【前編はこちら】26年目を迎えたJリーグに求められる“バージョンアップ”とは? FIFAコンサルタントと考える日本サッカーの未来

1993年、企業スポーツしかなかった日本で、華々しく開幕したJリーグ。あれから26年が経ち、38都道府県53チームにまで広がりを見せるなど、着実に成長を果たしてきました。ですが同時に、Jリーグは国際競争の渦に巻き込まれ、相対的にその価値が下がってきているのもまた事実です。日本サッカー、Jリーグはどこに向かうべきなのか? 今回は、FIFAコンサルタントとして、協会・リーグ・クラブの制度設計や戦略立案・業務改革の分野において世界中に活躍の場を広げている杉原海太氏と一緒に、日本サッカーの未来を考えます。(インタビュー:大島和人、VictorySportsNews編集部 / 構成:大島和人)

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Jリーグが「社会課題を解決する」核になる

――規制の撤廃や緩和で経営者の創造性を発揮する、新しい資本を呼び込む仕組みに変えなければいけないですね。

杉原 「地域密着を捨てるのか」というと、全くそうではないです。2部にいて、たまに上がるクラブにも当然ながら大きな価値はもちろんある。十何億円くらいの年間予算でやって、選手が上を目指すショーケースになるクラブがあってもいい。
 一方でガツガツと、海外展開にも意欲的で、サッカーとビジネスでシナジーも出せる。そんな新しいタイプの経営者がいていいと思うんです。
 地域に根差したスモールクラブも、企業が本気になって結果としてダイナミズムをもたらすクラブも、多様な経営モデルがどんどん出てくることで、Jリーグはさらなる高みを目指せるのかもしれません。

――Jリーグはパブリックなものだと思いますし、社会課題の解決も大切な使命です。次の経営モデルについて、お考えですか?

杉原 結論を言うと僕もまだ模索している状態で、答えはないですけど……。
 現状のスポーツ界のビジネスモデルは、僕は「ロス五輪モデル」とずっと言っていますが、要はスポーツの広告宣伝価値を売るモデルです。それは欧米のスポーツを中心に大成功したし、日本の場合は地上波放送が広告モデルで動いているので、そこも強かったと思うんです。
 Jリーグ創設当時の地域密着という発想は、当時は画期的だったと思うんですよ。今は社会企業とか、ソーシャルビジネスとか、それっぽい言葉がいろいろありますけれど、Jリーグはその走りかもしれませんね。サッカークラブが無い地方都市に、地域貢献ということで地元企業にお金を出していただき、テレビの地方局と新聞にもサポートしてもらって、ビジネスとして成立させました。そこに30億円ぐらいの予算をつくるという仕組みは、画期的だったと思います。
 少しもったいなく思うのは、クラブの在り方が「地域密着」というワンイシューのイメージで定着しすぎたことかもしれません。
 ただし、それをもっとさまざまな社会課題に広げていければ、このフレームは結構いいものです。どんな話もだいたい地方創生に関わってきますが、Jクラブはもう少し明確にそこを意識すれば、地域の人口減少・社会課題を解決する核になれます。自治体とクラブの二者だけでなく企業が絡んで、ビジネス的なメリットを感じさせるようになれば理想です。

スポーツが持つ「コミュニティ機能」をもっと活用するべき

――「健康」を産業化している会社といえば、湘南ベルマーレの筆頭株主となったライザップのようなスポーツジムや、タニタのような測定器メーカーが思い浮かびます。単純にそういう企業と連携する方法はありますね。

杉原 私は日本にいる時は家で仕事をするので、平日の昼間にジムへ行ったりします。今の時代は運動をしようとするとジョギング・ウォーキングか、ジムかの二択になるところがありますね。
 僕が入っているジムは地域に密着していて、平日の午前中に行くとおじいちゃんおばあちゃんが緩い運動をしています。スタジオみたいなところで軽めのエクササイズができて、シニア層が立ち寄るような、うまくコミュニティ化する場をつくっている。「井戸端会議」のイメージです。
 午後はプールがあるので「お母さんと子ども」のセットで、夜は社会人が来る。健康とコミュニティが結びついているんです。

――ただしそういうカルチャー、コミュニティにはまだ広がりがありません。

杉原 なぜ日本の「するスポーツ」が圧倒的にジムとウォーキング、ジョギングに流れているかというと、場が無いからです。それを企業が解決してくれたらうれしい話です。
 例えばフットサルはサッカーより手軽にできるし、街中でもできるので、「するスポーツ」としてサッカーより優れています。僕みたいに部活をやっていなかった人から見ても敷居が低いし、女性も入れる。あと今は「個人フットサル」という文化があって、あれは素晴らしいコミュニティ機能です。フットサルは、こういったサッカーとは一味違ういろんな価値を活用したらもっともっと広がる気がします。

――「高齢者のコミュニティづくり」でいうと、実は「ジャパネット高田」がそれに近いビジネスモデルなのかなと思います。テレビや電話でつながりをつくり、丁寧にコミュニケーションを取って、しっかり価値を乗せて販売していますね。

杉原 「するスポーツ」には健康、幸福感、つながりがあります。プロスポーツにも発信力だけでなく「つながり」をつくるコミュニティ機能がある。新しいタイプのIT企業は実際にお金も持っているし、ITだからビジネス展開も必然的にグローバルになります。彼らのビジネスをさらに膨らませるとき、「健康」「幸福感」「つながり」の要素が必要になるかもしれません。スポーツに関わる企業は今までB to C企業が多く、消費財メーカーや小売業がその中心でした。これからはIT企業になっていくのかもしれません。

