WOWOWがパラリンピックに懸ける思い
田中晃氏が代表取締役となって3年。WOWOWは今、パラアスリートの魅力を伝える試みにチャレンジをしている。その一つが国際パラリンピック委員会と共同で2016年から2020年にかけて5年にわたり制作する「 パラリンピック・ドキュメンタリーシリーズ『WHO I AM』」だ。
「日本の放送は、まだパラリンピック、障がい者スポーツの本質をまったく伝えることができていない」
プロ野球選手の大谷翔平選手が二刀流でメジャーリーグに挑戦する意味や難しさを伝えることはできても、左手と左足を欠いて時速100キロを超えるスピードのスキーダウンヒルに挑むステファニー・ジャレン選手の勇気や、その困難さを伝えることはできていないという。
「ソチパラリンピックに出場した選手の中には、ステファニー・ジャレン選手が滑る姿を見ただけで感動して泣き出してしまう人がいました。しかし、その偉大さが我々にはわからない。片足と片腕がない状態でスキーを履いて滑ることの勇気と技術的な難しさ。それをTVで伝えることにチャレンジしたい」
障がい者スポーツの本質は「多様性を受け入れること」と「フェア(平等)であること」にある。
「2020年に行われる東京パラリンピックの放送を見た人たちが、いろいろな人が共生する社会を自然と受け入れて、フェアネスを大切にするようになる。それが日本のスポーツ界や社会の最も大切な価値観になり、未来を担う子どもたちが日本を『いい国だね』と愛してくれるようになるためにも、このチャレンジは必要だと思っています」
未来の礎となるような可能性を、田中氏はパラリンピックの本質を放送していくことにあると見ている。
そのスポーツの価値や本質をしっかり理解し、それに基づいたフィロソフィーを中継チームで徹底して、細部にわたり具現化して伝えること。これは、田中氏が長年にわたり貫いてきた放送哲学だ。そして、それを追求するために「スポーツを愛すること」を見失ってはいけないと田中氏は言う。
「スポーツを愛すること、理解すること、選手をリスペクトすること。これを見失ったらそのビジネスは成功しません。すぐに結果が出なかったり、長い目で見ることが必要になることもあります。だからこそ有料放送はその特性上、地上波よりも長い目でスポーツを育てることができます」
有料放送がスポーツ中継でやれることはまだまだある。スポーツの価値や本質を突き詰めて考えてきた田中氏は、だれよりも「スポーツを愛すること」の重要性を感じている。
[PROFILE]
田中晃
株式会社WOWOW代表取締役社長
1954年生まれ、長野県出身。1979年日本テレビ入社。巨人戦や箱根駅伝などスポーツ中継に関わり、編成部長などを歴任。2005年スカイパーフェクト・コミュニケーションズ(現・スカパーJSAT)へ。Jリーグ全試合中継などを実現に導いた。2015年6月よりWOWOW代表取締役社長に就任。
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