【前編はこちら】プレミアリーグは1兆円時代! スポーツ放映権が高騰する仕組みとは?

ドラマや映画など、あらゆるコンテンツがオンデマンドで見られる時代が到来し、スポーツの視聴環境にも変化が訪れています。地上波各局のスポーツ中継が減少し、一方で黒船DAZNが多種多様なスポーツの権利を手中に収め、今年の4月には契約件数100万件を突破したというニュースが話題になりました。これからのスポーツ中継、放映権ビジネスはどうなっていくのでしょうか?

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高騰を続けるスポーツ放映権料の未来は?

(C)Getty Images

スポーツコンテンツが入札合戦になっている理由の一つは生中継、ライブ配信の需要にある。それにしてもほぼ青天井で上がっていくように見えるスポーツライツ、放映権は、このまま上昇し続けるのだろうか? それともどこかでバブルが弾けるのか?

結論からいえば、適性とはいえなくても「下がることはない」というのが現実だろう。

現在世界中で放映権を買っているプレーヤーは、放送局、代理店、OTT事業者が主だが、競争が激化し、どんどん値段が上がっている。
3年で約1兆円という法外な値付けで“世界一高いリーグ”になった英プレミアリーグの放映権は、過当競争のモデルケースともいえる。プレミアリーグの場合は完全入札制で、入札額に10%の差がついた時点で落札になる。つまり10%の差がつくまで金額は上がり続けるから、応札者が降りなければ青天井に上がっていくわけだ。

上がるだけで下がることはない状況は素人目には危険な気もする。DAZNとJリーグの契約でもその費用対効果を疑問視する声はあったが、放送局にしても、OTT事業者にしても、これだけの金額を払ってペイできるのだろうか?

例えば、タイにおけるプレミアリーグの放映権は、新興のCTH(ケーブルタイホールディング)が約100億円で競り落としている。シンガポールではモバイル事業者が70億円程度で買っている。タイでのプレミアリーグの人気はすさまじいが、それでも契約数ベースで100億円をペイするとは考えづらい。人口300万人のシンガポールではなおさら無理な話だ。これらはすべて販促費、プロモーションとしてのフィーと捉えられている。

CTHに限っては、タイ国内でJリーグの放映権を取得しているTrueグループとの覇権争いという側面もある。今回の契約では、タイに加え、カンボジア、ラオスでの放映権もCTHが保持している。超優良コンテンツであるプレミアリーグを手に入れ、それを武器にタイから東南アジアのメディア覇権を狙う足掛かりにと考えれば100億円も高くないというのがこうした企業の理屈だという。

日本企業でも、楽天がバルセロナの胸スポンサーを務めたり、約22億円を出してNBAゴールデンステイト・ウォリアーズとジャージー・パートナーシップを締結するなど、コンテンツビジネス、露出効果だけにとどまらないスポーツライツの活用が広がっている。

「ペイする」という定義、ROI(Return On Investment:投資利益率)をどこに置くかという問題はあるが、少なくとも、契約視聴者の課金で得た収入ベースで考えれば事業単体での黒字化は難しい。しかし、多くの事業者は、そこで利益を得ようとしているのではなく、プロモーション費として考えている。そのため、どんどん金額が上がっているのだ。

こうした考え方の延長線上で見ると、次に来るのは明らかに異業種の巨大企業となる。クリケットのインディアン・プレミア・リーグ(IPL)が、1634億7500万ルピー(約2795億円)という莫大な金額で落札されたことが話題になったが、この入札にはあのFacebookも参加していた。米AmazonもスポーツをAmazonプライムの目玉に据えようとライツを買っている。こうしたニュープレーヤー参入の波は止まらないだろう。

FacebookやAmazonはそもそも視聴者に課金するというビジネスモデルではなく、全体売り上げを考えれば、100億円単位は「どうでもいい話」ともいえる。そのため、放映権獲得、スポーツ中継事業はコストセンターでも問題ないのだ。スポーツの放映権はこれからも下がる見込みがなく、ペイするかしないかは考え方次第という状況がこれからも続くのは間違いないだろう。

大転換期になる2020年に向けた動向に要注目

(C)Getty Images

DAZNがサービスインした2017年はOTT元年といわれたが、日本における爆発的な普及と浸透、定着にはまだ障壁がある。大きな障壁の一つが、通信環境だ。アナログ回線からISDN、ADSLを経て、光回線が急速に普及し、かつてのネットインフラ後進国から脱してブロードバンドが標準になった日本だが、スマホの普及によって、モバイル機器の帯域不足が慢性化している。現行の通信規格、4Gではどうしてもトラフィックの混雑による遅延が出てしまい、クレームにつながるリスクがある。

