アフリカの小国、ルワンダがアーセナルのユニホームスポンサーに

多額の放映権料を背景に「世界一豊かなリーグ」といわれる英・プレミアリーグは、その露出、広告効果を期待するスポンサーたちにとっても魅力的なリーグのようです。

今回、ルワンダ政府がアーセナルと結んだ契約では、ユニフォームの袖部分に「Visit Rwanda」のメッセージが入ります。では、アーセナルのユニフォームのメインスポンサー、いわゆる“胸スポンサー”は一体いくらなのでしょう? 『The Daily Mirror』紙によるとエミレーツ航空(航空会社)が、お馴染みの「Fly Emirates」をガナーズの胸に載せる契約金は単年で3000万ポンド(42億9800万円)とのこと。ちなみに、横浜ゴムがチェルシーに支払っているのはそれよりも多い4000万ポンド(57億3100万円)にも上ります。

(C)Getty Images

3年で43億円はルワンダにとっては高い

3年間で約43億円とされるスポンサーフィーは果たして適性なのか? 金額が多すぎて判断に困りますが、横浜DeNAベイスターズ前球団社長の池田純氏は、マーケティングの観点からルワンダ政府の“投資”に疑問符をつけます。

「まずルワンダという国にとって、43億円は決して安くないと思います。このスポンサー契約による効果、目的をどう見るかが大切だと思います」

コーヒー、お茶などの生産、農業が産業の中心であるルワンダは、民族対立から1990年代の内戦、大虐殺が起きた国として知られます。2000年から現在も大統領を務めるカガメ氏が経済の立て直しに着手、年率7%の経済成長率を続け、「アフリカの奇跡」と呼ばれる劇的な復興、成長を遂げています。
しかし、2015年頃から隣国ブルンジの情勢が悪化し、難民対策に頭を悩まされるなど、決して裕福とはいえない現状があります。1人あたりの国民総所得は、2016年の統計で700ドル、財政難を海外からの援助で賄っていることなどを考え合わせると、今回の契約に「なぜ?」と首をかしげる人が多いのもうなずけます。
ルワンダを積極的に援助しているオランダ議会から、「多額の援助をもらっている国がこうした投資を行った経緯を調査すべき」との声が挙がったことが報じられていますが、実は日本もルワンダに援助をする国のひとつ。外務省のホームページによると2013年の援助額は、イギリス、アメリカに次いで3位の4986万ドル(約54億円)と4958万ドルのオランダよりも多いのです。

ルワンダのカガメ大統領/(C)Getty Images

マーケティング目線で見れば金額以上に「効果が出そうにない」ことが問題

「ルワンダの内戦は『ルワンダの涙』、『ホテル・ルワンダ』などの映画作品として描かれ、民族紛争のショッキングな内容が話題になりました。ルワンダについては私もニュースと映画でその存在を知っていた程度なのですが、同じようにルワンダに対して明確なイメージを持っている人は少ないのではないでしょうか」

池田氏は、ルワンダの経済的な状況と投資金額が見合っているかという点のほかに、マーケティング手法として適切かという疑問を呈します。

「政府は観光収入を増やすためと説明しているようですが、そこには明確な『メッセージ』がありません。ルワンダの観光名所、例えばいま流行の絶景ポイントがあればそれをアピールすればいいのかもしれませんが、経済が上向きになってきたというニュースはあっても、旅行に行くべき国だという情報、イメージはまだ流通していません。もちろん見るべき名所はあるのでしょうが、ただ『Visit Rwanda』と広告を打ったところで行きたいと思う人がいるかどうか」

池田氏は、アーセナルのユニフォームの一角という“一等地“に広告を出しても、メッセージ性がなければ効果は限定的で、実際の旅行産業や観光収入にはつながらないのではと指摘します。

「広告、マーケティングをずっとやってきた立場から言わせてもらえば、広告効果を高める手法として『媒体×メッセージ』を考える必要があります。アーセナルのユニフォームという素晴らしい『媒体』に広告を出せる。だけど、『なぜルワンダに行くんだ?』『何が魅力なんだ?』という『メッセージ』がないと世の中に伝わっていきません。ルワンダを訪れるべきストーリーをつくってからでないと高い広告効果は望めません。今回の袖ユニフォームへの広告は時期尚早ではないかと思います」

(C)Getty Images

サッカークラブのユニフォームという最高の“媒体”を活かすために

アーセナルのユニフォームのスポンサーにルワンダという国がついたというニュースは話題になりますが、行ってみたくなる仕掛けなしに「Visit Rwanda」と呼びかけたところで実際の行動にまではつながらない。池田氏は、43億円の投資を回収するための展望があるかどうかが重要だと言います。

「昨年、楽天がFCバルセロナと4年間で約257億円、単年で約64億円のスポンサー契約を結びましたが、楽天の場合はメッセージが明快でした。『楽天』という名前を世界に広める、バルセロナを通じて世界中でブランド認知を上げる。その目的を達成できるのであれば、1年で64億円という金額は、私は安いと思います。全世界に数十億人いるといわれるサッカーファンが楽天を知ることになるわけですから、その効果は計り知れませんよね。日本の大企業はテレビCMに年間100億円以上使っているところも少なくありません。それを考えれば、世界に向けて発信ができるわけですから、64億円は安いですよ」

サッカーのビッククラブのユニフォームは、大きな広告価値を持つ“媒体”であることは間違いありません。そこにストーリー、メッセージの中身があれば、ルワンダの投資の意義とその投資対効果も変わってきます。

「ストーリーをしっかりつくりこんでいくことができれば、スポーツをスポンサードする効果は非常に大きくなります。スポンサードする効果、価値をフルに得るために必要なのは、ロゴを『出して終わり』ではなく、スポーツの力を使って何を伝えたいのか、そのメッセージを明確にすることです。『媒体×メッセージ』の『メッセージ』の部分、その中身があれば世の中に伝わっていきますし、効果は大きいと考えられます」

これまでもアゼルバイジャンがスペインのアトレティコ・マドリーの胸スポンサー契約を果たしたり、チャド、マルタ共和国がシェフィールド・ユナイテッドの胸に「Visit Malta」と入れた前例がありますが、いずれも、「国がスポンサーになった」というインパクト以上の効果が出せたかというと難しいところがあります。ルワンダのカガメ大統領がアーセナルファンということも関係しているといわれる今回のスポンサー契約、ルワンダが投資に見合うリターンを得るためには、マーケティング目線でのメッセージの吟味とストーリーづくりが必要なようです。

<了>

取材協力:文化放送

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