さまざまなメディアで順位予想が花盛りのこの時期。セ・リーグの展望記事や評論家の分析では「阪神連覇」が大勢を占め、昨季より評価の低さが目立つのがDeNAといったところだろうか。

 確かに、昨季の阪神はそれだけインパクトのある強さを見せた。総得点555はリーグ1位。防御率はリーグ唯一の2点台となる2.66(2位の中日が3.08)。得失点差は131と投打において隙のない戦いぶりだった。戦力面では、岩崎とダブル守護神として期待されるゲラを補強したものの、他に大きな変化はなし。逆に、主力が抜けることなく、大きな補強も必要がない体制を整えているチーム、というのが一般的な捉え方といえる。

 しかし、オープン戦は思わぬ結果に終わった。昨季リーグ最下位だった中日がソフトバンクと並んで勝率第1位。阪神は3勝14敗1分けの勝率.176で最下位に低迷し、球団ワーストとなるオープン戦開幕から9連敗を喫するなど、最後まで苦しい戦いが続いた。

 他の5球団との差が顕著だった投手陣は、昨季8勝にとどまった青柳の復調、高卒2年目の門別の台頭も期待され、大きな不安要素はない。キャンプやオープン戦で石井、島本、湯浅らの調子が上がってこない救援陣の現状はあるが、新加入のゲラ、オリックスから加入した漆原、3年目の桐敷らが補う働きを見せており、大きなマイナスにはならなそうだ。

 一方で、楽観視できないのが打撃陣。昨季軒並み好調を維持していた主軸に不安が続出しているのだ。佐藤輝は4位の打率.270、3本塁打と結果を残したものの、4番候補の大山は下半身に張りを抱え最後の4試合を欠場。森下も右足の負傷で2試合を欠場して最終戦は代打での出場となった。そして、何より心配されるのが昨季不動の1、2番で打線を支えた近本と中野。近本は蓄積疲労で最後の2試合を欠場し、中野は打率.130でオープン戦を終えた。昨季の阪神は打順別で1番がリーグ1位の打率.277、2番が同2位の.284(1位は巨人で.293)。2人がリーグトップの555得点を挙げた攻撃を牽引しただけに、その状態がどこまで上がってくるかに打線の浮沈がかかっているといっても過言ではない。

 また、オープン戦で目立ったのが他球団の「四球力」への警戒感だ。昨季の阪神は両リーグ最多の494四球を選び、前年から136個も増やしたことで得点力向上につなげた。その裏には四球を安打と同等に評価する「四球査定」があり、これを今季も継続している。今期のオープン戦でも、チームとして12球団最多の57四球を選ぶなど「四球力」は健在だが、打者によってはそれを相手バッテリーに逆手に取られている面があるのも確か。昨季、18から57に激増させた中野は、その例で、オープン戦では16試合で4四球のみ。初球でカウントを取りに来た球を見逃す場面が見られた。

 当初は「この時期の試合で勝ち負けは気にしない」と泰然自若としていた岡田監督だが、オープン戦を終え「ある程度ゲームできるようになれば」と近本らの状態に心配顔を浮かべる。もちろん、オープン戦の順位は2021、22年のヤクルトがともに最下位に沈みながらペナントレースを制したように、直結するものではない。阪神も昨季は8位だった。とはいえ、岡田監督の戦術を他球団がかなり研究してきているのは明らか。主軸の状態がなかなか上がってこない点と合わせて、他球団が差を縮めてくる余地は十分にあるといえるだろう。

 あくまで、昨季の王者である阪神が戦力的にも、V候補として最右翼にいることは間違いない。ここで指摘した要素も、あくまで連覇への課題を挙げるなら…という王者だからこその“重箱の隅”といえるかもしれない。その中で、阪神に迫れるチームとして注目したいのが、最下位予想をする評論家も多く下馬評の低いDeNAだ。

 オープン戦でのDeNAは、それだけの「伸びしろ」を感じさせた。まず顕著なのが足を使った攻撃。オープン戦の盗塁数は24で2位の日本ハムに6差をつけて断トツ。数字に表れない次の塁を狙う走塁意識も随所に見られた。昨季は打点王と最多安打の2冠に輝いた牧、首位打者の宮崎を擁しながらチーム得点はリーグ4位の520にとどまった。盗塁33個はリーグ最少、成功率.559(59企図)はリーグワースト。そんな弱みを克服すべく、オリックスと楽天でコーチを歴任した佐竹学氏を走塁担当のアナリストに招き、通算358盗塁の石井コーチとともに 、一発や連打に頼る“打のチーム”からの脱却を果たそうとしている。

 新戦力の台頭も目覚ましい。ドラフト1位・度会(ENEOS)が打率.434で新人では2014年の井上に次いで2人目のオープン戦首位打者に輝くなど、1番打者として期待以上の存在感を見せた。昨季は1番打者の打率が.221、出塁率が.287と、いずれもリーグワーストだっただけに、不動のリードオフマン候補が現れた意味は大きい。また、ドラフト4位の石上(東洋大)は規定打席未満ながらも打率.327、1本塁打、12球団トップの5盗塁をマーク。投手ではドラフト4位の松本凌(名城大)が4試合に登板して防御率2.25と安定感を見せ、勝ちパターンの救援に名乗りを上げた。

 昨季7勝のエース今永が米大リーグのカブスに移籍し、昨季10勝のバウアーはメジャー復帰を目指す中、2人の穴を今季のDeNAが苦戦する最大の要因として挙げる向きは多い。しかし、オリックスを戦力外となった中川颯、ソフトバンクから加入した森唯がオープン戦で先発として結果を残し、新外国人のジャクソンは最速158キロの直球を武器に圧巻の投球を披露。特にジャクソンは若き有望株として米国でも注目されていた逸材で、球団幹部も「エース候補」と大きな期待を寄せる。

 最大の課題だった新しい攻撃の形、新戦力の台頭と、オープン戦で最も充実した形を見せたといえるDeNA。3年目の梶原がオープン戦で2戦連続の逆方向弾を放つなど覚醒の予感を漂わせ、昨季22試合の出場に終わったオースティンが順調に調整を進めるなど、現有戦力の上昇が見込めるのも好材料だ。昨季は優勝予想をした評論家も多かったが、実は今季のチームにこそ、単に戦力の字面だけを追っていては見えてこない“ダークホース”としての魅力がある。そもそも、昨季、他チームが大きく負け越す中、阪神と12勝13敗と対等に渡り合った唯一のチームでもあった。

 ちなみに、DeNAには日程面のアドバンテージもある。4月の2週目から5月の3週目まで毎週木曜日の試合がなく、当面は先発5人でまわせるのだ。この優位性を生かし、苦手なスタートダッシュを決めれば、優勝争いに絡んでいける可能性は十分にあるだろう。


VictorySportsNews編集部