衝撃的なニュースが駆け巡ったのは、2月3日夜のことだった。中日は、今季から指揮を執る立浪和義新監督が新型コロナウイルス感染を調べるPCR検査で陽性判定を受けたと発表。12球団の1軍監督では初の感染で、無症状ながら最低7日間隔離されることとなった。西山秀二1軍バッテリーコーチも陽性と判定され、毎日ミーティングを行っていた1軍首脳陣は球団独自の判断で宿舎ホテルの自室待機に。新体制でスタートした矢先、5日からの第2クールを1軍の首脳陣全員が不在という異例の状況で臨むこととなった。
西武では赤田将吾2軍外野守備走塁コーチの感染が明らかになり、高知市で行われている2軍主体のB班キャンプの練習が1日中止となった。昨季の日本一チーム、ヤクルトではキャンプイン直前に高津臣吾監督が近親者の陽性判定により合流を自粛。2度のPCR検査陰性を経て、2日遅れでキャンプ地の沖縄・浦添に入り「例年とは違うキャンプインになったので、何となく違和感がある」と率直な心境を吐露した。
選手の調整にも影響が出ている。キャンプ前にはソフトバンクの柳田悠岐外野手、松田宣浩内野手が自主トレーニング中に感染。福岡・筑後市のファーム施設での始動となった。ヤクルト・村上宗隆内野手は昨年に続く2度目の感染で出遅れ。5日に宮崎・西都市での2軍キャンプに合流したものの、高津監督は早期の1軍昇格に慎重な姿勢を示している。他にも、新人だった昨季大活躍を見せたDeNA・牧秀悟内野手、西武の守護神・平良海馬投手、日本ハム・吉田輝星投手らが直前に陽性となるなど、多くの選手が出遅れを強いられた。
昨春のキャンプでは現地検査で一人の陽性者も出なかったが、今年はキャンプ開始後にも感染者が相次いだ。ヤクルトのスコット・マクガフ投手、阪神・糸原健斗内野手、巨人・戸根千明投手、ロッテ・中村稔弥投手ら連日のように陽性判定や感染で隔離療養となる選手が出ており、予断を許さない状況が続いている。
NPBではキャンプ開始前にガイドラインを改定。PCRなどのスクリーニング検査の週2回実施を義務付け、陽性者が出た場合は幅広かつ独自に濃厚接触疑い者を割り出し隔離することを決めた。変異株「オミクロン株」の感染力の高さから、このような体制を取れば当然、感染者、濃厚接触疑い者が多くあぶりだされることにもなるが、検査を徹底することでチーム内でのクラスター発生を食い止めているともいえる。ただ、当該選手にとってシーズンに向けた重要な調整期間に数日でも室内に隔離されるのは痛手。DeNA・大和は隔離療養中に体重が5キロ減ったことを明かすなど、影響は想像以上に大きなものがあるようだ。
チームの生活様式も、かつてとは大きく変わった。ホテルの部屋はベテラン、若手かかわらず基本1人部屋。食事は2メートルほどの距離を空けることが推奨され、日本ハムではビュッフェ形式ながら各自が自室に持ち帰って1人で食べるよう通達されている。「他の選手と会う場所はグラウンドしかない」とは宮西尚生投手。ウオームアップやキャッチボール時にマスク着用が義務付けられるなど、練習中の風景にも変化が見られる。
それだけの“厳戒態勢”を敷くワケは
今キャンプではファンにも例外なく感染予防が求められている。巨人はイープラスと共同開発したアンドロイドアプリ「Go To GIANTS」を利用。氏名、連絡先、顔写真などを登録することで入場が可能になる仕組みを導入した。これはキャンプ後の東京ドームなどでのオープン戦でも使われる予定だ。DeNAもアプリ(RICCA=沖縄県新型コロナ対策パーソナルサポート)への事前の情報登録を求め、新庄剛志監督の就任で多くの来場者が見込まれた日本ハムやヤクルト、阪神は観覧を事前予約制としている。
サイン対応や握手などの交流は全球団が自粛し、チームとファンの導線が交わらないようゾーニングも徹底。“リアル”に代わるファンサービスとして、DeNAが試合観戦アプリ「ベイスターズプライムカメラ」を利用した配信を行うなど、ネットを活用する球団も目立つ。そうした入場への“ハードル”や観覧を自粛する県外からの来場者も多いようで、2月1日のキャンプ初日は前回有観客で行われた2020年と比較して観客は大幅減。2年前が土曜日、今年は火曜日と違いはあるもの、巨人は2万3000人から1000人、ソフトバンクが2万人から2900人、DeNAが1200人から300人と、NPBが定める上限の2万人どころか大きく数字を減らした。さらに、現地で取材する記者の感覚としては、公表された数字以上にスタンドなどに空席が目立つ印象を受けるのが正直なところだ。
メディアの取材体制にも大幅な制限が設けられている。沖縄、宮崎入りの際には72時間前までの陰性証明書の提出が取材希望者には義務付けられ、長期滞在する記者には1クール(3~5日)毎のPCR検査を要請。各社1人などの人数制限も課されている。選手らの取材時には、対面を禁止してオンラインでのみ可能とする球団も多い。かつてのキャンプでは松坂大輔、大谷翔平ら注目の選手が多くの記者を引き連れて移動する光景が恒例となっていたが、いわゆる“ぶら下がり取材”は当然厳禁。カメラマンにも撮影場所や人数の制限が厳しく課されており、スポーツ紙に掲載されている写真の撮影者欄をよく見てみると「球団提供」「代表撮影」といったキャプションが多いのも、そうしたことが背景にある。
それだけの“厳戒態勢”を敷くのも、NPBの井原敦事務局長が「今シーズン公式戦は100%のお客さんをお迎えするという方針。(キャンプの有観客開催が)まずはその第一歩」と話すように、この“有観客キャンプ”を乗り切れるかどうかが3月25日に開幕するシーズンの試金石となるからだ。NPBがシーズン公式戦の有観客開催に強い意志を示す背景には、過去2シーズンを無観客、入場制限下で開催してきた各球団の苦しい経営状況が一つにある。何より重要な“集客ビジネス”の復活がかかる中、各球団ともに必死になるのは当然だろう。
2年ぶりに観客を入れて実施されている今年のキャンプ。その動向に、各球団、そしてプロ野球の未来がかかっているといっても決して言い過ぎではない。