イニエスタ効果でチケット完売続出の神戸

今夏のJ1移籍市場は例年になく活況だった。ロシア・ワールドカップ開催に伴って2カ月ほどの中断期間があり、チームに修正を加える時間が比較的長く取れたことが大きく影響したと考えられる。それぞれの目標を達成するため、あるいは苦境から抜け出すために大量補強を敢行したクラブもあれば、誰もが驚くビッグネームを迎え入れたクラブもある。また、今年はJ2クラブからJ1クラブへ“個人昇格”を果たし、すぐに戦力となって活躍するケースも目立つ。

大型補強をしたクラブの代表格は名古屋グランパスだろう。開幕前にも大補強を実施したが、前半戦はまさかの低迷。そこで中断期間中に金井貢史(←横浜F・マリノス)、丸山祐市(←FC東京)、中谷進之介(←柏レイソル)、エドゥアルド・ネット(←川崎フロンターレ)とJ1クラブの主力級の選手を次々に獲得して主力に据えると、前半戦の不振が嘘のように復調。J2松本山雅から獲得した前田直輝、JFA・Jリーグ特別指定選手として合流した相馬勇紀(早稲田大学)も好パフォーマンスを見せ、快進撃を支えている。

ヴィッセル神戸とサガン鳥栖は、大型補強を敢行し、なおかつビッグネームを加えて話題を呼んだ。神戸はバルセロナからアンドレス・イニエスタ、鳥栖はアトレティコ・マドリーからフェルナンド・トーレスと、いずれもスペイン代表の主力級だった選手を迎え入れることに成功し、世界中に衝撃を与えた。最近はピークを過ぎた選手が中東や中国、MLSに移籍して“最後のひと稼ぎ”をするのが主流となっており、大物プレーヤーはなかなかJリーグに目を向けてくれなかった。それだけに、2010年南アフリカW杯の優勝メンバーである二人の加入は、日本のサッカーファンを大いに喜ばせた。神戸にとっては、昨年夏に加入した元ドイツ代表のルーカス・ポドルスキ(彼は2014年ブラジルW杯の優勝メンバーだ)に続く2年連続のビッグネーム獲得。イニエスタとポドルスキがそろう陣容のインパクトは計り知れず、神戸の試合はチケット完売が続出している。第21節のジュビロ磐田戦では、ポドルスキのラストパスを反転しながら受けたイニエスタが、最後はGKもかわしてゴールを決めるというシーンを披露し、改めてワールドクラスの能力を見せつけた。

神戸はイニエスタだけでなく、現役カタール代表DFのアフメド・ヤセル、ガンバ大阪の長身FW長沢駿、J2から古橋亨梧(←FC岐阜)と大﨑玲央(←徳島ヴォルティス)と、合計5人を補強。いずれも加入後すぐに出場機会を得ており、チームスタイルに合った効果的な補強だったことがうかがえる。一方で余剰気味だった9人を放出しており、陣容のスリム化を図りながら、充実化にも成功したと言える。

金崎とトーレスの豪華2トップでJ1残留を目指す鳥栖

鳥栖に加入したトーレスはしばらくチームの戦術とかみ合わずにノーゴールが続いていたが、8月22日の天皇杯、神戸戦で来日初ゴールを決めると、同26日のJ1第24節G大阪戦では公式戦2試合連発となるリーグ戦初ゴールを記録。周囲とのコンビネーションも徐々に確立されており、今後のさらなる爆発に期待が持てる。この“周囲”の中には、鹿島アントラーズから電撃加入した金崎夢生も含まれる。「新しいチャレンジがしたかった」と移籍理由を語った元日本代表ストライカーは、トーレスとの2トップで躍動。チームを降格圏から脱出させるべく必死の戦いを続けている。他にもクラブの象徴的存在だった豊田陽平(←蔚山現代)の復帰や、レバノン代表歴を持つジョアン・オマリの期限付き移籍などでチーム力を高めている。トーレスという大物を手に入れたからには、何としてもJ1残留を達成させなければならない。

