この事実は一体何を表しているのか。あるプロ野球球団の関係者は「スタジアムにファンが帰ってきたと言われますが、全然ですよ」と証言。コロナ禍前は即完売だった来場者プレゼントがあるような人気のイベント試合でも売れ残るチケットが出ることもあり、決して楽観視できないのが現状だという。

 プロ野球の観客動員(数字は8月16日時点)、1試合平均2万4008人(639試合で計1534万833人)と、まずまず盛況に見える。特にセ・リーグは1試合平均2万7736人と、コロナ禍の真っただ中で入場者数の制限があった2020年の6699人(セ7652人、パ5747人)、21年の9138人(セ1万567人、パ7710人)とは雲泥の差だ。ただ、過去最多(858試合で計2653万6962人)だった19年の3万929人(セ3万4655人、パ2万7203人)と比べると、確かに22.4%減と、まだまだ“完全復活”とは言い切れない。

 とはいえ、集まるところには過去最多を更新するほどのファンが集まっているのは先述の通り。7月18日に秩父宮ラグビー場で行われたPSGの公開練習には有料(大人4500円、小中高生2000円)だったにも関わらず、1万3370人が訪れた。一方、同19日に行われた東アジアE-1選手権・日本代表-香港(カシマ)の入場者数は4980人。多くのメディアが「日本代表人気の低下」としてセンセーショナルに報じた。

 要因には、曜日の違いや開催地の違いによる交通の便など複合的な要素がある。とはいえ、日本代表戦といえば、かつては開催すればそれこそ「即完売」していたプラチナチケット。昨年9月に行われたW杯最終予選・オマーン戦(パナスタ)の4853人こそわずかに上回ったが、これはあくまでコロナ禍による5000人の入場制限のもとでの開催だったことを考えれば、衝撃的な数字といえる。

 なぜ、これだけ明暗が分かれるのか。在京Jクラブの広報担当者は「仲間や友達と仕事帰りに観戦したり、飲食を楽しんだり、そうしたスポーツをライトに楽しむことが難しくなったのでは」と分析する。

 プロ野球では横浜DeNAベイスターズが、20~30代の「アクティブ・サラリーマン」をターゲットに、試合以外のイニング間イベントや飲食といった複合的なエンターテインメントを追求し、スタジアムのボールパーク化を推し進めた。その結果、閑古鳥が鳴いていた横浜スタジアムは日々満員となり、18年には球団史上初の年間動員200万人も達成した。広島東洋カープも米大リーグを思わせるマツダスタジアムの雰囲気づくりや趣向を凝らした飲食・グッズなどで「カープ女子」と言われた女性ファンが急増するなど、全国的に人気を拡大させた。いずれもDeNA・池田純球団社長や広島・松田元オーナーらカリスマ的な経営者のもとで実現してきたものだが、そうしたブームもコロナ禍を経て一段落。各球団はリアルだけに頼らないネットの世界を含めた新たな収入源を模索している。

スポーツをライブで楽しむ“層”の変化

 一方で、コロナ禍を経てなお健闘している球団もある。千葉ロッテマリーンズだ。今季の1試合平均の観客動員は2万428人。コロナ禍前の19年(2万3463人)からは減らしているものの、その減少率は12.9%にとどまる。読売ジャイアンツ(4万2643人→3万1452人)の26.2%、東京ヤクルトスワローズ(2万7543人→2万1497人)の22%、DeNA(3万1716人→2万4423人)の23%、埼玉西武ライオンズ(2万5299人→1万5981人)の36.8%など関東圏の球団と比較しても、高い“回復率”を見せている。この数字を牽引しているのが最速164キロを誇る右腕、佐々木朗希投手の存在だ。4月10日のオリックス戦(ZOZOマリン、2万2431人)で史上最年少での完全試合を達成すると、そのインパクトは大きく、続く同17日の日本ハム戦(同)では3万人収容の本拠地に2万9426人ものファンが集まり、満員御礼となった。ここまで佐々木が登板したホーム戦の1試合平均は2万3536人と19年の全試合平均より増えており、その存在の大きさが分かる。

 PSGやロッテの現状からうかがえるのは、スポーツをライブで楽しむ“層”の変化だ。アルゼンチン代表FWメッシ、ブラジル代表FWネイマール、フランス代表FWエムバペら豪華スターをそろえる“銀河系軍団”PSGは、その選手たちのプレーを日本で間近に見られるというコンテンツ力の高さ、非日常性で6万人ものファンを集めた。

 一方、国内組のみで臨み、対戦相手も格下、11月のW杯カタール大会との関連性も薄い東アジア選手権は、いかに日本代表戦といえども、かつてのように無条件で観衆は集まらなくなった。海外組を含むベストメンバーがそろった6月の強化試合も、2日のパラグアイ戦は4万2000人収容の札幌ドームに2万4511人しか入らなかったのに対して、6日後のブラジル戦(国立)は6万3638人のファンが集まった。三浦知良、中田英寿、中村俊輔、本田圭佑といった絶対的スターが牽引してきた日本代表人気はまさに今、過渡期。対戦相手や試合の価値が、シビアな目で見られているのは間違いない。

 コロナ禍の中でも足を運んでもらうには、競技としての魅力を高めること、非日常性を味わえる仕掛けが重要であるのは、こうした事実からも間違いないところ。米国・カナダ・メキシコが共催する26年W杯ではアジアからの本大会出場枠が4.5から8.5に拡大され、ヒリヒリするような戦いが激減することも予想される。日本サッカー協会は、かなりの危機感を持って対処しなければならない状況にある。

 DAZNなどで世界のスポーツが配信され、いつでも、どこでも手軽に見られるようになった今、イベントへの参加、観戦行動を呼び起こすには、よりシビアになったファン・消費者の目にかなうコンテンツとしての希少性、訴求力が求められる。逆に言えば、そうした要素が満たされていれば、日本のファンは、このコロナ禍においてもイベントに積極的に参加する意志を強く持っており、そうした機会を待っているともいえる。活況を呈したPSGのジャパンツアーには、そんな“コロナの時代”の集客ビジネスに求められる要素が詰まっていたといえるだろう。


VictorySportsNews編集部