よりも東を評価していた可能性もあるが、他球団の1位指名で名前の挙がっていなかった東を指名したのは、より確実に彼=左の先発候補を獲得したかったからだろう。

DeNAは石田を2014年ドラフト2位、今永を2015年ドラフト1位、濱口を2016年ドラフト1位で獲得している。濱口に関しては柳裕也(中日)、佐々木千隼(ロッテ)の「外れ外れ1位」だったため結果論にはなってしまうが、過去3年間のドラフトで上位に指名した左腕がしっかりと成長している成功体験も、東の獲得を後押ししたといっていいかもしれない。

昨年ドラフトの濵口とは違い、「4人目の先発左腕候補」である東の指名は、ある意味、「確信犯的」なものだった。そこには、他球団の評価や世論には決して流されない、球団独自の戦略がある。

ラミレス監督が掲げる「左腕カルテットで40勝」は現実的な目標

年明け、ルーキー・東の自主トレを視察したラミレス監督は「1年目から先発ローテーション入り、10勝を狙えるポテンシャルがある」と、その実力に太鼓判を押した。もちろん、ラミレス監督流のリップサービスも多分に含まれているだろうが、指揮官が標榜する「先発左腕カルテットで40勝」は、決して夢物語ではなく現実的な目標だ。

さらにいえば、DeNAには先発だけでなく、リリーフにも砂田毅樹、田中健二朗、エスコバーといった実力ある「左腕」が控えている。

エース格へと成長した今永、石田、2年目の飛躍を期待される濵口、そして、ドラ1ルーキー・東。ここに、前述の強力リリーフ陣が加われば、プロ野球史上屈指の「左腕王国」が生まれる可能性は十分ある。

前評判通りにいかないのがプロ野球界の常とはいえ、今季のDeNA投手陣の顔触れを見ると、どうしてもそんな「希望」を抱いてしまう。

そして、その希望が現実となったとき、その先には必ず、昨季逃した20年ぶりのリーグ優勝、日本一が見えてくるはずだ。

<了>

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花田雪

1983年生まれ。神奈川県出身。編集プロダクション勤務を経て、2015年に独立。ライター、編集者として年間50人以上のアスリート・著名人にインタビューを行うなど、野球を中心に大相撲、サッカー、バスケットボール、ラグビーなど、さまざまなジャンルのスポーツ媒体で編集・執筆を手がける。