38歳の若さで理事に抜擢された皆川賢太郎の描く大きなビジョン

現役時代、スキーアルペン男子回転の代表として冬季オリンピックに4大会連続で出場した皆川賢太郎氏は、2014年、20年近い現役生活に終止符を打った。現役時代には“稼ぐ”ために、日本代表を辞退してワールドツアーを優先せざるを得ないことが何度もあった。当時感じていた“本来あるべきではない”姿を今の選手たちに背負わせないために、日本スキー界の先頭に立って大きなビジョンを描きながら日々課題に取り組んでいる。

皆川氏が38歳の若さで理事に抜擢された背景には、もともとアマチュアスポーツからの入り口が強く、“稼ぐ”という意識が決して高いとはいえなかった全日本スキー連盟(SAJ)にとって、変革しなければいけないという危機感が生まれた証拠でもあった。

「お金を稼ぐ団体にならないといけない。選手たちに投資し続けていくには、やはり支出(=強化費)のことばかりではなく、収入のことも考えなければなりません。それをどうやってつくっていこうかというのが、今の課題です」と皆川氏は語った。

SAJは現在、会員数が8万人強、収入は11億円程度(2017年度)。それを2030年までに海外の人も含め会員数100万人、収入100億円を目指すという『SAJ100プロジェクト』を掲げている。

「日本のスキー人口が700万人程度といわれる中で、この目標数値はかなり高いんじゃないかと感じる人もいらっしゃると思います。ですが、現実的によく考えるのは短期目標だけで、長期目標に関してはそうではなく、もっと大きいものを設定した方がいいのではないかと考えています。大きな長期目標を掲げ、頂上を高く引っ張ることで、横にも広がっていくものだと思っています」

国内の人口減少も影響して、会員数は2003年度から26%も低下している。課題としてあがるのが、会員になるメリットがない現状だ。海外からの会員を増やしていくためにも、その魅力を高めていく必要があると皆川氏は話す。

収入においても国からの補助金や会員登録費に依存していたモデルからメディア、物販、マネジメント、トラベルから成り立つ新たな収入モデルを目指していく。日本には、民間によって運営されている全国300箇所のスキー場という“財産”がある。現状ではこれらの“財産”を活かしきれず、各地で需要と供給が合っていないなどスキー場の運営には試行錯誤が続いている。日本の上質な雪資源を活かし、各地ターゲットを明確にした日本独自のスキー文化を創造していくことが必要となってくる。

課題は山積みだ。それでも皆川氏は待ち受けるチャンレンジを楽しんでいるようだ。

「今、いろいろと大変な時代にあるのは確かです。でもそれは同時にチャンスでもあります。良い時代に生まれたと思いますし、良いチャンスが巡ってきたなと感じています」

<了>

(C)Sports Graphic Number

[PROFILE]
皆川賢太郎
全日本スキー連盟 常務理事・競技本部長
1977年生まれ、新潟県湯沢町出身。日本体育大学卒業。スキーアルペン男子回転の日本代表選手として、1998年長野大会、20002年ソルトレイクシティ大会、2006年トリノ大会、2010年バンクーバー大会と、オリンピックに4大会連続で出場。トリノでは、日本人として50年ぶりとなるアルペン種目の入賞に輝いた(4位)。2014年競技選手を引退。2015年全日本スキー連盟理事、2016年同常務理事に就任。2017年6月からは同連盟の強化部門トップである競技本部長を務め、スキーやスノーボードを含む全6競技14種目の強化に携わっている。

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新川諒

1986年、大阪府生まれ。オハイオ州のBaldwin-Wallace大学でスポーツマネージメントを専攻し、在学時にクリーブランド・インディアンズで広報部インターン兼通訳として2年間勤務。その後ボストン・レッドソックス、ミネソタ・ツインズ、シカゴ・カブスで5年間日本人選手の通訳を担当。2015年からフリーとなり、通訳・翻訳者・ライターとして活動中。