文=竹田聡一郎

平昌五輪から採用される親しみやすく、シビアな新種目

 女子は98年長野五輪から6大会連続で、男子は長野五輪以来20年ぶりでそれぞれ五輪出場を決め、フィギュアスケートに続いて冬季スポーツの大きなコンテンツとなりそうなカーリングだが、もうひとつ、平昌五輪への道が残されている競技をご存知だろうか。

 平昌五輪から正式種目として採用されたミックスダブルス(以下MD)である。

 4人制の世界選手権(男子)が、1971年に初開催されているのに対して、MDは08年のフィンランド・ヴィエルマキ大会が初開催という比較的、歴史の浅い競技だが、気軽にプレーできることと点が入りやすい独自のゲーム性を理由に、世界中で多くのカーラーに親しまれている。

 平昌五輪の予選も兼ねた今回の第10回世界選手権(4月22~29日/カナダ・レスブリッジ)には地元カナダをはじめ、スイス、アメリカ、デンマーク、中国といった4人制の世界戦の常連でもある国の他、スペインやクロアチア、ポーランドやセルビアといったあまりカーリングのイメージのない国、さらにはブラジルなんていう南半球の国も名を連ねているくらいだ。

 そのルールだが、男女のペアで8エンドゲーム。ハウス内とセンターラインにストーンを置いた状態でエンドがスタートし、エンドごとに5投を投げる。片方の選手が1投目と5投目を、もう一方の選手は2-4投目を担当する。両チーム合わせて3投目まではテイクが禁止。といったあたりが主なものだが、さらにそれぞれのチームに1ゲームで1度、後攻時に「パワープレー」というコーナーガードを使う宣言ができる、という昨季から導入された新ルールも存在する。

 文字ではなかなかイメージできないかもしれないが、ごく簡単にいうとガードを置いた状態で始まる石の貯まりやすいゲームである。3月に日本代表を決めた『第10回 全農 日本ミックスダブルスカーリング選手権大会』では、スティールや複数得点を記録したエンドが全体の7割を超える“乱打戦”のようなゲームが多かった。

 ショットもMD特有のハウスを狭くする縦に石を積んでゆく、カマー、フリーズ、タップなど精緻なウェイトが求められるものが多く、場面によっては幅よりアングルが重視される。ドローとテイクを使い分ける4人制とは違い、一切、テイクを使わないエンドすら珍しくない。1投のミスが大量失点を招くシビアなゲームという側面もある。

世界選手権に挑む阿部晋也と小笠原歩の「チーム阿部」

©竹田聡一郎

 日本代表はチーム阿部、北見市常呂町出身の阿部晋也と小笠原歩のペアだ。

 阿部は札幌4REAL、小笠原は北海道銀行フォルティウスという4人制の強豪チームに所属しているが、平昌五輪の国内代表選考を兼ねた2月の日本選手権で敗れてしまったため、JCA(日本カーリング協会)が特設した推薦枠で前述のMD日本選手権に挑戦した。

 慣れないレギュレーションや未知の戦術に苦労はしたが、小笠原はソルトレイク、トリノ、ソチと3つの五輪を経験してきた国内最高のスキップの一人である。また、阿部は小笠原と共にトリノに、バンクーバー五輪にも、それぞれ代表コーチとして帯同した戦術家だ。彼らの経験と、小笠原の「置きたいところに置けば結果はついてくる」という言葉どおりの圧倒的なデリバリー技術をベースに優勝を果たし、まずは今回の世界選手権の切符を獲得した。

 平昌五輪への道だが、MD出場国は8カ国。開催国の韓国を除くと実質、7カ国で競われる。五輪から逆算した2大会、つまり昨年の2016スウェーデン・カールスタード大会と、今回のカナダ・レスブリッジ大会の結果によって国別に振り分けられるオリンピックポイントの合計の上位国が出場権を得るのだ。

 カールスタード大会には2016年のMD日本選手権で優勝したチーム札幌(蒔苗匠馬、荒木絵理ペア)が出場したが、惜しくも予選敗退。オリンピックポイントは獲得できなかった。ポイントを得たのは、優勝のロシア(14点)、2位の中国(12点)、3位のアメリカ(10点)、4位のイギリス(9点)など、11カ国。今回のレスブリッジ大会で各国が収める成績にもよるが、平昌へのボーダーラインは9点ないし10点と予想される。つまり日本にはベスト4という暗黙のタスクがかけられている。

 その大事な今大会の参加は39カ国。これを8、あるいは7チームの5グループに分け、各組3位までの計15ペアと、ワイルドカードの1チームを加えた16カ国がプレーオフに進出する。

 日本の入ったAブロックには、対戦順にラトビア、ブラジル、クロアチア、ベラルーシ、ハンガリー、エストニア、フィンランドがいる。

 WCF(世界カーリング機構)が定める4人制の世界ランキングでは、日本男子は9位、女子は7位にランクされている。それをベースに考えると日本の次がフィンランド(男子12位女子14位)、さらにラトビア(男子17位女子16位)で、男女共に20位以内にランキングされているの国は他にはない。

 まずは組み合わせに恵まれた、と言いたいところだが、今回の世界戦に帯同する長野五輪のオリンピアン・佐藤浩コーチは「ランキングが下といっても技術がある選手が2人いればいいチームになってしまうのがミックスの怖いところ。蓋を開けてみなければ分からない。それよりもまずは(阿部、小笠原の)2人ができるだけ早く現地のアイスに対応して、ミックスダブルスの戦い方を掴めるかが大事」と警戒を怠らない。一戦必勝の構えで大会に挑む。

 女子、男子に続いてカーリング全3種目、フルマークでの五輪出場なるか。阿部、小笠原の新たな挑戦をぜひ応援してほしい。

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竹田聡一郎

1979年神奈川県出身。フリーランスライター。著書に『BBB ビーサン!! 15万円ぽっちワールドフットボール観戦旅』『日々是蹴球』(講談社)がある。カーリング09年から取材を始め、Yahoo!ニュース個人で「曲がれ、ストーン!」を連載中。https://news.yahoo.co.jp/byline/takedasoichiro/