――Jリーグの集客を見ても、「コミュニティづくり」は共通するテーマですね。

杉原 「コミュニティデザイン」は分野として成立しているようですね。SNSのような形もありますけれど、横浜DeNAベイスターズは一番進んだ先行事例かなと思います。
 地域プロデューサーのようなイメージですが、それはスポーツと相性がいいはずなんです。川崎市が乗ってくれたという要因もありますけれど、サッカーだと川崎フロンターレがおそらく一番うまくやっていますよね。

――いろんなクラブがいろんな取り組みをすることで、ベストプラクティスも見つかっていくのかなと思います。

杉原 そう思います。

(C)Getty Images

「社会課題解決モデルを創造して輸出する未来」には大きな可能性がある

――企業もCSR(※企業の社会的責任/社会貢献)から「社会課題の解決」へ一歩踏み出す傾向が強まっています。課題を顕在化させて、サッカーが媒介となって、企業を取り込む仕組みづくりが考えられます。日本ブラインドサッカー協会は視覚障がい者と晴眼者と一緒にプレーする競技の特徴を生かして、ダイバーシティを推進したい企業と結びついた活動をしています。

杉原 その通りです。例えばラグビーは明らかにサッカーと違う価値、文化があるじゃないですか? 代表を見てもオセアニア出身の人が多くて、多様性もある。ノーサイドの文化もある。実はそれってものすごい特徴であり強みですよね。

――企業との関わりについては、どういうアイデアがありますか?

杉原 Jリーグはフロンターレが川崎市、ゼルビアなら町田市と、自治体で括られています。自分は新百合ヶ丘(川崎市)という小田急線の沿線に住んでいたんですけれど、川崎市は北から南に長い。だから等々力へ行くより、町田の方が親近感はあるんです。町田は交通の要所で「通る人」が多いんです。Jリーグモデルは「市」の概念に捉われていますが、鉄道を巻き込んで大和駅(大和市)、片瀬江ノ島駅(藤沢市)の方から来てもらっても良いと思うんです。

――地域密着が今は「自治体密着」になっていますね。「沿線密着」はアリだと思います。

杉原 それはもしかしたら、都市近郊でJリーグを活性化していく一つの切り口かなと思います。電鉄会社の目線から見ても、宅地造成だけではないポスト平成型の沿線価値の向上に、スポーツは打ってつけかもしれません。「健康」「人とのつながり」「教育」「国際性」といったスポーツの価値は、現代の沿線住民が求めるものとマッチするようにも思います。

――日本は高齢化など「社会課題先進国」です。社会課題をスポーツでどう解決するかというモデルを成熟させて、それを世界に展開する方向性はどうですか?

杉原 高齢化については遅かれ早かれ中国もそうなるし、東南アジアにもいつか来るでしょう。今の段階だとスポーツは「エンタメモデル」ですが、高齢者も楽しめるプロスポーツと「するスポーツ」の協業で健康寿命が延ばせて、しかもコミュニティ機能がある。そこにITなどのテクノロジーも関わっている――。そういうモデルを日本が世界に先駆けてつくって輸出できたら最高ですよね。
 ある企業は東南アジアで宅地造成をやっていて、日本でうまくいったデベロッパーの仕組みを輸出して、ハイエンドな街をつくろうとしていると聞いたことがあります。それだけだと昭和モデルですが、そこにスポーツを絡めてできたら、より価値を高められるかもしれない。デベロッパーでもIT企業でも、生きがいとテクノロジーとスポーツが絡み合う社会モデルを輸出する未来があれば最高です。できる可能性は大いにあると思います。

――あとはそれをやる人材でしょうか?

杉原 そういうスポーツの使い方があるという発信は、今までされませんでした。露出価値とか、スポーツの強化ばかりが注目されていましたね。新しい使い方にはビジネス企業、スポーツ、自治体の三者をつなげられるプロデューサー的なタイプの人材が必要です。
 ただ最近はスポーツ以外の文脈で、若い世代に「社会課題を解決する起業家」みたいな人材が増えています。その流れから本物が出てくるのではないかと思っています。広告とスポーツを結びつけるなんて話も、1984年のロサンゼルス五輪以前はほとんど無かったわけですよね。それと同じようなイノベーションが起こるのかなと期待しています。

<了>

(C)VictorySportsNews編集部

[PROFILE]
杉原海太(すぎはら・かいた)
デロイトトーマツコンサルティング等にて戦略、業務改革、ITコンサルティングに従事。2005年にFIFAマスター5期生として修了。2006年よりアジアサッカー連盟に従事し、2012年からはHead of Developmentとして各国リーグ・クラブ支援プログラムの立ち上げに尽力した。2014年からFIFAコンサルタントとして、協会・リーグ・クラブの制度設計、戦略立案・業務改革、およびITコンサルティングの分野において、世界の各地域に活躍の場を広げている。

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大島和人

著者プロフィール 大島和人

1976年に神奈川県で出生。育ちは埼玉で、東京都町田市在住。早稲田大在学中にテレビ局のリサーチャーとしてスポーツ報道の現場に足を踏み入れた。卒業後は損害保険会社、調査会社などの勤務を経たものの、2010年から再びスポーツの世界に戻ってライター活動を開始。バスケットボールやサッカー、野球、ラグビーなどの現場に足を運び、取材は年300試合を超える。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることが一生の夢で、球技ライターを自称している。