2007年からの育成強化が今日の結果に結びついている
「日本のバドミントンは確実に強くなっている」
銭谷氏が自信を持ってこう切り出した。4月に行われたアジアバドミントン選手権大会にて、桃田賢斗選手が日本勢初となる男子シングルでの優勝を飾ったことも記憶に新しい。では、なぜ日本のバドミントンは進化を続けることができているのだろうか。
「15〜6年前からジュニア強化をやってきた成果だと考えています。桃田や山口茜がその時の生徒たちです。15年前とは雲泥の差でスキルアップしています」
山口茜選手は女子シングルの世界ランキングで1位を獲得し、2020年の東京オリンピックでも金メダルを期待される逸材だ。昨年のスーパーシリーズファイナルズを初制覇し、今季も着時にポイントを積み重ねている。
「2007年に韓国から、1992年バルセロナオリンピックの男子ダブルス金メダルを獲得したパク・ジュホン氏を監督に招いたころから、本格的にジュニア強化を始めました。2008年にはナショナルトレーニングセンターが開設されて、その3階は10コート使えるようになっており、現在、稼働率は99%です。環境が整備され、それを有効活用できていることが、今の選手たちが成果を出せる理由でしょう」
違法賭博問題で学んだインテグリティの重要性
銭谷氏が選手強化に乗り出し成果を出している日本バドミントン協会だが、これまでの道のりは決して平坦ではなかった。2016年には桃田選手と田児賢一選手が違法カジノ店で賭博をしていたことが判明し問題となった。銭谷氏はこの問題をしっかりと反省し、改革にも取り入れている。
「あの事案をしっかりと反省し、内部統制やガバナンス、コンプライアンスの整理や強化はもちろん、インテグリティ(※)という面にも力を入れています。選手たちにはジュニア時代から更生プログラムなどを定期的に行っています。また、地域の指導者や保護者の皆さんにもインテグリティのレクチャーをしていけるように予算を割くことを考えています」
(※インテグリティ:誠実、真摯、高潔などの概念を意味する言葉。組織のリーダーやマネジメントに求められる最も重要な資質、価値観を示す表現として、特に欧米の企業社会でよく使われている。近年スポーツ界にもその概念の重要性が説かれ始めている)
最近、「進化」という言葉を積極的に使っているという銭谷氏。もちろん失敗はあるが、それでも怖がらずに新しいことを仕掛け続けていることが、進化の必須条件だ。失敗はしっかりと反省し、それを次に活かすことが2020年の東京オリンピックや、それ以降のバドミントンの成功につながると、銭谷氏は信じている。
[PROFILE]
銭谷欽治
日本バドミントン協会 務理事
1953年生まれ、石川県出身。中央大学卒業後、河崎ラケット工業を経て、1984年三洋電機へ入社。 全日本総合バドミントン選手権大会男子シングルで1976年から4連覇など7回優勝。1990年三洋電機監督に就任、1996年から三洋電機女子チームを全日本実業団バドミントン選手権大会4連覇に導いた。その後、日本バドミントン協会 理事、選手強化本部長を経て、2015年現職に就任。
桃田賢斗の1年1ヶ月。あのカジノ事件から積み上げた、45勝1敗の価値。
2016年に開催されたリオデジャネイロ五輪で、メダル獲得も期待されていた桃田賢斗。当時21歳の桃田は世界ランキングで2位となっていた。しかし、大きな期待を背負っていた若者は、違法カジノ店で賭博をしていたことが明らかになり、日本代表の強化指定から外れ、世界ランクは抹消。さらに無期限の出場停止処分も受けた。その後、1年1カ月の謹慎期間を経て今年5月に開催された「バドミントン日本ランキングサーキット大会」で復帰、同大会で優勝を飾った桃田は、東京五輪出場を目指し、世界ランクを上げるために自費で国際大会に参戦している。
選手の意識改革に成功したバドミントン協会
ロンドン、リオと五輪2大会続けて活躍した日本のバドミントン。その背景には、選手により高みを目指させる協会主導の意識改革があった。
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