プロモーション、ブランディングとしてやっているのに、クレームが増え、ブランドの毀損になってしまっては意味が無い。DAZNのサービス開始時にも問題になったが、テクノロジーの改善がなければ、完全ワイヤレス、Wi-Fiに頼らない配信は実現しない。

「OTT2.0」の到来、そのきっかけとして期待されているのが、2020年に予定されている5Gの到来だ。AmazonやFacebook、まだ見ぬ異業種の巨人たちは、このインフラ革命を勝機と考え、虎視眈々と準備を進めているともいわれている。

ビジネスとしての規模が大きくなり、金額が上がることはスポーツにとってはプラス要因。では、スポーツ中継、放映権ビジネスの未来は明るいのか? 

こと日本に限った話をすれば、「スポーツに対してお金を払う人が極端に少ない」という問題が顕在化している。

スポーツ庁と経産省からなる「スポーツ未来開拓会議」ではスポーツ産業の国内市場規模を2020年までに10兆円、2025年には15兆円規模に拡大させる方針を示しているが、その具体的な道筋は判然としない。

あるOTT事業者は、日本のスポーツ市場は500万人の市場で、将来的には1000万人規模になると見込んでいるというが、これも希望的観測で、「見込み違いでは?」という異論も少なくない。日本では「スポーツを見る」ことと「スポーツをする」ことが別のこととして認識され、「見る人」がコンテンツビジネスを支えている印象があるが、欧米ではスポーツをする人たちがスポーツに関心を高く持ち、見るだけでなくお金を落としているという現状がある。

IHRSA『GLOBAL REPORT』などによると、日本のフィットネス参加率はわずか3%。アメリカ、イギリスともに15%近いことを考えると、欧米の肥満の問題を差し引いても日本のスポーツは“見る”から“する”へのリンクが途切れてしまっているといわざるを得ない。

実は“するスポーツ”の競技人口やフィットネスの意欲は、スポーツライツの価値向上にも関係がある。欧米ではスポンサーのROIが高い種目に、ゴルフとテニス、ヨットが挙げられる。これらのスポーツはいずれも商談や接待につながるという考えがあるからだという。欧米企業の接待に関する規制は日本の比ではないほど厳しいが、ヨットレースやゴルフのメジャートーナメント、テニスのATPツアーに顧客や商談相手を招待することで取引接点を持つというのが一般化している。ゴルフやテニスは共にプレーすることもできるので、そこで商談もできる。こうした需要がスポンサーメリットにつながっているという。

トランプ大統領と安倍晋三首相ではないが、ゴルフコースを回ることで二人だけの時間を持ち、親交を深める。テニスやスカッシュはダブルスができる利点を活かして、お互いのパートナーを呼んで家族ぐるみの親交を深めるなど、ゲストを呼ぶ口実にもなるのだ。フィットネス参加率の高い欧米では、スポーツとビジネスの距離が近く、そのことが日本にはないスポーツの価値を生んでいる。

スポーツとビジネスが遠い日本では、OTTの普及でデリバリーが発展して、視聴環境が良くなっても、スポーツの消費時間に直結するとは考えづらい。
日本にもスポーツビジネスが必要だという空気はあるが、スポーツが事業化していくためには、もっとスポーツが身近な“自分事”になっていく必要があるのではないだろうか。

スポーツコンテンツがそのまま黒字事業になる道はかなり険しそうだが、事業者にとってのコストセンターのまま終わるのか、それとも新たな可能性を見いだせるのかは、視聴者のあり方にも関係がありそうだ。

OTT事業者の隆盛によって選択肢が大きく広がったスポーツ中継。奇しくも5G時代の幕開けとなる2020年は、国民がスポーツについてもう一度考え直すきっかけとなるか? 東京2020オリンピックまでの各事業者の動向、施策をこういう視点で見てみるのも面白いかもしれない。

<了>

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大塚一樹

著者プロフィール 大塚一樹

1977年新潟県長岡市生まれ。作家・スポーツライターの小林信也氏に師事。独立後はスポーツを中心にジャンルにとらわれない執筆活動を展開している。 著書に『一流プロ5人が特別に教えてくれた サッカー鑑識力』(ソルメディア)、『最新 サッカー用語大辞典』(マイナビ)、構成に『松岡修造さんと考えてみた テニスへの本気』『なぜ全日本女子バレーは世界と互角に戦えるのか』(ともに東邦出版)『スポーツメンタルコーチに学ぶ! 子どものやる気を引き出す7つのしつもん』(旬報社)など多数。