徹底した日本対策を講じたベトナム、イラク

 日本はGL第1戦のベトナム戦でいきなり苦戦するまさかのスタートを切った。キックオフから勢いを持って日本に立ち向かってきたベトナムに対して守備がはまらず、前半はボールポゼッションで相手に上回られる想定外の展開。南野拓実のゴールで11分に先制したのも束の間、16分と33分にセットプレーから相次いで失点し、一時は1-2とビハインドを負った。

 日本はその後、南野と中村敬斗のゴールで前半のうちに3-2と逆転に成功し、終盤に上田綺世が追加点を決め、結果的には4-2の勝利を収めた。白星スタートを切ることには成功したが、02年日韓W杯で日本を指揮したフィリップ・トルシエ監督が率いるベトナムに教えられた部分は多かった。「日本に対して150%で挑む」(森保監督)チームが増えていることだ。ベトナムとは地力の差が大きかったから逆転できたが、もう少し力の差のない国だったら足元をすくわれかねなかった。

 この傾向は1-2で敗れたGL第2戦のイラク戦でさらに顕著に出た。イラクは日本に対し立ち上がりから圧力を掛けてきた。前線に高さのある選手を張らせてロングボールを放り込み、日本の守備ラインを押し下げた。

 一方で、日本が5バックのベトナムに苦しめられた後の試合だったことで、イラクも5バックで来るかもしれないという読みもあった中、彼らは自分たちの本来のシステムである4バックで日本に挑んできた。立ち上がりから気圧され、フィジカル面でも球際、空中戦とも相手に上回られた日本は、完全に力負けだった。

 このイラク戦で気になったのが、試合後の遠藤の言葉だ。

 遠藤は「イラクの選手はシンプルに蹴ってきた時もラフなボールに対しての予測力が高い。日本に欠けているところかなと思う。日本のクリアが相手に渡ることも多かった。ヨルダンもそう、イラクもそう。そこ(予測した落下点)に1人走っている。その嗅覚は日本人にもっと必要かもしれない」と指摘した。育成年代からボールを繋いで組織的に敵陣を崩していくサッカー文化の中で成長してきた日本の選手は、ロングボールが飛び交う戦いの経験数がそもそも少ない。だから落下点の予測が遅れる。その結果、対戦相手は日本を困らせようとロングボールを多用した戦術で挑んでくる。これは今後の課題になっていくだろう。

インドネシア戦で見えた光

 痛恨だったイラク戦の黒星だが、良薬は口に苦しとはこのことかと思わせられる側面もあった。日本はこの結果により、連勝時には自分たちでも気づいていなかった細かい部分の修正に取り組んでいく必要性に気づかされた。イラク戦から2日後の21日の練習前に行ったチームミーティングでは、多くの選手が各局面について意見を述べ、寄せる時のあと一歩、あと半歩の距離までこだわる意識を共有したという。

 こうして迎えたGL第3戦のインドネシア戦は、ミーティングの成果が出た。日本は立ち上がりから前へのアクションを見せ、主体性を持ってゲームを進めた。4-1-4-1の布陣で2列目に位置した久保建英と堂安律のレフティーコンビが流動的にポジションを変えながら高い位置で連続攻撃を仕掛け、インドネシアにほとんどサッカーをさせなかった。

 また、今大会初先発の上田が2得点に加えてオウンゴールを誘発するシュートを打ち、実質ハットトリックとも言える活躍を見せた。FWの得点は決勝トーナメントに向けてチームを大いに活気づかせるものだった。

 チームマネジメントの観点で言えば、森保監督がGL3試合で三笘薫を除く全フィールドプレーヤーを使ったことが目を引いた。GL突破が決まっていなかったインドネシア戦でイラク戦から8選手をターンオーバーした大胆な選手起用を敢行し、3-1と勝利を収めたことは、選手のフィジカルコンディション維持はもちろん、メンタルコンディションの向上にもつながる。これに関しては森保監督自身も「19年大会ならこういう起用はできなかった。自分も経験を積んで度胸がついたのだと思う」と語っている。

 その中で多くの人が気がかりとして感じているのは、逆風にさらされながらもメンバー26人の中でキャプテンの遠藤と並んでGL全3試合に先発した21歳のゴールキーパー、鈴木彩艶のことだろう。森保監督は鈴木を起用し続けていることにについて報道陣に「試練を与えて勝利に貢献して成長してもらいたい思いがあった」と意図を説明している。期待値のとてつもない高さに応え始めるかのように、鈴木はインドネシア戦でようやく彼本来の持ち味を出してきた。後半9分、相手FKに対して前に出て行ってボールをキャッチし、パントキックで前線のスペースを狙い、堂安律にピンポイントでロングパスを供給したシーンだ。鈴木ならではのスーパープレーは彼の好調のバロメーターでもあり、落ち着きや慣れが出てきたことを感じさせる。

2011年以来となる悲願のアジア制覇へ

 決勝トーナメント1回戦の相手はGL第3戦でヨルダンに勝利し、E組1位になったバーレーンに決まった。システムは4バックが基本。フィジカルを前面に押し出すスタイルではなく、対戦の可能性のあった韓国やヨルダンと比べると比較的与しやすい印象だ。GL3試合でアジアの厳しさを痛感した経験を踏まえれば油断は禁物だが、日本が目標とする優勝に向けてはここからが勝負。左足首負傷の影響でまだベンチ入りできていない三笘の回復具合について森保監督は「想定通り」と話しており、バーレーン戦から出てくる可能性が見えている。

 三笘が出れば否が応でも相手は三笘を警戒する。そうすれば久保に対するマークが軽減されることにもなるだろう。アジアの頂点まであと4試合。GL3戦で得た経験を糧に、総力で突き進む姿に期待したい。


矢内由美子

北海道大学卒業後、スポーツ新聞記者を経て、06年からフリーのスポーツライターとして取材活動を始める。サッカー日本代表、Jリーグのほか、体操、スピードスケートなど五輪種目を取材。ワールドカップは02年日韓大会からカタール大会まで6大会連続取材中。AJPS(日本スポーツプレス協会)会員。