一方で、第25節終了時点で暫定4位の北海道コンサドーレ札幌は補強ゼロ、首位に立つサンフレッチェ広島はベサルト・ベリーシャ、暫定2位の川崎FはE・ネットの代役としてカイオ・セザール(←トンベンセ)1人を獲得しただけ、暫定3位のFC東京は丹羽大輝(←広島)、リンス(←ヴァンフォーレ甲府)の2人だけと、上位陣は移籍市場で目立った動きを見せなかった。それだけチームの現状に手ごたえを感じているということなのだろう。下位にあえぐG大阪も渡邉千真(←神戸)、小野瀬康介(←レノファ山口)の2人だけだったが、こちらは「狙い通りの補強ができなかった」印象のほうが強い。かつてのエースである宇佐美貴史(デュッセルドルフ)の復帰、あるいはライバルであるセレッソ大阪のエースナンバー8番、柿谷曜一朗の“禁断の移籍”を画策したものの実現せず、上述した2人の補強にとどまった印象だ。渡邉はG大阪でのデビュー戦となった第23節ベガルタ仙台戦で移籍後初ゴールを挙げ、小野瀬も移籍以降5試合に出場と奮闘を見せているが、宇佐美や柿谷の移籍が実現した場合のインパクトを想像すると、物足りなさは否めない。

そして、ここまでに名前を挙げた前田(名古屋)、古橋、大﨑(ともに神戸)、小野瀬(G大阪)は、J2クラブからJ1クラブへと移籍し、新天地でもそれぞれの持ち味を発揮している選手たちだ。前田は元ブラジル代表FWジョーと、古橋と大﨑はポドルスキ&イニエスタと一緒にプレーするという、つい数カ月前には彼ら自身、想像できなかっただろう環境に身を置くことになったが、すぐさま新天地に順応し臆することなくプレーしている。特に前田はジョーと抜群のコンビネーションを見せており、ジョーが中断明け以降にゴール量産体制に入っているのは、前田という良きパートナーを得たことと無関係ではない。

今夏のトレンドとなったJ2からJ1への個人昇格

彼ら以外にも、“アジアの大砲”こと高木琢也監督(V・ファーレン長崎)の息子で、ジェフユナイテッド市原・千葉から柏に移籍した高木利弥、東京ヴェルディから横浜FMに移籍した畠中槙之輔、徳島から湘南ベルマーレに移籍し、2試合連続ゴールを決めた山﨑凌吾など、個人で上のカテゴリーにステップアップし、J2時代と変わらぬ活躍を見せている選手が大勢いる。

どの選手にも共通しているのは、J2時代にチームの絶対的な中核だったことと、彼らを獲得したクラブが、そのプレースタイルと自分たちの戦術を照らし合わせ、確かな戦力になると判断して補強に動いている点だ。古橋は前半戦だけで11ゴール、小野瀬も10ゴールを挙げるなど、J2でトップクラスの得点力を示していたが、だからと言ってJ1ですぐに活躍できる保証などどこにもない。補強したJ1クラブの側に、ネームバリューや数字だけにとらわれない確かな眼力が備わっていたこと。移籍した選手の側にも、新天地ですぐに輝ける適応力と高い実力が備わっていたこと。その相乗効果が“個人昇格”の成功を呼び込んだと言えるだろう。

以上のことを踏まえると、一見して大金を使って選手をかき集めているように見える名古屋や神戸が、実は効果的な補強に成功したと言えるのではないだろうか。とはいえ、最終的な成否が出るのはシーズン終了後になる。両クラブの補強が結実するかもしれないし、全く動かなかった広島や札幌が正解だった、という結末になるかもしれない。「2018シーズン夏の補強戦略は大成功だった」と言えるクラブは、果たしてどこになるのだろうか。

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池田敏明

大学院でインカ帝国史を専攻していたが、”師匠” の敷いたレールに果てしない魅力を感じ転身。専門誌で編集を務めた後にフリーランスとなり、ライター、エディター、スベイ ン語の通訳&翻訳家、カメラマンと幅広くこなす。