過去には遠藤保仁、中村俊輔の「FKの壁」募集も

「面白いですよね、この企画」
横浜DeNAベイスターズ前球団社長、池田純氏は、アルバイト求人情報サービスの試みをこう評価します。

「日本は今、ワールドカップブームの最中、大迫選手と乾選手という“時の人”をうまく活用していますよね。アルバイト情報誌は一時ほどの勢いがなくなってきているんですが、ここで老舗ともいえる『an』がこういうユニークな取り組みを行うというのが面白いですよね」

現在はWeb媒体でのみ展開しているリクルートの『FromA』と『an』が人気を二分していた時代から、『タウンワーク』や『indeed』などがテレビでのCM攻勢を仕掛け、ラジオCMでは『マイベストジョブ』が幅を利かせるなど、アルバイト求人情報サービスは戦国時代を迎えています。

そんな中、池田氏は、スポーツの仕事が人気を集めていると言います。

「今回のディフェンダーのアルバイト募集は、実はアシックスの企業広告でもあるんですよね。アルバイト情報をメディア、媒体として、コミュニケーションにも活用するという、ある種の新しい手法だといえるでしょう。その後の口コミ、SNSやネットでの広がりの軸をつくるコミュニケーション手法ですね」

過去にも遠藤保仁選手や中村俊輔選手のフリーキックの壁になるアルバイト募集を企画したのも『an』でした。

『an』では2016年に日給3万円とサイン入りスパイクのプレゼント、さらにシュート1本阻止につき、壁全員に500円のインセンティブを支給という条件で遠藤選手の蹴る“フリーキックの壁”バイトを募集、2017年には第2弾としてこちらもフリーキックの名手、中村選手でも同様の企画を行っています。

『an』では、超バイトというコーナーを設けて、さまざまな企業やアスリート、有名人とコラボをしています。超バイトには今回の大迫選手、乾選手のドリブル阻止の他にも、Jリーグ、セレッソ大阪のファン感謝イベントでPK対決をする1日限定入団GK募集や、埼玉西武ライオンズの本拠地、メットライフドームでのウグイス嬢、東北楽天ゴールデンイーグルスや福岡ソフトバンクホークスでの1球5万円の始球式バイト、アーティスト大森靖子さんに密着取材するインタビューアルバイトなど、応募者の“体験”をウリにした話題のアルバイトをたくさん紹介しています。

2on2に注目 ミニ競技に集まる熱視線

「こうしたユニークなネタは、ネット上でものすごく拡散されています。アルバイトを探している若者層がSNSを活用して話題にしてくれるので、アルバイトを提供する企業にもメリットがあります」

大迫選手、乾選手の「ドリブル阻止バイト」の詳細をご紹介すると、アシックスのスパイクシューズ、DS LIGHT X-FLYの新色発売を記念して行われる2on2(2対2)のサッカーイベントに合わせ、このシューズを着用してW杯を戦う大迫、乾両選手と対決するディフェンダーを募集するというものです。
日給は5万円、勝利した場合にはインセンティブとして1万円。日本全国どこからでも交通費は全額支給で、応募資格は、経験、年齢、性別など一切不問とのことです。

「こうした話題をつくることはアシックスという企業にとってのメリットだけではなくて、サッカーの普及や認知にもつながるはずです。今の状況を見てもわかるように、日本代表が初出場を果たした20年前から今に至るまでの間に、『ワールドカップを見る習慣』はついてきていると感じています。渋谷を見ても4年に一度、ワールドカップを見て大騒ぎをするというのが習慣化されつつありますよね。でも、ワールドカップが終わった後、Jリーグなどで『サッカーを見る習慣』が、ファンを超えて日本国民に、ましてや若い世代に、できているとはいえないと思います。
 こうした現状がある中で、アシックスが自分たちのビジネスとしての意図を追求するために、アルバイト情報という新たな媒体を使いながら話題にしていき、同時に、『Jリーグを見る習慣』を定着化させていく、ワールドカップのブームを国内リーグの人気につなげていくための、一つの良いヒントなのではないかと思います」

4年に一度のから騒ぎではなく、サッカーを根付かせるために。池田氏は「ドリブル阻止バイト」の舞台となる2on2にも、日本にサッカーを見る習慣を根付かせる可能性が秘められていると言います。

「大迫選手、乾選手がアルバイト募集の人たちと対決する中でものすごいプレーが飛び出せば、それをYouTubeなどの動画配信サイトで視聴した若者を中心に大きな話題となるでしょう。それをきっかけとして、ストリートで行う2on2文化のようなものが定着していくことにつながっていく可能性は十分にあると思います」

池田氏の指摘通り、世界のスポーツシーンに目を向けると、競技のミニマム化が一つのトレンドになっています。
東京2020オリンピックで競技として採用されるバスケットボールの3x3をはじめ、7人制ラグビーのセブンズ、ゴルフではヨーロッパツアーが6ホール制の団体戦を行ったり、テニスでも全豪オープンの主催者が1セット4ゲーム先取の新大会を行うなど、スピーディーで場所を選ばないミニ競技が増えています。

ワールドカップの熱を国内サッカーの人気につなげるために

「今後、Jリーグで11対11のサッカーだけを展開していても、ここからさらに加速度的な人気を、特に若い年代層でサッカーに興味・関心のない層から人気を獲得するのは難しいフェーズに入っているように感じます。さまざまなことにチャレンジしていくことを考えなければいけないでしょう。バスケの3x3はアメリカに続いて日本でもプロリーグが始まります。サッカーにおいても、2on2の大会をネット中継することで、2on2ならではのプレーや選手など、子どもたちがサッカーに触れる新たな機会、“接点”を創出することができますし、それがひいては普段からサッカーを見る習慣へとつながっていく可能性は十分に考えられます。ネット世代ですからね」

既存競技のミニ化が進む理由の一つに、スマホサイズの中継が可能というメリットを挙げる専門家もおり。人数を減らしたり、スペースを狭めたりするミニ競技は、特に若者への親和性が高いといわれています。

「どうやったら日本でサッカーへの関心が高まり発展していくかを考える時に、イニエスタ選手のような世界的な名選手を獲得するといった王道の手法もありますが、今回のアシックスと『an』の取り組みのようなやり方もある。自由な発想でアイデアを出すことができれば、まだまだ日本のスポーツ界は発展していくと考えています」

ワールドカップの熱を、Jリーグをはじめとする国内サッカー、サッカーという競技そのものへの興味・関心へと昇華し、協賛する企業側にもメリットがある。今回の大迫選手、乾選手の「ドリブル阻止バイト」求人とその舞台となる2on2の大会は、広告とサッカー文化の促進、スポーツの発展に寄与する、時流をとらえた「ハンパない」試みといえるでしょう。

<了>

取材協力:文化放送

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文化放送「The News Masters TOKYO」(月~金 AM7:00~9:00)
毎週木曜日レギュラー出演:池田純
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VictorySportsNews編集部